雪合戦!
「ううん、せっかく郊外で真っ白な新雪を大量に確保してきたけど、城の周辺に積もっているのもほぼ新雪じゃんか。雪像作りならこれで充分だよなあ」
大きな木の葉っぱの上に積もったサラサラの真っ白な雪をそっと手に取り、俺は苦笑いしながらその雪を思いっきり高く放り投げた。
よく晴れた真っ青な空に、真っ白な雪の粒が飛び散って落ちていった。
太陽の光を受けて飛ぶそれは、キラキラと光ってるみたいでとても綺麗だったよ。
翌日、早速雪像作りに取り掛かる事にした俺達は、相変わらずモコモコに着膨れ、さらには雪用のスパイク付きのブーツと分厚い冬用の毛皮付き手袋まで装備してから外へ出ていった。
一緒に出てきた従魔達は、マックスとシリウスを先頭に揃って裏庭の方へ大喜びで遊びに行ったよ。
ちなみにヤミーとセーブル以外の寒がりの猫族軍団と鱗チームとインコ達は、暖房をつけた俺の部屋で留守番がてらあったかくしている。
それで、寒さに震えつつもまずは土台の組み立てから始め、思った以上に大きくなった土台にひとしきり笑い合い、相談の結果、お城の広い庭の東側にチーム愉快な仲間達パート2の土台を、リナさん一家が作る用の土台は、西側の庭に置く事にした。使う雪も一応西と東で大まかに分けておく。これなら作業の動線も被らないだろうし動きやすいだろうからな。
「そう言えば、リナさん達のチーム名って何にしたんですか?」
ふと思いついて、振り返った俺はそう尋ねてみた。
「俺が、魔獣使いと仲間達、にしようって言ったら、オリゴーとカルンが、魔獣使いならケンさんが最強なのにそれはおかしいとか、そもそも家族だろうがって言うから、結局、チーム草原エルフ一家、になったんだよ。もっとこう、格好良い名前がいいのに」
口を尖らせたアーケル君の言葉にリナさん達が面白そうに笑っている。
魔獣使いと仲間達は、アーケル君の中では格好良い認定なんだ。へえ、なんだかちょっと嬉しいぞ。
そう呟いて小さく笑った俺は、屋根から落ちて積み上がっている山のような雪を振り返った。
「ええと、ちょっと待てよ。闇雲に雪を固めても絶対上手く作れないよな。どうするべきかな?」
って言うか、あの巨大な土台の上に載せるレベルの大きさの雪像って、冗談抜きで自衛隊が作ってるレベルのやつにしないと見栄えしないじゃんか。
「無理だって。そんな大きいのなんて雪像作り初体験の素人が作れるかよ」
腕を組んで考え込んでいると、何やら楽しそうな笑い声が西側の庭から聞こえてくる。
何事かと思って振り返ると、リナさん一家は何故か全員揃って雪合戦の真っ際中だったよ。
「何、楽しそうな事してるんだよ」
笑って目の前の山になっている、少し硬くなった雪を手に取ってソフトボールサイズに丸めると、俺も歓声を上げて雪合戦に乱入していった。それを見て吹き出したハスフェル達が、同じく雪玉を手に後に続く。
「よし、まずは雪合戦で前哨戦だ!」
俺の大声に全員綺麗に揃った返事が聞こえた直後、何故か全員が俺に向かって雪玉を投げつけてきて、俺は顔面にぶつかった雪玉のせいで何も見えなくなり、情けない悲鳴を上げていきなり撃沈したのだった。
「よくもやったな〜〜〜〜!」
なんとか起き上がって必死で顔についた雪を払った直後、俺は掴んだ雪で速攻雪玉を作ってハスフェル目がけて力一杯叩きつけたのだった。
「隙あり!」
顔面直撃で撃沈したハスフェルに向かってドヤ顔になった直後、今度は横からギイの投げたバレーボールサイズの雪玉が俺の右肩の辺りに直撃した。
しかも、その雪玉は俺の右肩に座っていたシャムエル様を直撃したんだよな。
あれは絶対にわざとと見た。
「ぎゃあ〜〜〜〜 私の大事な尻尾が〜〜〜〜!」
直撃を受けたシャムエル様は、さすがに落っこちる事は無かったけど雪まみれになった尻尾を見て悲鳴を上げてる。
いきなり耳元で絶叫されて、思わず俺は飛び上がったよ。
「こら、耳元で大声はやめてくれって!」
咄嗟に右耳を押さえたら、手袋がびしょ濡れだったもんだから、あまりの冷たさにまたしても飛び上がる羽目になった。
「よくもやったね! 秘技! 雪弾幕!」
シャムエル様がそう叫んだ直後、ちっこい手で俺の頬を叩いた。
「ほら、何してるの、早く雪玉をたくさん投げて!」
「俺がするのかよ!」
吹き出してそう叫び、とりあえず持っていた雪玉を思いっきりギイに向かって叩きつけてやった。
大喜びで拍手をするシャムエル様のびしょ濡れになった尻尾を突っつき、俺はまた雪玉を幾つも作ってギイに向かって投げまくったよ。
そこにランドルさんとオンハルトの爺さんの連合軍が乱入してきて、もう俺達は笑いながら、手当たり次第にめちゃめちゃに雪玉を投げまくっていたのだった。
「はあ、楽しかったけどびしょ濡れだよ。風邪引いたらどうしてくれるんだよ」
何が何だかよくわからないままに全員が雪まみれになって雪合戦は終了した。
雪が溶けてびしょ濡れになった髪をかき上げつつ、苦笑いした俺はそう呟いて身震いした。
全員が童心に帰って大はしゃぎで遊んだおかげで身体はぽかぽかになったんだけど、逆に結構な量の汗をかいてるから、このままでは冗談抜きで体が冷えて風邪をひいてしまう。
って事で、急遽全員揃って建物の中へ避難して着替えをする事にした。
「はあ、予想以上にハードな雪合戦だったなあ」
一旦それぞれの部屋に戻って、俺はサクラに一瞬で綺麗にしてもらってから、美味しい水を飲んでこたつに潜り込んだ。
「はあ、やっぱりここが落ち着くよ……」
ニニとカッツェが嬉しそうに俺の左右にくっついてきて収まり、さらに背中に巨大化したタロンが座る。
「何このあったかもふもふパラダイスは……」
そのままタロンにもたれかかった俺は、気持ち良く眠りの海に撃沈したのだった。
いやあ、炬燵と猫のコンボにはやっぱり逆らえないよな。