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新鮮野菜と朝粥

 ぺしぺしぺし……。

 いつもの頬を叩く感触で、俺はもふもふの海で目を覚ました。

「うう……待って、……起きる、から……」

 不意に反対側の頬に、プニプニの感触が来た。

 揉み揉み……。

 薄眼を開けて左側を見ると、真剣な顔をしたタロンが俺の頬を両前脚で揉んでいるのが見えた。

「おはよ……ふわあ」

 手を伸ばしてタロンの頭を撫でてやっていると、思い切り大きな欠伸が出た。

「あはは、吸い込まれそうな欠伸だね」

 耳元でいつものシャムエル様の声が聞こえて、俺は横を向いた。

「おはようさん。今日は天気は?」

「うん、しばらくはいい天気が続くよ。絶好の狩り日和だね」

「おう、そりゃあ楽しみだな。それで今日はどこへ行くんだ?」

 そう言いながら起き上がって、まずニニの顔に抱きついてもふもふを堪能した。ニニの、この耳の後ろ側の妙に長い毛が好きなんだよな。

「クーヘンにテイムをやらせてやるなら、あんまり強いのは駄目だからね。何がいいかな?」

 顔を洗ってきて身支度を整えていると、俺の肩からニニの上に移ったシャムエル様が、ブツブツ言いながら考えている。

「ケン。もう起きているか?」

 丁度、タロンに鶏肉とベリーに果物を出していたその時、ノックの音がしてハスフェルの声が聞こえた。

「ああ、どうぞ。もう起きてるよ」

 振り返ってそう言うと、サクラがドアノブに飛びついて鍵を開けてくれた。

「おはようございます」

 ハスフェルの後ろには、身支度を整えたクーヘンの姿もあった。

「おはよう。じゃあ、朝市へ行って野菜なんかを買って、それから朝飯かな。その後は言っていたように、従魔達の飯を兼ねて狩りに行こう」

「良いんじゃないか。また人数が増えたし、食材も追加で買わないとな」

 からかうようなハスフェルの言葉に、俺は小さく吹き出した。

「気楽なひとり旅のつもりだったんだけどな」

「申し訳ありません。押し掛け弟子入りなんて無茶な真似をしてしまって……」

 恐縮するクーヘンに、俺達は思わず吹き出した。

「無茶したって自覚はあるんだ?」

「だって、これを逃したら、これ程の魔獣使いに会える機会なんて絶対ないと思ったから必死だったんです。だから、その、とにかくもう必死でした。最初は隠れてこっそりとどんな風にテイムするのか見るつもりだったんですけれど、街の中では、そもそもジェムモンスターなんていませんからね。それで、とにかく付いて回っていたら、その、見つかってあんな事になりました」

「まあ、ユースティル商会じゃなくてなによりだったよ」

 そういや今日、クーヘンの騒ぎですっかり忘れていたけど、もうユースティル商会は、俺達の事諦めたのかね?

 まあ、ディアマントさんも、ここの支部が閉鎖されるとか言っていたしね。事業を縮小してるのなら、少しは安心かな?


 俺たちは、そんな話をしながら、全員揃って屋台と朝市の出ている広場に向かった。

 マックス達も良い子で並んで付いてくる。ほら見て良い子だぞ作戦実行中だ。

 俺の目的のひとつが、昨日の朝粥のお店に頼んで、大きな鍋にいっぱいの朝粥を買う事だ。

 だけど、まずは朝市だよ。

 到着した広場は、色とりどりの新鮮な野菜や果物であふれていた。

 ベリーの果物の在庫はまだ大丈夫だけど、持っていない果物や変わった物があれば、買ってやろうと思う。まあ、俺たちも少しは食べるからな。


 俺はまず、目に付いた野菜や果物を遠慮なく買いまくった。葉物の野菜を中心に、芋や人参っぽいもの、ブロッコリーやカリフラワーみたいなのもあった。

 買った店で、さりげなく料理のやり方や下ごしらえの仕方なんかも聞き出しつつ、俺はもう大丈夫だろうと思うまで、あちこちの店で大量に買ったよ。

「まあこんなもんかな。それじゃあ飯にするか」

 一通り見てみたが、やっぱり朝粥かな? だけど、今日は狩りに行くんだからしっかり食っておくべきか?

 少し悩んで、まずは朝粥の店に声を掛けた。

「おや、昨日の魔獣使いさんだね。食べてくかい?」

 お椀を手に聞かれたので、俺はちょっと横へ寄って、カバンから大鍋を取り出した。

 それを見ておばさんは堪える間も無く吹き出した。

「なんだいお前さん、収納の能力持ちかい。良いねえ、初めて見たよ」

 感心したようなおばさんの言葉に、俺は苦笑いして口元に指を当てた。

「騒がれたくないんで、黙っててくださいね」

「はいよ、それでそこに入れれば良いのかい?」

 一応、鍋は洗ってサクラに綺麗にしてもらってきたから大丈夫だろう。

「ええ、入るだけお願いします」

 計って入れてもらったら、なんと25杯分入ったよ。ちょっと大き過ぎたかね?

「ええとこれなら銀貨2枚だよ」

 おう、5杯分サービスだよ。良いのかね?

 それから、お皿を出せと言うので適当に空いた皿を出すと、トッピングを色々と入れてくれた。

 これだけ買って、二千円程……安過ぎだよ。

 大鍋とトッピングをもらって、鞄にそっと押し込む。

 でもやっぱり食べたいので、お椀一杯分は別にもらった。

 ハスフェルが串焼きの店に向かったのを見て、俺にも一本買ってもらうように頼んだ。これで、腹ごしらえは完璧だ。

 広場の端に寄り、俺たちはそれぞれ買ってきたものをマックスとシリウスに寄っかかって立ったまま食べた。

 それから、珈琲屋で空になっていたピッチャーに本日のおススメコーヒーをたっぷりと入れてもらい、ホットドッグやハンバーガー、サンドイッチも色々と大量に買い込んだ。

 すぐ食べられるシリーズも、かなり在庫が乏しくなっていたんだよね。これで、また選択肢が増えた。よしよし、食料在庫はだんだん充実してきたぞっと。

 整理は宿に戻ってからする事にして、俺たちはそのまま街を出る事にした。



 城門を抜けて街道沿いの草原を走り、ハスフェルの案内で林の中を突っ切って、まだまだ走る。

 心なしか、マックス達も楽しそうだ。

 街の外なら遠慮なく、こいつらを走らせてやれるからな。

「こりゃあ凄いや。何とも気持ち良いですね! 風になったみたいだ」

 シリウスの背中に乗ったクーヘンの嬉しそうな声が聞こえる。

 確かにそんな感じだ。

 しばらく走り続け、ようやく到着したのは、雑木林を抜けた先にあった、低木の茂みの群生地だった。


 さて、今度はどんなジェムモンスターが出てくるのかね?

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