マッピングと最初の広場への到着
「おお、マッピングの能力が発揮されてるじゃん!」
準備を整えた俺達は、一応隊列を組んでゆっくりと広い坑道を進んでいた。
そして気がついた。
以前地下迷宮に入った時に、シャムエル様からもらったマッピングの能力が発揮されていて、俺の頭の中に進んだ分だけマップが形成されているのだ。しかも何故か相当奥の方までどんどんとマップが現在進行形で広がっている。ううん、ここってめちゃめちゃ広いじゃんか。
「ああ、これってもしかしてマックス達が行ってる場所って事か」
思わず小さな声でそう呟くと、右肩に座っていたシャムエル様が嬉しそうにうんうんと頷いている。
「そうだよ。今のケンは、ここにいる顔ぶれだけじゃなくて、従魔達ともパーティーを組んでいる状態になってるからね。だから当然彼らが行った箇所はマッピングされるよ」
「へえ、すげえ能力なんだ」
ごく小さな声で会話しつつ、俺は頭の中のマップを眺めながら感心していた。
今回の目的地にしている広場は、この坑道をかなり進んで三つに分かれた一番右側の道沿いに進んだ先にある。そこからさらに三本の道が奥へと続いている。
「ええと、ちょっと質問してもいいですか? ここは鉱山だった場所だったって聞きましたけど、縦穴は無いんですか?」
俺が知っている観光ツアーで行ったあの鉱山は、現在進行形で採掘がなされている生きた鉱山で、あそこは真ん中に大きくて深い縦穴があって、それから奥へと四方八方に横穴が掘られていた。だけどここは本当にいわゆる蟻の巣みたいに延々と坑道が伸びているだけのように見える。途中や坑道の先で幾つか大きな空間になっているのは、おそらくだけど崩落しているのだろうと思われた。
「ここは古い鉱山ですからね。縦穴を中心にして四方に横穴を掘る仕組みは比較的最近なのですよ」
ヴァイトンさんが説明してくれていると、先頭を進んでいたエーベルバッハさんが笑顔で振り返った。
「この鉱山が掘られていた当時は、ひたすら鉱脈が見つかるまで延々と掘り進み、鉱脈が見つかった所を大きく広く掘る。というのが定番のやり方でした。ですのでこのように、蟻の巣のような道が延々と続く、複雑怪奇な鉱山になっとるんです。いくつかある広い空間が鉱脈が発見された箇所で、大きく掘られてこんな風になっとるんですわい」
「ああ、そういう事なんだ。ありがとうございます。勉強になります。じゃあ、いくつかある大きく空間が空いている箇所は、崩落してるんじゃなくて元からこうなってるんだ。へえ、それはそれですげえな」
感心したように俺がそう呟いた時、エーベルバッハさんとヴァイトンさん、それからアードラーさんが揃って立ち止まった。
「ケンさん! お前さん、まさかマッピングの能力持ちなのか?」
真顔で詰め寄られて思わずハスフェル達を見る。
苦笑いしつつ頷いてくれたので、一応頷いておく。
「ええ、まあ、一応……」
「それで、いくつか広場があるって分かってるって事は、もうマッピング出来てるのか?」
「どれだけ検知範囲が広いんだよ!」
これまた真顔で詰め寄られて、また頷く。
「ええと、ほら、従魔達が先行しているでしょう。あいつらが何処にいるのか、俺には分かりますので、結果としてマッピングが出来てる状態ですね」
すると三人は顔を見合わせて無言になった。
「要するに、自分が行った場所だけでなく、従魔達が進んでいる場所まで全部マッピング出来とると、こういう事か?」
「ええ、そうみたいですね」
誤魔化すように笑ってそう答えると、何故だか三人が呆れたようなため息を吐いた。
「どれだけ優秀なんじゃよ。世界最強と謳われる魔獣使いの能力持ちで、実際にありえんくらいの強さの魔獣を複数従えとる。しかも大容量の収納持ちで、完全に透明の氷を作れるほどの高度な氷の術使い。さらにマッピングの能力持ち」
「しかも、従魔達を先行させれば、そのマッピングすら容易に完成する」
揃ってものすごいため息を吐かれてしまい、俺は笑って誤魔化した。おお、すごい肺活量ですなあ。
「まあ、そういう事なら心配はいらなさそうだな」
「そうだな。まあこれなら大丈夫だろうさ」
何故かヴァイトンさんとエーベルバッハさんがうんうんと頷きながらそう言い。アードラーさんも一緒になって頷いている。
「ええと、何がどう大丈夫なんですか?」
若干不安になってそう尋ねると、苦笑いしたエーベルバッハさんが前方を指差して肩を竦めた。
「そりゃあお前さん、さすがに自分の庭のダンジョンに潜ったきり当主が戻ってきませんでした。は、洒落にならぬだろうが」
その状況を考えてちょっと気が遠くなったけど、俺は悪くないよな?
そんな話をしながら進んでいるうちに、最初の三叉路を通り過ぎて無事に目的地の広場へ到着した。一応ここまでジェムモンスターとのエンカウントは一切無し。よしよし。
これは元々安全な場所なのか。それとも、従魔達が駆逐してくれたあとなのかが不明だ。まあ、後で皆からもどんな風だったのか聞かないとな。
そんなことを考えつつ、広場に足を踏み入れた俺達は、目に飛び込んできた光景に目を見張る事になったのだった。
「ええ〜〜〜〜! 何だよこれ。ガラス細工の森か?」
俺の上げた驚きの声に、誰も答えてくれない。
全員が突然現れた目の前の光景に驚き、もう言葉も無くただただ立ち尽くしていたのだった。