うたた寝と昼食
ぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
カリカリカリ……。
ツンツンツン……。
チクチクチク……。
こしょこしょこしょ……。
「うん、起きるって……あれ、炬燵で寝ちゃったのか」
いつもよりも若干少ないモーニングコールに起こされた俺は、不意に目を開いて小さく笑った。
大はしゃぎの雪合戦の後、びしょ濡れになった服を着替えるためにひとまず皆でそれぞれの部屋に戻り、少し寒かったので炬燵に潜り込んだあたりで記憶が途切れているので、どうやらくっついてくれたニニやカッツェ、それからタロンと一緒に寝落ちしたみたいだ。
だけど外はまだ明るいから、部屋に戻ってからそれほどの時間は経っていないみたいだ。
「もう、やっと起きたね。お昼ご飯の時間が過ぎてるよ。お腹空いてるんですけど!」
「サーセン!」
少々お怒りモードのシャムエル様の言葉に、とりあえず謝った俺は大きく腕を上げて伸びをしてから起き上がった。
「そっか、まだあいつらは外で遊んでるのか」
部屋を見回して、マックス達の姿が見えないのに気付いた俺は、小さく笑って炬燵から出て立ち上がった。
『おおい、起きてくれよ〜〜!』
『腹が減ってるんですけど〜〜〜!』
『起きてくれ〜〜〜!』
その時、ハスフェル達三人から念話が届いて俺は堪える間も無く吹き出した。
『あはは、ごめんごめん。すっかり寝てたよ。ええと、今何処にいるんだ?』
『居間にしようって言ってた部屋に皆揃ってるぞ』
『そこでお前が起きてくれるのを待ってたところさ』
笑ったハスフェルとギイの言葉に俺はもう一回謝って、サクラ達が入ってくれた鞄を持って大急ぎで言われた部屋に向かった。
俺の部屋のすぐ側にあるその広い部屋は、一応リビングみたいな感じで皆で食事をしたり寛いだりするのに使おうと決めてリフォームしてもらった部屋の一つだ。
ここに置いてあった触るのも緊張するアンティークなソファーは、全部まとめて保管用の倉庫に下げてもらい、全員が座って寛げるだけの数の大きな新しいソファーと、広いテーブルを置いてもらっている。それから少し傷んでいた床を修理してもらったかなり広い部屋だ。
なんでも元は、歓談室と呼ばれる、応接室みたいな感じで使われていた部屋だったらしい。
ううん根っからの庶民には、歓談室と応接室の違いは全く理解出来ないんだけどね。まあ、もうここは俺達の家なんだから、俺達の好きに使うよ。
他には、ダンスホールみたいな家具が全く置かれていない天井も高くて広い部屋があったので、そこを室内運動スペースとして使えるように床を補強してもらったりもしたよ。
ちなみに追加で製作をお願いしている椅子タイプの炬燵セットが届いたら、ここのリビングにまとめて置く予定になってる。
それから、俺の部屋に作った和室が案外好評だったので、春以降に俺達がここを留守にしている間にこっちのリビングの端っこにも広い和室を作ってもらう予定だ。
エーベルバッハさんやヴァイトンさんは、この、部屋の中にもう一つ部屋を作ってしまうというのは、新しいもの好きな貴族が絶対喜ぶとか言ってた。なので全く新しい部屋の形として貴族達に提案するんだとか言って張り切ってたよ。
まあ、俺としては畳の部屋が増えるのは純粋に嬉しいので、そこはお任せしてある。
「ごめんごめん。炬燵でニニ達とくっついてたら寝ちゃったよ」
部屋にいた従魔達と一緒にそう言いながらリビングへ行くと、皆が笑っていたよ。
「ニニちゃん達と炬燵に入っていたのなら、寝落ちは仕方がないですねえ」
リナさんが苦笑いしつつもうんうんと頷いて笑っている。
「だよなあ、あの炬燵は駄目だって。入って寛いでると、もう色んな事がどうでもよくなるもんなあ」
「分かる。確かに炬燵は危険だ」
「確かにあれは危険だ」
どうやらすっかり炬燵にハマったらしいアーケル君達草原エルフ三兄弟の呟きに、アルデアさんもうんうんとものすごい勢いで頷いている。
「あはは、そんなに気に入ってくれて嬉しいよ。それなら今年の冬は、こっちには畳を直に床に敷いても良いし、もしも寒いようなら小上がり風に出来るように土台だけ作って貰えば良いと思うんだよな。障子や天井は別に今すぐじゃなくても構わないんだから、とにかく今年は寝転がって炬燵に入れる場所を確保するべきじゃないか?」
「ああそうか。それならすぐに出来そうですね。じゃあ、後でエーベルバッハさん達に相談してみればいいですね」
そう言って笑うリナさんはなんだか嬉しそうだ。何、そんなに和室や炬燵が気に入ってくれたのかな? 嬉しいねえ。そういう事なら、是非とも早急に相談させてもらうとしよう。
頭の中で、どうするのが一番いいのか考えつつ、適当に鞄から作り置きを取り出して並べた。
いつものサンドイッチやお惣菜パンなど。それから俺はご飯が食べたかったので、おにぎりも色々と取り出しておいた。
温かいものも欲しかったので、味噌汁を片手鍋に取って火にかけておく。
それから、オリゴー君やカルン君達と初めて会って一緒に食事をした屋台村で買った、唐揚げ各種を大量に並べておく。
あの後にお願いしていた追加分が大量に届いてるから、もう当分の間唐揚げは自分で作らなくていいくらいに在庫があるんだよな。
まあ、ハイランドチキンやグラスランドチキンの唐揚げはさすがに自分で作らないといけないんだけどさ。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ! じゃじゃん!」
久々の味見ダンスを踊るシャムエル様の横には、いつものようにカリディアがすっ飛んできて一緒に踊り始める。
ううん、相変わらず見事なまでのシンクロっぷり。最後は二人で揃ってキメのポーズだ。
「お見事お見事。それでどれがいるんだ?」
「そっちの三色そぼろ握りとおかかと梅干しのおにぎりと、唐揚げを味違いで全種類ください! お味噌汁はここに入れてね」
一瞬で味噌汁用のお椀を取り出したシャムエル様の言葉に、俺は笑いながらリクエストの通りのおにぎりと唐揚げを並べてやった。
味違いは、昼用の唐揚げと、夜用のスパイスの効いた味の濃い唐揚げだ。どっちも全員から大好評なのは言うまでもない。
いつものように簡易祭壇に俺の分をお供えして、収めの手が嬉しそうに唐揚げを撫でて消えるのを見送ってからシャムエル様の分を取り分けてやる。
「うわあい美味しそう。ではいっただっきま〜す!」
早速唐揚げに齧り付くシャムエル様のもふもふ尻尾を突っついてから、俺も自分の分の唐揚げを口に入れたのだった。