雪像作りと夕食準備
「そうそう、そんな感じで固まった雪を削って行くんだ。上手いぞ」
エーベルバッハさんの言葉に揃って振り返った俺とハスフェルは、ちょっとだけドヤ顔になった。
二班に分かれてお試しの雪像作りを開始したんだけど、これが案外面白かったんだよ。
エーベルバッハさんに教えてもらった通りに、先の尖った小さなスコップでザリザリと固めた雪を削って形を作っていくんだけど、俺とハスフェルとギイが削る係で、オンハルトの爺さんは全体を見てはどこを削るかの指示を細かく俺達に出してくれる係だ。
しかしさすがは鍛治と装飾の神様。どうやら武器や装飾品だけに限らず創作物全般が得意分野だったらしく、そもそもろくなスケッチすら出来ない俺達とは違って、オンハルトの爺さんの頭の中には、完全な立体になったドラゴンのシャムエル様の姿の見本があるみたいだ。
いつの間にかオンハルトの爺さんの手には大きなノートがあり、いつの間にかそこにはこの雪のブロックに描かれたのと同じドラゴンのスケッチがいくつも描かれていたのだ。
このスケッチを見せながら、時にはその場でスケッチを描きつつどこをどんな風に削るかの指示をかなり具体的にしてくれている。
そこで俺達は、雪のブロックの塊の左右と後ろ側に分かれて、まずはオンハルトの爺さんに言われるままに雪をちまちまと削り続けているのだ。
案外こういったコツコツ系の地味な作業が好きな俺は、かなり楽しんで作業をしていたよ。
時折エーベルバッハさんともスケッチを見ながら楽しそうに話をしつつ、オンハルトの爺さんもとても楽しそうにしていた。
一方、アーケル君のスケッチしたブロックで雪像作りを始めたリナさん一家とランドルさんの混合チームも、なかなかに頑張ってるみたいだ。
こちらはヴァイトンさんが指導を担当してくれていて、アーケル君がその補佐役って感じだ。ちょっと意外だけど案外器用なアーケル君ならこれくらいは当然なのかもしれない。
皆楽しそうに、ああでもないこうでもないと言い合いをしながらせっせと雪を削っていた。
その日はそんな感じで丸一日延々と雪を削り続け、なんとなくそれっぽい形にまで削る事が出来て皆で手を叩き合って大喜びしたよ。
この調子なら、頑張ればそれなりの物が作れそうだ。
なんでも、あの大きな土台で作る雪像だけど、別に一体だけである必要は無く、小さいのをいくつか作って並べるのでも構わないらしい。なので俺達はその作戦で行く事にした。
メインは今作っている二頭のドラゴンで、これは様子を見ながら雪のブロックをもう少し追加して雪像自体を大きくしても良さそうだと思っている。
それで、俺達が描いた角と尻尾の生えた雪だるまのスケッチが残るブロックで、作れそうなら後で他にも雪像を作ってみる事にしたのだ。
そこで早い冬の日暮れの時間になり、時間切れで本日の作業はここまでになった。
「じゃあ、今夜も一緒に食べましょうよ!」
結局丸一日付き合ってくれたエーベルバッハさんとヴァイトンさんの二人に、今夜も夕食をご馳走する事にした。
「ええと、また岩豚でいいですか? それとも別メニューの方がいいですか?」
何にしようか考えつつそう尋ねると、お二人が答えるより先にハスフェル達が一斉に答えた。
「岩豚でお願いします!」ってね。
エーベルバッハさんとヴァイトンさんも最初は恐縮していたんだけど、岩豚の魅力には抗えなかったみたいで、最後には『岩豚でお願いします!』って、ハスフェル達と声を揃えて答えてたよ。
「あはは、了解。それじゃあ何を作ろうかなあ」
とりあえず、走り回って遊んでいた従魔達を全員回収してから、皆で一緒にお城の中へ戻る。
昨日と同じリビングに戻った俺は、装備を解いてサクラに手を綺麗にしてもらいつつ何を作るか考えていた。
「よし、俺が食いたいから豚丼にしよう。味付けは照り焼き系で良いよな」
メニューが決まれば作るだけだ。
リビング横の広いキッチンに入った俺は、鞄に入ってくれたサクラにお願いしてまずは材料を取り出していく。
「岩豚はバラ肉の塊を出してくれるか。ああ、良いね。それでいこう。それ全部をこれくらいの厚切りにしてくれるか」
取り出してくれた大きな岩豚のバラ肉は、一枚だけ見本を切って見せればあとはスライム達はやってくれる。
「ご飯はまだまだあるから、先にタレを作るか。それで一気に焼けばいいな。付け合わせは、味噌汁と箸休め用のお惣菜が幾つかと浅漬けくらいでいいな。今夜もガッツリ肉がメインだからな」
にんまりと笑った俺は、そう呟いてまずは醤油と砂糖と味醂とお酒を取り出して照り焼き用のタレをたっぷりと作っっておいた。
それから、フライパンを並べて厚切りにしたバラ肉を並べて準備を始めたのだった。