炬燵で寝落ちとマックスの愛?
「はあ、それじゃあご馳走さん。あとはまあ、期限一杯まで頑張って作ってくれよな。困った事があれば、いつでもギルドへ相談に来てくれて構わないからな」
「ああ、今日もご馳走様。まあ、雪像作りは、あそこまで出来れば後はもう大丈夫だろうさ。頑張って良いのを作ってくれよな」
「はあい、ありがとうございました」
俺の言葉に、部屋にいた全員の声が重なる。
結局、今夜もヴァイトンさんとエーベルバッハさんは帰るというので、玄関まで見送りについていく。
「それじゃあ、お気をつけて! うう、寒い!」
今夜もベリー達が念の為見送ってくれるというのでお願いしておき、ランタンの明かりが遠くなるまで見送ってから扉を閉めて部屋に戻った。
「はあ、お疲れさん。それじゃあ今夜はベッドで寝たいからもう休むよ」
すっかり綺麗になってる机の上を見て小さく笑った俺は、まだのんびりと赤ワインを楽しんでいるハスフェル達にそう言って手を振った。
「おう、確かに俺達も今夜はベッドで寝たいよな」
顔を見合わせて笑った彼らもそれなら部屋に戻るというので、今夜はそこで解散になった。
「それじゃあ、おやすみ」
廊下でそう言って笑い合い、俺は自分の部屋へ戻って行った。
「はあ、やっぱり和室が落ち着くよ」
部屋に戻った俺は靴と靴下を脱いで裸足になると、サクラに綺麗にしてもらってからまずはそそくさと炬燵に潜り込んだ。
それを見て、ニニとカッツェが俺を挟んで一緒に炬燵に潜り込んでくる。
そのまましばらく、俺は暖かいもふもふを堪能していた。
「ニニが以前みたいに全身を炬燵に潜り込もうと思ったら、もうちょいデカいのを作ってもらわないと入れないな。だけどこのぎゅうぎゅうになってくっついて入ってるのも、またいいんだよなあ……」
もふもふのニニの腹毛にもたれかかりながら、そう言って笑った俺は大きな欠伸をする。
「ふああ、駄目だって……今夜はベッドで寝るって……」
小さくそう呟いた時、ベリーの笑う声が聞こえて何とか目を開ける。
「おかえり、ベリー。寒いのにご苦労様……」
「はいただいま。お二人とも無事にギルドへお帰りになりましたよ」
「あれ? 家じゃなくて、ギルド?」
「ええ、どうやらまだ仕事が残ってるみたいでしたね。でも岩豚を食べられたから頑張るって言って笑ってましたよ」
「あはは、それなら良いけど……忙しいのに、申し訳ない事したなあ……」
なんとか会話出来たのはここまでだった。
炬燵と巨大猫のもふもふの腹毛のコンボに、俺はなす術も無く飲み込まれてしまい、眠りの海へ垂直落下して行ったのだった。
ベリーの笑う声が聞こえたけど、うん、仕方がない。これは不可抗力だよな。
ぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
こしょこしょこしょ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん……起きる……」
翌朝、いつものモーニングコールに起こされた俺は、半ば無意識に返事をしてもふもふに潜り込んだ。
「うん……なんかいつもと、違う気がするけど……まあいいや……」
そしてそのまま当然二度寝。
ぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクチク……。
こしょこしょこしょこしょ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、起きてる……ううん、この違和感は何だ?」
寝ぼけた頭でよく分からない違和感について考えていると、いきなり頬と首筋と額を思いっきり舐められた。
ザリザリザリザリ!
ジョリジョリジョリジョリ!
ベロ〜〜〜〜ン!
「ふぎゃ〜〜〜〜〜!」
情けない悲鳴を上げて慌てて起き上がる。
「ご主人起きた〜〜〜!」
「やっぱり、私達が最強よね〜〜!」
「そうですよね!」
そこにいたのは、何故か巨大化したソレイユとフォールと、それから同じくらいの大きさになったティグだったのだ。
「おう、最後のベローンは、もしかしてお前か〜〜〜!」
笑いながら巨大化しているティグに飛び掛かって、その俺よりも遥かに大きな顔をおにぎりにしてやる。
「ううん、この大きさをおにぎりにするのは、なかなかに至難の業だぞ」
そう言って、両頬のあたりを力一杯掴んで引っ張ってやる。
「あはは、ティグの頬もなかなかによく伸びるじゃんか。ううん、だけど若干皮膚が硬い気がするなあ。やっぱり一番柔らかいのはニニだよな」
ティグの首に抱きつくみたいにしてしがみついて引き起こしてもらい、周りを見てようやく違和感の正体に気が付いた。
「あはは、昨夜は炬燵で寝落ちしたのか。だけどニニとカッツェにサンドされたら、そりゃあ寝落ちしても仕方がないってな」
苦笑いしてそう言い、大きく伸びをしてから立ち上がった。
「ふああ、さて、顔洗ってくるか」
大きな欠伸を一つして、それから廊下へ出ようとしてふと気がつく。
マックスが、一匹だけ部屋の隅っこで小さくなって座っていたのだ。
「どうしたんだ? そんな隅っこで。寒いだろう?」
しかし、俺の呼びかけになんとマックスがそっぽを向いたのだ。
「ええ、おいおい、どうしたんだよ?」
慌てて駆け寄り、顔を覗き込む。
すると、マックスは前足の間に顔を埋めてしまった。
「ええ、どうしたんだよ。なあ、顔上げてくれよ」
なんとか首の辺りにしがみついて、後頭部に顔を寄せて話しかける。
「だって、ご主人……」
「うん? 俺がどうかしたか?」
消えそうな声で、ちょっとだけ顔を上げたマックスが俺を見ながら口を開く。
「ご主人、ニニとカッツェにくっついて、すっごく幸せそうで……」
やや上目遣いにそう言われて、俺はちょっと遠い目になった。
「そういう事か〜〜〜! あれは不可抗力だって。寝落ちしただけでわざとじゃない! お前がいらなくなるわけが無いだろうが〜〜〜〜!」
マックスにしがみついて、首の周りを指を立てて力一杯掻いてやる。
「ご主人!」
急にガバリと飛び起きたマックスが、嬉々として俺に飛び掛かってきてものすごい勢いで俺を舐めまわし始めた。
「どわあ〜〜! ちょっと待って。お前よだれでベタベタじゃんか! 待て待て! ステ〜〜〜イ!」
俺の叫びに我に返ったマックスが、すぐに離れて良い子座りになる。
よしよし、本当にちゃんと躾けてて良かったよ。
起き上がった俺は、側にいたサクラに綺麗にしてもらってから、改めてマックスに抱きついて一晩ぶりのむくむくを堪能した。
「ご主人! ご主人! ご主人!」
その間中、すっとそればかり言い続けてじっと良い子座りをしていたマックスの尻尾は、ものすごい勢いの大回転扇風機状態だったよ。
ううん、嬉しいんだけど……マックスの愛がちょっと重いぞ!