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朝食と雪像作りの開始

「あれれ、ちょっとお粥の在庫が心許ないなあ。よし、即席で追加のたまご雑炊でも作っとくか」

 取り出したお粥の量が思ったよりも少ないのを見て苦笑いした俺は、少し考えて作り置きの二番出汁の入った大鍋を取り出した。

「さすがにこれ全部は要らないか。それじゃあ、あの大きな土鍋で作るか」

 ここで買った陶器製の一番大きな土鍋を取り出し、二番出汁をたっぷりと入れて火にかける。

「具はシンプルに、ネギと卵だけでいいな」

 生卵の入ったカゴを取り出しておき、まずは沸いてきた二番出汁に醤油と料理用のお酒とみりんを入れる。それから塩少々。味は全体にいつもの鍋を作る時よりも薄めだ。

「ううん、薄味でいいと思うんだけど、もうちょっとだけ醤油かな」

 軽く味見をして、もう少しだけ醤油を足してからご飯の入ったおひつを取り出して、しゃもじがわりの大きなスプーンでご飯をすくって土鍋に入れていく。

「ええと、こんなもんかな」

 少し緩めの雑炊になるように、入れるご飯の量はいつもの雑炊よりもやや控えめだ。

 軽く混ぜてご飯をほぐしている間に、スライムに頼んで生卵を割って溶いておいてもらう。

「一煮立ちさせたら、溶き卵を回しかけて強火で一気に卵に火を通すよ。それで火を止めてからネギを散らせば完成だ」

 ちょうど出来上がったタイミングで、顔を洗って身綺麗になったハスフェル達が戻ってきた。一旦部屋に戻ったリナさん達がそれに続く。

「遅くなりました!」

 すぐにアーケル君達とランドルさんも戻って来たので、全員揃ったところで大鍋に入った鶏団子と白ネギの入ったお粥と、出来立てのたまご雑炊を出してやる。

 大喜びで、お椀を手に鍋に群がり争奪戦が始まる。俺も慌てて自分のお椀を取り出して争奪戦に参加したよ。

 一応、いつもの簡易祭壇に俺の分のたまご雑炊と麦茶をお供えしてから席に着く。

 シャムエル様はたまご雑炊ご希望だったので、そのまま俺のところから少し冷めたたまご雑炊をお椀にたっぷりと入れてやる。

「ううん、食う前にすでに半分以下になったぞ。もうちょい入れてこよう」

 どう見ても半分以上入った気がするんだけど、あのお椀にそんなに入るかな? 若干納得出来ない部分もあるが、まあ神様のする事だもんな。で済ませておいたよ。




「はあ、美味しい。いつもながら、飲んだ日の翌朝に出てくるお粥の有り難い事……」

「ですよねえ、本当に有難いですよね」

「このたまご雑炊なんて、優しい味で疲れた胃に染み渡ります……」

 ランドルさんの呟きに、リナさんとアルデアさんが揃ってそう言い、草原エルフ三兄弟とハスフェル達はものすごい勢いで頷きつつお椀を手にして同意してくれている。

「一応おかずも出してあるから、食べられるならどうぞ」

 一応足りなかったら困るので、揚げ物とか鶏ハムとか、お惣菜やなんかも幾つか出しておいたけど、減ったのはオンハルトの爺さんが取った塩昆布と、俺が取った梅干しだけだったよ。

 さすがの大食漢達も、深酒の翌朝に揚げ物を食う元気は無かったらしい。

 食事の後は、何となくダラダラして過ごし、ヴァイトンさん達が到着したところで全員揃って庭に出ていった。当然厚着してるから全員もっこもこに着膨れてたよ。



「お忙しいのに、続けて来ていただいて申し訳ありませんねえ」

「いやいや、あんな美味いもん食わせてもらったんだから、こんなの何でもないって」

 俺達に比べると遥かに薄着なヴァイトンさんとエーベルバッハさんは、恐縮する俺達にそう言って笑っている。

 見ているこっちが寒くなりそうなくらいの身軽さだけど、まあ、地元民はこの寒さにも慣れてるんだろうきっと。




「さて、昨日作っていた雪のブロックだが、一晩経っていい感じに固まってる。ほれ、この通り」

 手にしたスコップで、俺が積み上げた雪のブロックを手にしたスコップの先でガンガン突っつく。おいおい、割れたらどうしてくれるんだって!

 内心焦る俺に構わず、ヴァイトンさんは鉛筆サイズの一本の大きな筆を取り出した。それから大きな瓶に入った水色の液体。

「このブロックに、まずは今から彫る大体の形を描いていくぞ。左右の横から見た図。前と後ろ、それから上から。それぞれの面に合わせて立体の物をそれぞれの方角から見た時の絵を描いていくんだ。それから、この下書き用の水色のインクは、数日すれば消えてしまうから汚れる心配はしなくていい。失敗したらそこだけ軽く削ればいい。ちなみに、何を作るか決めて……無いのか?」

 困ったように顔を見合わせる俺達を見て、ヴァイトンさんの目が細くなる。

「えっと、創造主様のドラゴンを彫るんですよね?」

「まあ、祭りの趣旨はそうだけど、別に初心者だったらドラゴンじゃあなくても構わないぞ」

 驚きの言葉に、当然ドラゴンしか駄目だと思っていた俺の方が驚く。

「ええ、作る雪像ってドラゴンじゃあなくてもいんですか! って、驚いてるのって、俺だけ?」

 苦笑いするハスフェル達を見てそう尋ねると、笑ったハスフェル達が揃って頷いてた。ちなみに彼らもリナさん達もランドルさんも、当然だけどこのお祭りを過去に見た事があるわけで、そうなると当然どんな雪像が今までに出ていたのかも知ってるわけだ。とはいえ、ドラゴンが圧倒的に多いらしいけどね。

 要するに、具体的に知らなかったのはバイゼンの冬初体験は俺だけだったって事。

 誤魔化すように笑って肩を竦めて、レンタルの道具一式の中にあったペンケースみたいな箱を開けてみた。

 予想通りにそこにあった大きな筆と、小物用の袋の中に入っていた水色のインク瓶も取り出してハスフェル達と顔を見合わせる。

 一応相談の結果、まあせっかくなので今回は全員がドラゴンを作ってみるって事になった。

 だけど、さすがにいきなり描くのは無謀だったみたいだ。



 積み上がった雪のブロックに、俺は必死で思い出しつつ某RPGのドラゴンっぽいのを描いてみた。

 まあ、上手だったかどうかは聞かないでくれ……俺に絵の才能は皆無だったみたいだ。あはは。

 そして全員が自分のブロックに描いてみて分かった。

 意外なのか当然なのか、一番絵が上手かったのは当然だけどオンハルトの爺さん。まあ、鍛治と装飾の神様だもんな。上手いのは当然だって。

 次いで上手かったのが何故かアーケル君だった。この二人の描いた絵は、どこから見てもドラゴンのシャムエル様がそのまま小さくなったかのような見事さだった。まあ、これを彫れるかどうかはまた別の問題だけどな。

 そしてそれ以外の面々は……俺と似たり寄ったりだった。はっきり言って、どれも雪だるまに角と尻尾が生えているレベル。

 無言で顔を見合わせた俺達は、揃って首を振って大きなため息を吐いた。

「まず、作品を作る時の下書き担当は今の瞬間に決定したな。申し訳ないが、出来るだけ作りやすそうな簡単な絵を頼むよ」

 俺の言葉に、オンハルトの爺さんとアーケル君は顔を見合わせて大笑いしていた。

 結局、このサイズでも俺達には一人ひとつは無謀だって事が分かったので、リナさん一家とランドルさんチームと、俺とハスフェル達の2チームに分かれて、俺達はオンハルトの爺さんが描いたのを、リナさん達はアーケル君が描いたのをそれぞれ試しに作ってみる事にしたのだった。

「ううん、本当に仕上がるのか本気で不安になってきたぞ。大丈夫かなあ……」

 彫刻用に使うのだという小さなスコップを手に、俺はため息と共にそう呟いたのだった。

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