いつもの朝の光景？
ぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
ショリショリショリ……。
ふんふんふんふん！
ふんふんふんふん！
ふんふんふんふん！
「うん、起きるって……」
いつものモーニングコールに起こされた俺は、半ば無意識で返事をしながら胸元にいる中型犬サイズになってるグリーンフォックスのフラッフィーを抱きしめた。
ああ、手に当たるこのもふもふの幸せな事……。
密かに笑み崩れた俺は、そりゃあもうこれ以上ないくらいに冬毛でふわふわになってるフラッフィーの尻尾を撫でさすった。
そしてそのまま、気持ちよく二度寝の海へ落っこちて行ったのだった。
ぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクチク……。
ショリショリショリショリ……。
ふんふんふんふん！
ふんふんふんふん！
ふんふんふんふん！
「うん……起きてます……」
寝ぼけたまま半ば無意識で返事をしながら、ふと我に返って慌てる。
まずいまずい。今朝の最終モーニングコール担当はお空部隊じゃないか。早く起きろ俺！ あれは本当に痛いんだって！
しかし、ダラダラ冷や汗をかいてる俺だけど、残念ながら相変わらず目が覚めない。
なんとか起きようと大いに焦っていたら、軽い羽音がして俺の耳たぶと上唇、それから瞼の横の辺りをそれぞれちょびっとだけ齧られた。
「痛い痛い痛いって！」
突然の俺の大声に、胸元にいたフラッフィーが驚いてすっ飛んで逃げて行く。当然だけど、逃げる時に思いっきり俺の胸元と腹を力一杯蹴っ飛ばしてね。
「げふう！」
不意打ちを喰らって情けない悲鳴と共にニニの腹の上から転がり落ちる。
しかも何故か俺はスライムベッドで寝ていたらしく、そのまま落っこちた床に転がって天井を見上げながら呆然と考える。
「あれ？ 部屋が違うぞ？」
ようやくちょっとだけ見慣れた天井と違うそれを見て無言で考えていると、また羽ばたきの音がして俺の額に桃色インコのローザが留まった。
「あれ？ まだ起きてない？ それじゃあもう一回……」
「待った待った待った！ 起きてる起きてるってば！」
今にも噛み付かんばかりに大きく口を開けたローザが見えて、俺は慌てて腹筋だけで起き上がった。
「もう、駄目じゃない。急に起きないで！」
笑ったローザが即座に羽ばたいて俺の額から飛んで逃げる。
「ごめんよ。それで、俺はどうしてまたスライムベッドで寝てるんだ？」
一応部屋には立派なベッドがあるのにどうしてだろうと考えて無言で部屋を見回して、目に飛び込んできた光景に思わず吹き出す。
だってそれぞれの従魔達とくっつきあって熟睡している仲間達の姿を見て、俺はもう笑いを堪えられなかったんだって。
ハスフェルとギイは、それぞれスライムベッドの上で巨大化したジャガー達とくっついて寝ているし、オンハルトの爺さんはスライム達に包み込まれるみたいにして顔だけ出して寝ている。
成る程、以前のスライムタクシーみたいに全身包まれて寝るのもいいかもしれない。あんなふうに顔だけは出しておいて貰えば窒息する心配も無いしな。
リナさんとアルデアさんは、二人揃ってリンクスのルルと同じく巨大化したグリーンフォックスのララとビリジアン、それからピンクジャンパーのテネルに埋もれていて、見えるのは二人の髪の毛だけだ。
そして草原エルフ三兄弟も三人揃ってスライムベッドの上でアーケル君の巨大化した従魔達に埋もれてまだ三人とも熟睡中みたいだ。
「そっか、昨夜はあのまま宴会に突入してそのまま全員寝落ちか。ううん、まあ室内なら暖房もあるし大丈夫だろうけど、気をつけないとうっかり床で寝たら風邪をひくくらいですまないよな。気をつけよう」
ガリガリと頭を掻きながらそう呟いた俺は、大きな欠伸をして立ち上がった。
「とりあえず顔洗って来よう」
もう一回欠伸をしながらまずは顔を洗いに、廊下へ出て水場へ向かった。
それを見て、スライム達がベッドを一瞬で解体して俺の後を追って水場へやってきた。
一応、この時期の水の温度はとんでもなく冷たいので、俺は水遊びには絶対参加しないと言ってある。なので俺が顔を洗い終わるのを皆大人しく背後で待ってくれている。
「ご主人綺麗にするね〜〜！」
いつものようにサクラがそう言って、一瞬で俺を包み込んで綺麗にしてくれる。
「おう、いつもありがとうな。それじゃあ行ってこい！」
そう言ってまずはサクラを水槽に放り込み、次々に跳ね飛んでくるソフトボールサイズになったスライム達を受け止めては水槽に放り投げるのを繰り返した。
「じゃあ後片付けよろしくな」
笑って最後の子を放り投げてから、俺は大急ぎでリビングに戻った。
ちょうどリナさん達が起きて部屋から出て来たところに鉢合わせてしまい。お互い照れたみたいに笑い合って挨拶して、一礼してから早足で仲良く並んで部屋に戻る二人を見送った。うう、リア充め〜〜！
「おおい、起きろよ〜〜〜起きないとヴァイトンさん達が来ちまうって。食いっぱぐれても知らねえぞ」
俺の言葉に気の抜けた返事があちこちから聞こえて、それぞれに寝ぼけながらも起き出す。
「おはよう、顔洗って来いよ。お粥の用意しておくからさ」
笑いながらそう言ってやり、全員を部屋から追い出してやった。
それから、水浴びを済ませて跳ね飛んで戻って来てくれたサクラから、俺は残り少なくなってきたお粥の入った大鍋を取り出したのだった。
