雪像作りは高難易度クエストでした!
「ううん。案外難しいもんだなあ。これはどうするべきだ?」
目の前に積み上がった無駄な雪の塊を前に、俺はそう呟いて腕を組んで考え込んだ。
昼食を終えた俺達は、一休みしてから改めて外へ出た。
庭で遊んでいたマックス達が、俺が出て来たのに気付いて大きな声でワンと鳴いて駆け寄ってくる。
「どわあ、待て待て! ステイだマックス!」
雪まみれのまま俺に突っ込んでこようとしたマックスを見て、俺は慌ててそう両手を顔の前に庇うみたいにして交差させながらそう叫んでいた。
俺にぶつかる直前、声が聞こえたマックスが急停止してその場にお座りする。
「はあ、間に合った。全く、嬉しいのは分かるけど、そんな状態で突っ込んで来るんじゃあねえって。せっかくびしょ濡れになったのを戻してきたのに、また雪まみれになっちまうじゃねえか」
大きな顔を手を伸ばして何度も撫でてやり、頬の辺りを引っ張ってモミモミしてやる。
良い子座りをしながら嬉しそうに目を細めるマックスや他の子達としばらく遊んでから、俺は土台を作った場所へ向かった。
「さて、それじゃあやりますか」
顔を見合わせて少し考え、今日の所はとりあえず各自でどれくらいのものができるのかやってみる事にした。
しかし、これが案外難敵だったよ。
一応、屋根から落ちて塊になった雪を使ってみたんだけど、綺麗に固めるのは難しい。
そして、それを形にするのはさらに難しかった。
しばらくの時間、ああでもないこうでもないとぶつぶつと呟きつつチャレンジしては失敗するのを繰り返していた。
「ううん、そもそも形を作るのが難しい。固めて削るにしても、作りたいもののイメージがしっかりしてないと形にすら出来ないぞ、これ」
雪山の上で、ペタペタと雪を触って遊んでいるシャムエル様を見て考える。
「俺にはそもそもドラゴン自体のイメージがあんまり無いんだよな。どうするべきだ?」
かと言って、まさかリスもどきを作る訳にもいかず、困ってしまう。
「ああ、某有名RPGに出てくるモンスターのドラゴンのイメージでいけばいいのか。確かシャムエル様もあんな感じだったもんなあ」
一時期ハマっていた、国民的RPGの中盤あたりに出てくるドラゴンのモンスターのイラストを思い出しながらそう呟く。
「確か、体は丸くてかなり太めだったよなあ。顔は難しそうだけど、どうするべきかなあ」
なんとか思い出しつつ、まずは大型犬サイズで作ってみる事にした。
「まずは土台部分を固めて積み上げるんだよな。それで、ある程度形が出来たらナイフやノミを使って削っていけば良いんだよな? 初心者向けの作り方講習会とかやって欲しい。手探りであの土台に乗るサイズを作るのは大変そうだ」
だけど申し込んじゃった以上は、やらないわけにはいかない。
結局その日は、全員が試行錯誤で終わったみたいだ。
夕食は寒かったので鶏鍋にした。
ハイランドチキンとグラスランドチキンの胸肉をぶつ切りにして、それから野菜とキノコもたっぷり入れる。味付けはシンプル昆布出汁だけで、師匠特製のポン酢で頂いた。
先日買った、土鍋みたいな大きな両手鍋はめっちゃ活躍してくれたよ。
「ううん、このポン酢ってのもなかなか良いねえ。無くならないようにしてね」
自分の顔くらいありそうなハイランドチキンの塊肉を齧りながらのシャムエル様の言葉に、俺は苦笑いしつつ頷いてこっそり尻尾を突っついて遊んでいたよ。
それから数日、俺達は毎日庭に出て雪と格闘していたが雪像作りの出来はイマイチだった。いや、はっきり言って全然駄目。
アーケル君なんて、既に諦めモードで巨大な雪だるま作りに精を出す始末。いいのかそんな事で。
「全員作り方を知らないってのは致命的だよな。これ、冗談抜きで誰か経験者に来てもらって一から講習してもらわないと、期限内に出来上がらないぞ」
無駄に固めては崩壊している雪の山を見て、俺は大きなため息と共にそう呟いて座り込んだ。
なんだかもう、どうでも良くなってきた。そもそも素人がいきなりこんな大きなサイズを作ろうとしたのが無理だったんだよ。
割と本気で棄権する事を考え始めた時、俺を呼ぶ声が聞こえて飛び上がった。
「なんだなんだ。こっちで作ってるって聞いたから見学にきてやったのに、全然じゃないか。今まで何をしてたんだ?」
からかうようなその声は、商人ギルドのギルドマスターのヴァイトンさんとドワーフギルドのギルドマスターのエーベルバッハさんだ。
「神の助けキタ〜〜〜〜〜〜!」
内心で絶叫した俺は、手にしていた雪の塊を置いて二人を振り返った。
「いやあ、思った以上に難しくて四苦八苦してます。ちなみにお二人は雪像作りの経験は?」
さりげなく聞くと、揃ってにんまりと笑ってドヤ顔になる。
「教えてやろうか?」
「お願いします! お礼に夕食を用意します。グラスランドブラウンブルの熟成肉でステーキなんてどうですか?」
「おお、最高級の肉じゃないか。そりゃあ素晴らしい。是非ともお願いするよ」
エーベルバッハさんが笑ってそう言い、無駄に雪の塊が転がる庭を見回した。
「仕方がないなあ。それじゃあ初心者講習会でもするとするか」
笑ったその言葉に、俺達は揃って歓声を上げて拍手をしたのだった。
ううん、これで棄権の危機は去った……のかな?