引越し開始!
「はあ、やっぱり炬燵は良いねえ……」
とりあえず、あの後すぐに戻って来たマックス達と合流して地上に戻った俺達は、先にギルドへ戻って行ったヴァイトンさん達三人を見送ってから一旦屋敷の中へ戻り、何故か当然のように全員が俺の部屋に集まって来て、全員揃って炬燵に食われている状態だ。
やっぱりハスフェル達も炬燵がめっちゃ気に入ってたんだな。
「さて、暗くなる前に戻って宿泊所を引き払って来よう。それで、皆でこっちへ引っ越して来て今夜は宴会かな」
「そうだな。それで良いんじゃないか」
「だけど問題は……」
「ここから出たくないって事なんだよなあ……」
「ううん、早く追加の炬燵を作って貰わないと、これは絶対に入る場所が足りなくなりそうだ……」
俺の横で完全にとろけているシャムエル様の尻尾をこっそりともふりつつ、苦笑いした俺は小さくそう呟いた。
何しろ、小さくなれる子は全員小さくなっているんだけど、既に炬燵はぎゅうぎゅう詰め状態だ。
とりあえず、ニニとカッツェが俺達と一緒に炬燵に入るには残念ながら物理的にデカすぎる。なので元々この部屋に置いてあった二台あった温風が出てくる暖房器具を分厚い絨毯の前で全開で稼働させて、ニニとカッツェはそこで寛いでもらっている。毛足の長い絨毯の寝心地も案外気に入ってくれたらしく、二匹はご機嫌で絨毯をモミモミとご機嫌で踏んだりゴロゴロ喉を鳴らしてくれているよ。
それからあと三台、別の部屋に置いてあったダルマストーブみたいな大きな暖房器具を持って来て、こちらも全開で稼働させてマックスとシリウスと狼達、それからセルパンとイグアナ達がその周りで転がっている。
大きな胴体部分の真ん中に灯った炎が真っ赤になっていて、これは視覚的にも暖かいよ。
なので和室に置かれた炬燵を満喫しているのは猫族軍団とウサギコンビのもふもふ軍団だ。
お空部隊は、用意してあった止まり木代わりの大きなハンガーに並んでぎゅうぎゅう詰めになってくっついて留まっている。こちらも少し離れたところから暖房器具を稼働させて温風を当ててあげている。
ファルコは暖房はいらないらしく、少し離れた別の止まり木に一匹だけで留まってのんびりと羽繕いなんかしてるよ。
「ああ、駄目だ! このままでは駄目だ!」
しばらく温まっていたけど、いい加減にしないとこのまま夜になってしまう。
って事で、一旦ここは撤収して宿泊所へ戻る事にしたよ。
ちなみに、ブラックラプトルのデネブとグレイエルクのエラフィは、室内よりも厩舎の方が良いらしくそっちで休んでもらっている。もちろん綺麗にしてもらった厩舎には真新しい藁もたっぷりと用意してくれているので、そっちの居心地もなかなかのものらしい。
ちなみに同じ恐竜でも、プティラはお空部隊と一緒に室内で寛いでいるから、この辺りは個体差なのかそれぞれの好みの違いなのかはよく分からない。
それで相談の結果、すぐに戻って来るからという事で猫族軍団やウサギコンビ、ハスフェル達の連れているイグアナ達、通称鱗組にも一緒に留守番してもらい、マックスと狼コンビ、それからセーブルと一緒に俺達はそれぞれの従魔に乗ってひとまず宿泊所へ戻った。
「おかえりなさい。それでどうだったんですか?」
笑顔で迎えてくれたリナさん一家とランドルさんに、俺はもう満面の笑みでサムズアップを返したよ。
「もう最高! それでよかったら皆さんも向こうの屋敷に一緒に来ませんか? 部屋はありますから大丈夫ですよ」
「いや、さすがにそれは……」
リナさんが慌てたようにそう言って首を振ったが、アーケル君達は違った。
「うわあ、噂のお屋敷に泊まらせていただけるんですか! 泊まり賃払いますから、是非是非泊まらせてください! なあ母さん。大豪邸に泊まらせてもらえる機会なんてそうは無いんだからさ。ここは遠慮しちゃ駄目だろう!」
「じゃあ決定だな」
笑ってアーケル君達と手を打合せ、恐縮するランドルさんも一緒にギルドで宿泊所の解約手続きを取った。
急遽部屋が幾つも空いたと聞いて、ちょうどギルドに居合わせた何人かの冒険者達が受付に殺到していたから、まあすぐに部屋は埋まりそうだね。
そんなこんなでリナさん達とランドルさんの従魔も一緒に引き連れて、俺達はもう一度屋敷へ向かった。
「ああ、ちょうど良かった! ケンさん! ちょっと待ってください!」
商人ギルドの前の道を通りがかった時、慌てたようにヴァイトンさんが駆け出して来て驚いてマックスを止める。
「ああ、ヴァイトンさん、どうかしましたか?」
一応マックスから降りながらそう尋ねると、にっこりと笑ったヴァイトンさんが背後を指差した。
そこには数名のスタッフさんが今まさに荷造りの真っ最中で、なんと追加でお願いしていた炬燵セットがそこにはあったんだよ。
まあ、さすがに椅子用炬燵は間に合わなかったらしいんだけど、こっちの普通サイズの炬燵は試作を含めて既に幾つも作っていたらしい。
それで俺が追加をお願いしたもんだから、戻ってから大急ぎで出来上がっていたそれらを集めてくれたんだって。
ただし、炬燵布団は二台並べてセットする大きいサイズじゃなくて、一台ごとにセットする正方形の炬燵布団しかないらしい。
「問題無いよ。それなら好きな所にセット出来るから逆に有り難いです。いやあ、ありがとうございます! あの、良かったらここで貰って行きますので!」
わざわざあんな大きな荷物を、この雪が積もる中を運ぶのは大変だもんな。なのでスタッフさんに声を掛けて荷物を受け取り、受け付けで支払い手続きを取った。
椅子用炬燵と炬燵布団も、職人さん達が大張り切りしてくれているらしいので、おそらく数日のうちには出来上がるだろうって事らしい。いやあ、職人さんってすごいね。
ってことで、炬燵セットを受け取った俺達は、そのままお屋敷までのんびりと雪を眺めながら進んで行ったのだった。
さて、リナさん達やランドルさんは、炬燵にどんな反応を見せてくれるだろうね?