初炬燵の感想は?
「ふわあ、あったかい。それにしても、これは一体どういう状態なんですか?」
俺の部屋に設置された和室を見たランドルさんとリナさん一家の反応は、見事なまでに全員同じだった。
暖房をつけたままで出掛けたから戻って来た部屋の中はほかほかで、装備を脱いで楽な格好になった俺達は揃って笑顔で顔を見合わせた。
「ふ、ふ、ふ。これは俺の寛ぎスペースなんだよ。ほら、ここで靴を脱いでから上がるんだ。ええと、その前に炬燵の追加分をセットするからちょっと待っててくれよな」
少し考えて部屋を見回した俺は、分厚い絨毯を敷いてある広い場所に、まずはハスフェル達にも手伝ってもらって買って来た追加の炬燵を二台取り出し、少し離してそれぞれ大急ぎで設置してやった。もちろんジェムはしっかりと入れてからスイッチオンにしたよ。
「おおい、悪いけど追加の炬燵を外にセットしたからさ、ちょっと移動してもらえるか」
せっかくだから、ランドルさんやリナさん達に和室や炬燵の楽しみ方も知ってもらいたい。なので和室で寛いでいた俺の従魔達には、ひとまず和室の外に設置した新しい炬燵に移動してもらったよ。
それから少し考えて、和室の炬燵セットも一旦解体して、掘り炬燵のところには炬燵を一台だけセットして座椅子を四脚それぞれの面にセットした。こうすれば、掘り炬燵には四人入れる。
それから、少し離した場所に残り二台の炬燵を並べてセットして大きい方の横長炬燵布団を掛けてセットする。こっちには座椅子と座布団の両方を適当にバラして用意しておく。
ここでは座って入る事も、寝転がって入る事も出来る仕様だ。
「お待たせ。ええと、ここは靴を脱いでから入ってもらうんだ。部屋に入る時に、スライム達に足を綺麗にしてもらってくれよな」
俺は笑ってそう言い、大きい方の横長炬燵のお誕生日席に潜り込んで座った。
「じゃあ俺達はこっちに座らせてもらうよ」
ハスフェルとギイ、それからオンハルトの爺さんの三人がそう言って掘り炬燵に潜り込んで収まる。まあ、彼らは床に直接座る生活には慣れていないから、座椅子があってもちょっと座りにくそうにしていたもんな。多分、股関節とかが硬いんだと思う。
「へえ、これは面白い。それじゃあ失礼します」
興味津々の草原エルフ三兄弟が横長炬燵にやって来て、アーケル君が、俺の向かい側のお誕生日席に、カルン君とオリゴー君は並んで横面に置かれた座椅子に座ってそれぞれ炬燵に足を入れる。
「ふああ、何だこれ。めっちゃ暖かいぞ」
「おお、本当だ。これは素晴らしい」
「うわあ、これ最高……」
カルン君とオリゴー君の呟きに続き、座椅子にもたれかかって完全に脱力したアーケル君がそう呟く。
「ええと、じゃあ俺はこっちに」
少し考えたランドルさんは、掘り炬燵の方に行って空いている座椅子に座って足を中に入れて収まる。
「おお、何ですか。この快適空間は……」
炬燵の上に顎を乗せるみたいにして収まったランドルさんも、完全に炬燵に食われてしまった模様。
「それじゃあ、私達も失礼して入らせていただきます」
リナさん夫婦が、残っていた横長炬燵の横面に並んで座って収まる。
そのまま全員が無言になってしまった。
それから、外の炬燵に入りきらなかったらしいリナさん達やランドルさんの従魔達が、それぞれのご主人の側へ行って一緒になって炬燵に潜り込む。
俺の足の上では、シャムエル様が炬燵布団の上で完全にとろけている。
どうやらシャムエル様は炬燵の中に入るんじゃなくて、温まった炬燵布団の上で埋もれるみたいにして寝る事にしたみたいだ。
まあ、シャムエル様は小さいから炬燵の中に潜り込まれたらうっかり踏み潰してしまいそうなので、そうしてくれた方が俺的には安心だよ。
「確か、小さかったニニも、こんな風にして炬燵布団の上でよく寝ていたよなあ」
笑った俺は、こっそりシャムエル様と炬燵布団の間に手を入れてみた。
「おお、めっちゃポカポカ。これは良いねえ良いねえ。尻尾もふかふかになってるよ」
笑ってそう呟き、とろけているシャムエル様の尻尾をこっそりともふりつつ、俺も大きな欠伸をしてもう少し炬燵の中に潜り込んでいった。
「ケンさん……これ、最高っすね……」
半寝ぼけ状態のアーケル君の呟きが聞こえる。座椅子にもたれかかって脱力状態の彼のお腹の上には、猫サイズになってる従魔のピンクジャンパーのホッパーが、これもとろけた状態で乗っかって張り付いている。
「だろう? 炬燵、最高だろう……?」
俺も半寝ぼけ状態でそう答える。
ちなみに俺の胸元には、いつの間にかタロンが潜り込んでシャムエル様とくっついて一緒になって収まっている。
「確かに最高っす……」
「もう動きたくないよ、これ……」
そう呟くオリゴー君とカルン君は、もう完全に脱力状態で意識が半分以上何処かへお出かけ中だ。
リナさんとアルデアさんは、こちらはもう完全に夢の中の模様。
そして掘り炬燵の四人も似たような有様だ。オンハルトの爺さんなんて、炬燵にうつ伏せになって寄りかかっていて、もう完全に熟睡体勢だ。
「炬燵って良いんだけどさあ……」
半寝ぼけ状態の俺が呟く。
「炬燵、良いっすねえ……」
こちらも半寝ぼけのアーケル君が、律儀に返事を返してくれる。
「ここに入るとさあ、色んな事がどうでもよくなるんだよなあ……」
「ああ、分かりますねえ。これは確かに……危険だなあ……」
「そろそろ夕食の時間なんだけどさあ……動きたくないんだよなあ……」
「分りますねえ……これは確かに、危険だ……」
「だろう……?」
「です、ねえ……」
そんなことを言いながら、俺達はそのまま全員揃って気持ち良く眠りの国ヘ墜落して行ったのだった。