焼肉パーティー!
「ただいま帰りました〜〜〜!」
大急ぎでお城に戻ると、リビングで寛いでいた全員から拍手をされた。
「それでどうだったんだ?」
期待に満ち満ちた目のハスフェルの質問に、俺はにっこり笑って鞄から岩豚の肉を一包み取り出してゆっくりと油紙を剥がして見せた。
「バッチリ引き取ってきたよ。ほらどうだ。もう、見ただけで美味そうだろう。それでどうする? シンプルに焼きながら食べてみるか?」
帰りながら考えてたんだけど、出来れば部位ごとに食べ比べとかしてみたいじゃん。それに、熟成肉をはじめとした他のいろんな肉との食べ比べも面白そうだ。
そうなると、いつものステーキみたいに一気に全部焼くよりは、それぞれ好きに焼いて食べる方が面白そうなので、今夜は焼肉パーティに決定だ。
「ああ、良いなあ。それなら厨房に大きな鉄板があるから、移動式のコンロごと持って来よう」
にんまりと笑ったヴァイトンさんの言葉にハスフェルとギイが立ち上がって一緒に取りに行ってくれた。
成る程、ホームパーティ用にそんなのもあるんだ。
って事で、そっちは彼らに任せて俺はリビングにも備え付けられているキッチンへ向かった。
ここは俺の部屋よりもさらに広いキッチンが併設されていて、当然綺麗にしてくれてある。
なのでここで焼肉パーティーの下拵えをするよ。
「じゃあ、各部位ごとに取り出すから、こんな感じに切ってお皿ごとに分けてくれるか」
集まってきたスライム達に、順番に岩豚の肉を取り出して並べながら、焼肉用にやや分厚めにスライスしてもらう。
他にもグラスランドブラウンブルの熟成肉や、ハイランドチキンとグラスランドチキンの胸肉ともも肉もいくつか取り出して、それぞれ指示して切り分けてもらう。
作業台の上に並べたお皿には、あっという間にいろんな肉がこぼれ落ちんばかりに積み上げられていて、なかなか壮観な眺めだ。だけどまあ、あいつらだったらこれくらいは最低でも必要だろう。
少し考えて、これの倍量をスライム達にお願いして用意して持っていてもらう事にした。まあ、足りなさそうなら様子を見て随時追加を出すよ。
「それじゃあ、後は野菜だな」
キャベツは大きめの乱切りに、5センチくらいに切った白ネギもどきはぶつ切りにしたバラ肉と交互にして串に刺しこれまた大量に作っておく。
「ううん。これは肉の油で焼くと絶対美味いよな。よし、これは俺の前で焼くぞ」
笑ってそう呟き、それから皮を剥いた玉ねぎは輪切りに、キノコも色々と取り出して綺麗にしてほぐしておいてもらう。
まあ、今日のメインは肉だから、野菜はこれくらいあればよかろう。一応、これも倍量切って用意だけはしておいてもらう。
「ケンさん、何か手伝える事ってありますか?」
ノックの音に振り返ると、草原エルフ三兄弟とランドルさんが揃って開けたままの扉からキッチンを覗いてた。その後ろにはリナさん夫婦の姿も見える。皆、律儀だねえ。
「ああ、それじゃあ悪いけどそっちに置いてある肉と野菜を運んでもらえるかな。今日は焼肉にしよう。それぞれ自分で焼いてもらうんだ」
「おお、それは素晴らしい!」
アーケル君達がそれを聞いて目を輝かせて拍手している。
ううん、これまた肉の争奪戦になりそうだね。いざとなったら、俺はスライム達から直接出して貰おう。
「おお、こりゃあ凄いのが出たな」
肉のお皿を手に部屋に戻ったところで、目に飛び込んできたそれに思わずそう呟く。
何しろハスフェル達が巨大なワゴンに乗せて運んで来たのは、1メートル角くらいはありそうな巨大な鉄板を乗せた、どう見ても巨大なこの鉄板専用のコンロだったんだよ。それが三台!
「うわあ、これを室内で焼いちゃうんだ 大丈夫か?」
思わずそう呟いたが、少し考えて高い天井を見上げて苦笑いする。まあ、この高さなら大丈夫だろう。いざとなったらスライム達に大掃除してもらおう。
「このままここで焼くんだが、このワゴンは焼き台専用だから熱が下に当たらないようになってる。まあある程度は換気はした方が良いけどな」
笑ってそう言ったヴァイトンさんは、部屋の壁面上部に作られた風取り用の小さな窓を開けて回った。
ひんやりとした風が少しは入って来るけど、これくらいなら全然大丈夫だ。
だって、もうこの肉の山と巨大な鉄板を見たら寒さなんてどこかへ吹っ飛んでいくって。
火が入れられた鉄板を見て、全員のテンションが一気に上がる。
「よし、それじゃあ適当に分かれてもらえるか」
俺の合図に何となく真ん中の鉄板に俺とランドルさんとヴァイトンさんとエーベルバッハさんが並び、右側にリナさん一家、左にはハスフェルとギイとオンハルトの爺さんが並んだ。
「リナさん達のところが若干不利な気もするけど大丈夫ですか?」
人数配分が不公平な気がしてそう尋ねたんだけど、小柄な彼らなら一メートル角の鉄板なら五人でも充分焼けるから大丈夫だと言われた。
まあ確かに、大柄なハスフェルとギイは二人で既にいっぱいって感じだからなあ。オンハルトの爺さん、頑張って戦ってくれたまえ。
「じゃあ後は好きにどうぞ! 肉はまだまだあるから足りなかったら言ってくれよな! それでは、スタート!」
笑った俺の言葉に全員から拍手が起こり、直後に全員が肉の山に殺到して行った。
「肉はまだまだあるんだから、慌てなくても大丈夫だって。それより、やっぱり焼き肉にはこれだよな」
タッチの差で完全に出遅れた俺は、嬉々として肉を取り合っている彼らを見ながらそう呟き、まずは冷えた白ビールの瓶とグラスを取り出したのだった。