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これも一種の闇取引?

「あれ、ここにあった水晶樹の破片は?」

 ようやく復活して立ち上がったヴァイトンさん達も一緒に、先行していた従魔達が開けたガラスの森改め、水晶樹の森の端に出来た獣道もどきを見に行ったんだけど、当然マックスやニニ達が通れるくらいに大きく開けられた通路には、踏み荒らされて散らばっているはずの折れた水晶樹の破片と言うかおれた枝が一切落ちていなくて、綺麗に掃除されたみたいになってる。

 まあ、これは恐らくスライム達が回収してくれたんだろう。

 のんびりと俺がそんな事を考えていると、ヴァイトンさん達がまたしても悲鳴を上げて顔を覆った。

「うわあ、見事に無くなってる! 魔獣やジェムモンスターは水晶樹を食べると言う噂は本当だったんですね!」

「なんと、これは驚きだ」

 ヴァイトンさんの叫びに、エーベルバッハさんとアードラーさんも呆然と立ち尽くしている。

 俺にしてみればまだまだ山ほどあるんだから別にちょっとくらい減ってもどうって事ないと思うんだけど、ギルドマスター二人とアードラーさんの意見は違ったみたいだ。

「これは、なんとも勿体無い話ですが、まあ従魔達が道を開いてくれたおかげで、奥へ行く事が出来る様になりましたね」

「どうしますか? もう引き返しますか? それとも、もう少し奥まで行って見ますか?」

 今日はここまでの予定だったんだけど、さすがにこの水晶樹の森を見たら、確かにもう少し奥まで進みたくなる気持ちも分かる。

 でも、俺は風呂に入りたい!

 なのでもう帰ろうと提案しようと口を開きかけた矢先、いきなり真顔のハスフェル達が俺を振り返った。

「悪いが従魔達を回収しに行くぞ」

 そう言って、有無を言わせずそのまま開いた通路を進んで早足で奥へ進んでいってしまった。

「ええと……?」

「まだ行くみたいですね。まあこの先枝分かれした道の奥にも、同じような広場がいくつかあるんですが、どこまで行くつもりなんでしょうかね?」

 やや心配そうにエーベルバッハさんがそう言い、慌てたようにハスフェル達の後を追ってまた坑道に入って行く、仕方がないので、俺達もその後を追った。



「あれだけの水晶樹が折れる事なく育っていたという事は、この辺りの浅い部分にはジェムモンスターは出ないみたいですね」

「それなら良いんですがねえ」

 どんどん先に進んで見えなくなってしまったハスフェル達を追いかけつつ、ギルドマスター二人の話を聞いた俺はやや希望的意見を述べる。

 それから後ろを振り返ってヴァイトンさんを見た。

「あの水晶樹って、どう言う状態で収穫、っていうか採取すれば良いんですか? ハスフェル達は気軽にペキペキ折ってましたけど」

 ちょうど良い機会なので教えてもらおうと思ってそう尋ねると、三人は苦笑いしつつ頷いた。

「通常は葉のみを収穫しますね。まあ、今回はあれほどの数の群生地ですからあまり有り難みはありませんが、普通なら一本、多くても二本程度しか水晶樹は育ちません。その水晶樹の葉を定期的に採取して、枝を折るような事は普通は絶対にしません、とにかく水晶樹は成長が遅いんですよ」

「水晶樹が発見されると、その坑道は例えミスリルが出る坑道であろうとも即座に採掘は禁止され、その場は完全に閉鎖されます。そして、ギルドや鉱山の持ち主らが管理して、一定期間ごとに葉の採取を行うんです」

「このバイゼンでも、今現在水晶樹の葉が採取出来る箇所は二箇所だけで、一度に採取出来るのはせいぜいが数枚程度の小さな木なんです」

「ここがどれだけ貴重な群生地であるか、ご理解頂けましたか?」

「はあ、まあなんとなくは……」

 とは言っても、所詮は空気清浄機だろう? って言葉はグッと飲み込んでおく。

 だけど、ヴァイトンさん達はそんな俺の声が聞こえたみたいに大きなため息を吐いた。

 おお、これまた見事な肺活量ですなあ。



「ケンさん。ご理解いただけていないようなので、この際はっきりとお教えしますが、葉が五枚以上ついた水晶樹の枝など、そもそも市場に出回る事は絶対にありません。それこそ王族の方が、季節の祭事の際に創造主様への供物として捧げるほどのものです。ましてや、背丈ほどもある水晶樹の群生地など、はっきり申し上げて存在が知られれば国が出て来て大騒ぎになってもおかしくない程なのですよ」

「ええと、内密にしていただく事って……」

 恐る恐る申し出た俺の言葉に、これまたものすごく大きなため息を吐く三人。

「内密というか……こんな事、言ったところで誰も信じてはくれませんよ。水晶樹の数百、いや数千の群生地など。しかも人の背丈ほどもあるなんてね」

 そう言って乾いた笑いをこぼす三人。すみませんねえ、うちの創造主様って、割と適当で大雑把なんですよ。



「じゃあこうしましょう。ここの存在を内密にしてくださるのなら、新しく一本だけ発見されたって事にしていただいて、水晶樹の葉っぱは定期的に必要な分だけ採取してください。それで、販売した分をその都度俺の口座に支払ってくだされば良いですよ」

 こうすれば資金をかき集めなくても済むだろうと思っての提案だったんだけど、ギルドマスター二人は真顔になった。

「いや、それではいくらなんでも我らに有利すぎでは」

「まあ、もちろん採取の際には立ち合わせて頂きます。留守をする間の分は、まとめて採取してくださっても結構ですよ。まあ地下坑道なだけに、闇取引って事で」

 冗談めかしてそう言ってやると、三人も揃って吹き出して大笑いになった。

「あ、ありがとうございます! 決して信頼を裏切るような真似は致しません!」

 それからギルドマスター二人は、またしても土下座せんばかりに深々と頭を下げた。

「まあ、各ギルドには色々とお世話になってますからね。出来れば事を大きくしないようにお願いしたいです」

 誤魔化すように笑いながらそう言うと、三人はもうこれ以上ないくらいの笑顔でうんうんと何度も頷いていた。

 しかしこれって冷静に考えたら、一職人であるアードラーさんは、後でギルマス達に厳重に口止めされてそうだなあ。なんて、その時の俺はのんびり考えていた。



 そしてこの先の広場で、またひと騒動起こるんだけど……本当に、平穏無事って言葉はどこへいってしまったんだろうなあ。あはは……。

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