夕食と報告
「お待たせ！ 肉が焼けたぞ〜〜〜！」
キッチンに置いてあった大きなワゴンにフライパンを並べて置いた俺達は、得意げにそう言いながら部屋に戻った。
「はあい、お待ちしておりました！」
嬉々としたオリゴー君とカルン君の声に、リナさん達も笑いながら小さく拍手している。
ハスフェルが俺とギイの分を、リナさんがアーケル君の分を用意してくれていたので、並んだお皿に順番に肉を並べていった。
用意してあったいつもの簡易祭壇にまずは俺の分を並べて、冷えたビールと空のグラスも一緒に並べておく。
「お待たせしました。今日の夕食のステーキです。ハイランドチキンのチキンステーキもあるよ。ええと、それからとうとうあのお城に引っ越しです。部屋はたくさんあるので、よかったらいつでも泊まりに来てください。きっと炬燵はシルヴァ達も気に入ると思うな」
そっと目を閉じて手を合わせ、最後はちょっと笑いを堪えながらそう呟く。
いつもの収めの手が、何度も俺を撫でてから料理を順番に撫でてお皿を持ち上げ、最後に冷えたビール瓶も持ち上げてから消えていくのを見送った。
「お待たせ。じゃあ食べよう」
いつも当然のように待っていてくれている皆にそう言って、料理を持って自分の席に戻った俺は、改めて手を合わせてから待ち構えていたシャムエル様を見た。
「あ、じ、み！ あ、じ、み！ あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ！ ジャジャン！」
今日のシャムエル様の味見ダンスは、お皿を振り回しつつ脚を前後左右に高速移動させるステップだ。そして当然のようにその隣で完全にステップをコピーして、それはそれは真剣な様子で踊っているカリディアもいるよ。
だからそれはそんな神聖なものじゃあなくて、単に食欲にまみれた物欲オンリーのダンスなんだけどなあ。
感心して見事なシンクロダンスを眺めつつ、そんな事を考えてる俺だったよ。
「はいはい、お見事。それでどれくらい食べるんだ？」
「ステーキとハイランドチキンは半分ずつください！ あ、そのおにぎりも半分ね！ あとは適当でいいです！」
何故か踊っていた時に振り回していたお皿よりもかなり大きいお皿を俺のお皿の隣に置きながら、目を輝かせてそう言って笑うシャムエル様。まあ、予想通りの答えだけどな。
苦笑いした俺は、ご希望通りにステーキとハイランドチキンの胸肉を半分ずつに切って食べやすいサイズに切り分けてからお皿に盛り合わせてやる。それから付け合わせの温野菜もたっぷりと取り分けたよ。
しっかり食って良いから、野菜も食え。
おにぎりと味噌汁は別に取り出した小皿とお椀に入れてやり、栓を抜いたビールも差し出された小さなグラスにこぼさないように入れてやる。
「はい、お待たせ。これでいいかな」
グラスを返しながらそう言うと、目を輝かせたシャムエル様がうんうんと頷いてる。
「うわあ美味しそう！ では、いっただっきま〜す！」
嬉々としてそう言うと、やっぱりステーキに頭から突っ込んで行くシャムエル様。
「相変わらずだねえ。じゃあ俺もいただくとするか」
半分取られる事を予想して、俺もステーキは皆と同じくらいに分厚く切ってあるし、ハイランドチキンステーキも、半分シャムエル様に渡しても普通の胸肉よりもまだ大きいくらいだ。
切り分けた大きめのステーキを口に入れた俺も、大満足の笑みになったのだった。
ううん、美味しい。やっぱり肉は正義だね。
当然、食事を終えたあとはそのまま飲み会に突入となり、俺とランドルさんはハスフェル達が出してくれた吟醸酒を、ハスフェル達やリナさん一家は最初は水割りを飲んでいたんだけど、途中からはいろんなお酒が出ていてもう好きに飲んでたよ。いやいや、俺はこの吟醸酒があれば充分ですって。
「それで、庭にあるって言う廃坑にはもう入ったんですか？」
目を輝かせたアーケル君にそう聞かれて、俺はもうちょっとで飲んでいた吟醸酒を吹き出すところだった。
一応、あの水晶樹の森がある広場は、ギイが結界魔法で封印して誰かが勝手に入れないようにしてくれている。
それで相談の結果、あの広場に通じる道は封鎖しておき、普段は誰も入れないようにしておく事にした。
ただし、水晶樹が発見された事は、彼らにも知らせておくよ。
「おう、一応少しだけ入ってマッピングしてたんだけどさ。実は大変な発見があったんだ」
飲んでいた吟醸酒の入ったグラスを置いた俺の改まったその言葉に、聞いたアーケル君だけでなくリナさん達やランドルさんも飲んでいた手を止めて何事かとばかりに揃って俺を見た。
「実はねえ、こんな発見があったんですよ」
大きなため息と共に、前もって収穫してあったあの水晶樹の葉っぱを一枚取り出して見せる。
しかし、全く反応が無い。
「あれ？ ええと……これが何か分かりますか？」
全くの無反応に不安になりつつそう言って彼らを見ると、全員揃ってポカンと口を開けて目を見開いたまま固まっていたよ。
「あの、アーケル君？ ランドルさん？ おおい、聞こえてますか〜〜〜？」
顔の前で手を振って大声で名前を呼んでも、揃って固まったまま全くの無反応。
「なあ、これどうするべきだ？」
困ってハスフェル達を振り返ったんだけど、こっちはこっちで完全に面白がってて笑ってるだけで全く頼りにならない。
「おおい、聞こえてますか〜〜〜〜！」
途方に暮れつつももう一度、アーケル君の目の前で手を降りながら耳元で呼びかけてやると、ようやく金縛りが解けたみたいで何度か目を瞬いた後にリナさん一家とランドルさんは、揃って見事なまでに同じセリフを叫んだのだった。
「ええ〜〜〜〜〜！ それはもしかして水晶樹！」ってね
