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マタタビ酒の話

「うああ、よりにもよって、一番効き目があるメーカーのこれがモデルとか! マジでどうすんだよ!」

 頭を抱えた俺の呟きに、ハスフェルとギイが不思議そうに首を傾げている。

 さっきのシャムエル様が見せてくれたマタタビパッケージのイメージは、当然彼らにも共有されている。

『あれは何なんだ?』

『何とも不思議な模様の箱だったなあ』

 オンハルトの爺さんは何も言わないけど、同じように不思議そうな顔でヴァイトンさん達の横で俺を見ている。

『ええと、あれは俺の元いた世界にあったもので、さっき言ったみたいに猫に与える薬みたいなものだよ。ちなみにあの箱は製造元、つまりそれを作って売っている商店が描いているパッケージなんだ』

『ほう、わざわざ猫の為のものを作る商店があるのか』

 妙に感心したようにそう言われて、ちょっと笑ったよ。

『おう、たくさんあったぞ。この世界では、ペットとして飼っている猫でもネズミを獲るのが仕事みたいに考えられてるらしいけど、俺のいた世界ではもっとなんて言うか……家族とか自分の子供みたいに動物を可愛がる人達がいたんだ。俺も、マックスとニニの事は家族だと思っていたよ』

 笑いながらそう教えると、なぜか妙に感心された。

 この辺りは、俺の元いた世界の価値観とこっちの世界の人たちの価値観の違いが大きそうだ。

 でもまあ、以前のタロンとファルコの誘拐事件の時に見た貴族の坊ちゃんみたいに、ペットを可愛がる習慣自体はこっちの世界でも普通にあるみたいだから、多分それなりに裕福な貴族層とかにはペット用品の需要とかもありそうな気がする。

 もしかしたら俺達が知らないだけで、すでにそういった産業だってあるのかもしれない。

『まあ、それはいいって。つまり、あれを参考にしてシャムエル様がこれを作ったんだとしたら、めちゃめちゃ効き目があるって事。ううん、効き目が切れるまで待った方がいいのかなあ』

 下手に手出しをして、ざっくりやられるのは割と本気で勘弁して欲しい。ってか、今現在進行形でマップがどんどん広がってるって事は、マックス達はこの状態のニニ達を見て、絶対に逃げたって事だよな。

「まあ、以前もニニがマタタビで酔っ払ってる時って、マックスは割と本気で逃げ回っていたもんなあ」

 そんな懐かしい記憶に浸っている間も、ニニ達はベロンベロンに酔っ払って転がりまくっている。

 逃げたマックス達を責めるのは酷か。完全に酔っ払ってるティグ達まで巨大化した今の状態で、爪と牙全開の本気でやり合ったらマックス達でも冗談で済まないだろうからなあ。

 小さく呟いてため息を吐く。冗談抜きで、本当にこれ、どうしたらいいんだ?

 しかも、酔っ払い具合が最高潮に達している巨大化した従魔達同士で、本気で戦い始めてる。

 あの大きさの従魔達が爪全開牙全開で戦ってるのは、見ていて俺でも割と本気で怖いぞ。



「とりあえず、危険そうだからもう少し下がろう」

 顔を見合わせてそう言って、ゆっくりと後ろに下がる。

「なあ、とりあえず引き寄せであのマタタビの実を取り上げて集めてくれるか。万一にも従魔達がこっちに来ないように、集めた分は即座に収納する事!」

 そう言いながら、持っていたマタタビを即座に収納して、見えている幾つかのマタタビの実を次々に引き寄せて収納する。

「成る程。まずは原因を出来るだけ取り上げてしまう作戦だな」

 ハスフェルとギイも納得したみたいで、左右に広がって転がっているマタタビの実を集め始めた。

 しかし、壁面に出来た割れ目からザラザラと巨大マタタビの実が次々に転がり落ちてくる。

 しかも目の前に転がってきた新しい実をニニ達が齧るたびに、さらにもっと酔っ払ってる気がするぞ。おい。



「ああ、これって木天蓼(もくてんりょう)じゃないか。酒の材料になるやつだろう?」

 その時、ギイが嬉しそうに手にした巨大マタタビの実を見て、何やら妙な事を言い出した。

『へえ、そんな名前が……ああ、マタタビの元の名前って確かにそんなだった気がする。確かあのパッケージにも難しそうな漢字が書いてた気がするなあ。じゃあ、こっちの世界にも植物でマタタビってあるんだ?』

 次々に引き寄せては収納しながら念話でそう尋ねると、妙に嬉しそうにギイとハスフェルが揃って頷く。

「木天蓼酒には疲労回復の効果があるって聞いた覚えがあるなあ。販売もされているが、どちらかというと民間薬として特に辺境の村なんかで作られてる。何度か飲ませてもらったことがあるが、まあちょっと癖のある味わいだよ。甘味と苦味と渋味と……うん、複雑な味だが中々に美味いぞ」

「木天蓼酒なら俺も何度か飲んだ事があるが、確かにあれは癖になる味だな。美味いぞ。だけど、甘みが無ければただの苦い薬酒だよ」

 ハスフェルが笑ってそう言い、飲むふりをしてから顔をしかめて見せる。

「あはは、じゃあこれで甘いマタタビ酒を作ってみても良いかもな」

 苦笑いしながらそう言い、側に来てくれたオンハルトの爺さんも一緒になって、とにかく四人で必死になってマタタビの実を回収し続けていたのだった。

 しかも、俺達の後ろに離れて避難していたヴァイトンさん達だったんだけど、木天蓼酒の話が聞こえた途端、目を輝かせて自分達も飲みたいアピールをしていたよ。

 どうやら、この世界ではマタタビ酒はちょっと珍しい果実酒兼薬酒扱いみたいだ。

 まあ、果実酒は漬けた事が無いから師匠のレシピを後で調べてみよう。何なら、誰か知っていそうな人に聞いてみても良いかもな。ネルケさんなら知っていそうな気がする。



 そんな話をしながら、少なくとも見えるところにあったマタタビの実は全部集め終えたんだけど、まだ酔っ払ったニニ達は転がったままだ。今の状態は、戦い疲れてベロンベロンに酔っ払って転がってる感じだ。

 当然だけど、俺の呼びかけにも全く反応無し。

 ううん、冗談抜きでこれは本当にどうするべきなのかねえ?

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