モモンガもふもふ
「いきますよご主人!」
ファルコがその声と共に大きな木に向かって急降下して来た。そのまま勢い良く木々の周りを翼を広げて飛び回った。
次の瞬間、そのファルコから逃れるように、穴から大きなモモンガ(?)が飛び出して来たのだ。
そのうちの一匹が、俺のいる横の木に向かって飛んでくる。
「よし来た!」
叫んだ俺は、持っていた剣の側面をモモンガに向けて思いっきり振った。
見事にヒットして、モモンガが叩き落される。
俺は、大急ぎでモモンガが落ちた茂みに駆け寄った。
茂みの中で小さく縮こまったモモンガを見つけて左手で掴んで引っ張り出し、そのまま目の高さまで持ち上げた。
「よしお前、俺の仲間になるか?」
「はい、貴方に従います」
いつものように光った後、妙に可愛い声でモモンガはそう答えた。何と、この子も雌だったみたいだ。
「ええと、じゃあ紋章はどこに付ける?」
右手を見せながら聞くと、モモンガは首を上げて両手を飛ぶ時のように伸ばした。
「ここにお願いします!」
胸元を示すので指で突っついて確認してからそこにそっと手を当てた。
「お前の名前は、アヴィオンな。あ、アヴィって呼ぶ事にしよう」
フランス語で飛行機って意味だ。まあ、飛ぶんだし良いだろう。
「ありがとうございます。ご主人!」
もう一度光ったモモンガは、みるみる小さくなって俺の掌にすっぽり収まるサイズになった。
「うわあ、小さくなった!」
それを見ていたクーヘンが驚きの声を上げる。
笑ったハスフェルがクーヘンに、テイムしたジェムモンスターは自分の体を任意の大きさに変える事が出来る説明をしているのを見て、俺は新しく仲間になったアヴィをマックス達に紹介して回った。
「お前の定位置は何処にする?」
ちょっと考えたアヴィは、ラパンが普段潜り込んでいるマックスの首輪に付けられたネットの隙間にしがみついた。
「ここが良いです!」
「ええと、一緒でも大丈夫か?」
ラパンに聞いてやると、軽々と跳ねて自分のいつもの網の中に潜り込んだ。
「よろしくねー!」
「よろしくお願いします!」
何やらマックスの背中の上で、仲良く挨拶している声が聞こえて来た。
「ご主人、大丈夫ですよ。ゆったり余裕をもって作ってくださったので、一緒でも窮屈じゃ無いです」
ラパンの声が聞こえて、二匹の嬉しそうな笑い声も聞こえて来た。
ラパンが、また跳ねて戻ってきて、アヴィはマックスの背の上から体を広げてこっちに向かって飛んで来た。しかし、その時俺は飛び降りてきたラパンを見ていたので、アヴィの初飛行を見逃していた。
「ふぎゃ!」
顔を上げたところで、いきなり毛の塊が俺の顔面に激突してそのまま張り付いたのだ。
「なにこれ、何のご褒美?」
俺の顔面は、アヴィの腹が張り付いてふわふわのふかふかだ。ただし、しがみつかれている爪が地味に痛い。
笑って、名残惜しいがそっと顔から剥がして腕にしがみつかせてやった。ほぼ、リアルモモンガサイズなので、腕にひっついてても邪魔にならないので問題無い。
「うまくテイム出来たね。じゃあクーヘンにもやらせてみれば良いよ」
俺の右肩に戻っていたシャムエル様の言葉に、俺も頷いた。
「だな、クーヘン、分かったか? 今みたいに弱らせて捕まえるんだよ。ほら、やってみな」
呆気にとられて俺を見ていたクーヘンは、その言葉に我に返ったように何度も頷いた。
「で、では、やってみます」
若干腰が引けているが、短剣を鞘ごと持って前に出てきた。
「ファルコ、もう一度追い出してやってくれるか」
上空に向かってそう叫んでやると、応えるように高い声で鳴いた。
「ではもう一度いきますよ!」
声が聞こえて一気に急降下してきた。再び、翼を広げて木々の間を飛び回る。
逃げる様に幹からまたモモンガが飛び出す。
「ほら来た!」
励ます様にクーヘンの背中を叩いてやり、黙って見守ることにした。
クーヘンは精一杯伸び上がって、飛んで来たモモンガを鞘付きの短剣で叩き落とした。
茂みに突っ込んだモモンガを追いかけて、慌てて駆け寄り引っ張り出した。
目を回したモモンガは、クーヘンの腕にしがみついたまま固まってしまった。
「ええと、仲間になれ!」
……沈黙。
「あれ? 反応が無いぞ?」
俺とハスフェルが心配そうに見守っていると、掴まれたモモンガは嫌がる様に身じろぎをしてクーヘンの手から逃げようとしている。
どうやら、弱らせ方が足りなかったみたいだ。
「逃げられないように、もっとしっかり掴むんだよ。逃すんじゃ無いぞ!」
ハスフェルの大声に驚いた彼は、掴んでいたモモンガを力一杯掴んでしまった。
「みゅう……」
小さな情けない声を上げて、モモンガがぐったりしてしまった。
「おいおい、テイムせずに絞め殺すつもりか?」
呆れた様なハスフェルの声に、クーヘンは、慌てて手を離して何度も撫でてやる。
ようやく息が出来るようになって目を開いたモモンガは、クーヘンを見て急に大人しくなった。
「ええと、私の仲間になれ!」
クーヘンがもう一度そう叫ぶと、モモンガは一気に光った後、彼と同じくらいの甲高い大きな声で答えた。
「はい! お願いします!」
どうやらこの子も雌だったようだ。拍手する俺たちを振り返って、クーヘンは満面の笑みになった。
「ほら、名前をつけてやらないと」
指で俺のモモンガを突っついてそう言ってやると、困った様に俺を見上げた。
「そんな急に言われても、思いつきません!」
半泣きで言われて俺達は吹き出してしまった。
「じゃあ、フラールってどうだ?」
フランス語でスカーフって意味だ。
「ああ、良いですね。ではそれをいただきます!」
嬉しそうに笑ったクーヘンは、掴んだままだったモモンガに向き直った。
「お前の名前は、フラールだよ。よろしくなフラール」
すると、もう一度光った後、さっきと同じように小さくなった。
「よろしくです!ご主人!」
その声に嬉しそうに笑ったクーヘンは、自分の左肩から腕の部分に掴まらせてやっている。
「良かったな。上手くいって」
笑った俺は隣へ行って腕を伸ばして並べてみた。モモンガが二匹並ぶとこれまた可愛い!
顔を見合わせた俺達は笑って手を叩き合った。
「成る程、何となく分かったような気がします。次はもっと上手くやります」
笑顔のクーヘンに、俺も親指を立てて拳を差し出す。
彼も拳を突き出してきたので、コツンとぶつけ合ってもう一度笑い合った。
どうやら無事に、テイマーが一人誕生したようだね。