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岩豚の肉を引き取りに行く

「へえ、面白い。雪像ってこんな風にして作るんですね」

 なんとなく聞いた事はあっても、実際に雪そのものさえほどんど触ったことが無かった俺には、自力で雪像を作る知識も技術も無かった。

 ちょうど様子を見に来てくれた商人ギルドのギルドマスターのヴァイトンさんとドワーフギルドのギルドマスターのエーベルバッハさん達が見かねて初心者講習をしてくれると言うので是非にとお願いをして、まずは一番の基礎となる雪を踏み固めてブロック状にするやり方を教えてもらった。

 全員揃って大はしゃぎで童心に帰って木箱の中で飛び跳ねつつ、大小のブロックをいくつも作って、それぞれにそのブロックを積み上げて自分の身長よりも少し低いくらいのブロックの塊を作り上げたところだ。

 そこまでやって今日は時間切れになった。



「そろそろ日も暮れてきましたね。じゃあ約束通りに夕食をご馳走しますので中へどうぞ」

 笑った俺の言葉にヴァイトンさんとエーベルバッハさんがものすごく嬉しそうな笑顔になる。

「では最高級の肉をいただくとするか」

「いやあ、役得だな。見に来てよかったなあ」

 顔を見合わせて大喜びだ。

「うちでは普通なんですけどね。ああ、そうだ! 岩豚の解体をお願いしてるのってどうなったんだろう。確か三日もあれば大丈夫だって言ってたけど、ちょうどあれから三日経ってるよな」

「ああ、そろそろ準備出来てるんじゃないか。確か明日か明後日には岩豚の肉がギルドから売り出されるって、商人達の間でかなり噂になっとるからなあ」

 ヴァイトンさんの言葉に、俺は思わず街の方角を振り返った。

「ううん、それを聞いたら岩豚の肉が食いたくなってきたなあ。マックスに乗っていけばすぐだし、ちょっと聞きに行ってこようかな。ええと、もうちょいくらい待ってもらっても大丈夫ですよね? もしまだなら手持ちの肉を焼きます」

 一応お忙しいであろうギルドマスターのお立場の二人にそう尋ねたんだけど、揃っていくらでも待つって断言されたよ。

 いいのかギルドマスターがそんな事で。



 って事で、とりあえず皆には建物の中に入ってお茶でも飲んで待っててもらう事にした。

 一応ハスフェル達にヴァイトンさん達の事は頼んでから鞄を引っ掴んだ俺は、マックスに飛び乗って大急ぎで暗くなってきた道を冒険者ギルドへ向かって急いだ。

 お供はラパンとコニーのウサギコンビとハリネズミのエリー、ファルコ、それから大型犬サイズになってるセーブルだ。

 やや強めの明かりにしたランタンは、セーブルが咥えてすぐ横を走ってくれているおかげで足元はよく見えるよ。



「ううん、それにしても寒いぞ!」

 さすがに日が暮れると気温も一気に下がって来たみたいで、マックスの背の上にいると冗談抜きで分厚い手袋をしていても指先が凍りつきそうだ。

「お前はこんなに寒くても平気なのか?」

 敷地内は思いっきり全力疾走しているマックスにそう尋ねると、何やらご機嫌でワンと吠えたよ。

「もちろん平気ですよ。雪は大好きです」

 尻尾全開扇風機状態でそう言われてしまい、もう乾いた笑いしか出てこないよ。いやあ、犬って本当に雪が好きなんだなあ。

 ちなみに今の俺はラパンとコニーに猫サイズになってもらってお腹の部分に潜り込んでもらい、それを抱き抱えるみたいにして暖を取ってる。当然マントは縁取り付きのモコモコバージョンのやつだ。

 それでも寒い。ううん使い捨てカイロの有り難さを思い知るよ。

「あれ? だけどこっちの世界でも携帯用のカイロみたいな暖房用品って絶対ありそうだよな? よし、後で聞いてみよう」

 開けたままにしてあるアッカー城壁をくぐり、貴族の別荘地を早足で通り抜けて街へ入る。

 さすがに人通りは少ないが、居酒屋はまだまだ空いてるよ。酔っ払ってその辺で寝たら凍死確定だからほどほどに!

 他人事ながら若干心配になってそんな事を考えてしまう。まあ、ここの住人なら流れ者の俺なんかよりもそんな事はいやってほど知ってるだろうけどね。

 賑やかな笑い声が聞こえる居酒屋の前を通り過ぎ、円形広場を通り抜けて冒険者ギルドに到着した。



「ああ、ケンさん。ちょうどいいところへ来てくれたよ。明日にでも知らせを寄越そうと思っていたところだ。例の解体分、用意出来とるぞ」

 ガンスさんの得意気な言葉に、俺もこれ以上ないくらいの笑顔になる。

「そろそろ出来てるんじゃないかと思って、様子を聞きに来たんですよ。タイミングバッチリでしたね」

 満面の笑みでサムズアップすると、ガンスさんも満面の笑みでサムズアップを返してくれた。

「それじゃあ買取金を先に渡すよ、明細がこれだ」

 一応買取金は口座に振り込んでもらうようにお願いしているので、ここでもらうのは明細だけだ。結構な金額でびっくりしたけど、まあ貴重な肉らしいからこれくらいはするんだろう。

「それじゃあ肉を引き渡すからこっちへ来てくれるか。ああ、悪いが従魔達はそこで待っててもらってくれ。一応スタッフを見張りにつけておくから、誰かに毛をむしられる心配は無いよ」

 苦笑いしながら手招きされて、言われた通りに端っこでマックス達には留守番しててもらい、俺は鞄を持ってそのままガンスさんの後に続いた。



「へえ、地下室があるんですね」

 奥へと続く廊下の途中で、階段を降りて地下へと向かう。

「普段から肉の保存は地下室で行ってる。まあ、この時期はどこに置いても腐る事は無いが、逆に迂闊に外気に晒すと全部凍っちまうから後が大変なんだよ」

「確かにそうですね。凍った肉は切るのが大変ですから」

 一番切れ味が良いって聞いたあの渦巻き模様の包丁なら、冷凍の肉でも切れるかな? なんて事をのんびりと考えていた俺は、到着した部屋でもうこれ以上ない笑顔になったよ。

 大きな作業台の上には、油紙で包んだ巨大な肉の塊がいくつも積み上がっていて、そのうちの一つを取り出して見せてくれたんだけど、これはもう見ただけでよだれがでそうなくらいに美味そうだ。

 まるで牛肉みたいな赤めの肉に、たっぷりの脂身。このバラの部分なんて、このまま分厚く焼いてトンテキにしたら絶対美味いぞ。トンカツにしても良いかも。ああ、豚丼だ。これは絶対やろう、もう間違いなく美味しい予想しかしないぞ。頭の中ではどう料理しようか、もうそのことばかり考えてたよ。



「机の上に出してあるのが、お前さんに渡す分だ。いやあ、解体担当者が絶賛していたよ。これほど脂が乗った岩豚はあいつらも初めて見たってな」

 笑ったその言葉に俺も笑顔で頷く。

「それは楽しみですね。捕まえてくれた従魔達に感謝しないと。それじゃあ全部頂いていきます」

 鞄の口を全開にして、俺はせっせと机の上に積み上がった大きな肉の塊を鞄に突っ込み続けた。

 まあ、元が軽自動車サイズの岩豚なので、一頭分の肉の量だけでもすごい。かなりの時間をかけて全部鞄に突っ込んだ俺は、ガンスさんにお礼を言って大急ぎでお城へ戻ったよ。



 あの肉を見せられたら、そりゃあ急ぐよ。

 だって俺も早く食べたいじゃないか!

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