明かりを灯して出発進行!
「うわあ、真っ暗」
当たり前だけど、鉱山と言っても廃坑な訳でトロッコ観光の時に見たような鉱山みたいに明かりの一つもついてはいない。扉は開けたままで固定しているから少しは光が差し込んでいるけど、それも入り口付近だけで穴の先は完璧なまでに真っ暗闇だ。
一応、鑑識眼のおかげなんだろう、なんとなくは見えるけどさすがにこのままでは俺達でも危険だ。従魔達はこんな真っ暗闇の中で本当に大丈夫なんだろうか?
先行している従魔達の事が若干心配になりつつも、俺は小物入れの中に入ってくれていたサクラから、まずはランタンとライターを取り出して手早く火をつけた。一応、いつもよりも少し強め程度にしておく。ジェムもまだまだ大丈夫だから、これならいきなり消えるようなことはないはずだ……多分。
俺だけじゃなく、ヴァイトンさんもベルトの小物入れから絶対に入らない大きさであろう懐中電灯のようなものを取り出して点けている。
先ほどは、あの小物入れから同じく有り得ないサイズの巨大な槍を取り出していたからなあ。って事は、あのベルトの小物入れも小さいけど収納袋の一種なのか。
「へえ、あんなサイズの収納袋もあるんだ」
感心したように呟くと、ヴァイトンさんは得意げに笑って小物入れを軽く叩いた。
「これは冒険者時代にダンジョンで見つけて手に入れた俺の自慢の一品なんですよ。見かけは小さいですが、ちょっとした倉庫くらい入りますので、重宝しているんです。今でもこうして、最低限の武器や装備は常に持ち歩いていられるんです」
「おお、自力調達でその容量ですか。それはすごい!」
笑って拍手する俺に続いて、ハスフェル達も感心したように拍手をしていた。
エーベルバッハさんは背中に背負っていたリュック型の収納袋から、俺だと絶対に両手でも持てなさそうな巨大な戦斧を軽々と取り出して手にしていた。いわゆるゲームなんかでよく見るバトルアックスってやつだ。
ううん、あれを振り回そうと思ったら、相当な腕力が必要そうだけどエーベルバッハさんなら余裕なんだろう。ドワーフの身体能力ってのもすげえ。
そういえば斧使いは初めて見るなあ。なんて事を呑気に考えつつ、俺は光に照らされた周囲の壁を見回した。
大きくノミのあとが残っている壁は、しかし特に水が染みてきていたり、どこかが崩落したり欠けたりしている様子も無い。
だけど油断は禁物だよ。
地下水脈がある可能性も考えられるから、足元には充分注意して歩こう。従魔達がいない今、また水路に落っこちるような事があったら、冗談抜きで命に関わるよ。
自分の家の庭で遭難死するなんて、絶対にごめんだからな!
ハスフェルとギイは、トロッコで停電した時に使ったあの懐中電灯みたいなのを取り出して光をかなり強くして灯している。
エーベルバッハさんとアードラーさんは、何か小さな声で呪文のようなものを呟き目の前に小さな光の玉のようなものを出現させた。
聞いてみるとこれは光の術の一つらしい。
「へえ、これは初めて見た」
感心するようにそう呟いて、光るその玉を見つめた。
歩くとふわふわと頭上に浮かぶ光の玉も一定の距離を保ったまま一緒に進んでくれるので、常に少し前を照らしてくれている状態だ。しかも手持ちのランタンと違って上からの光なので影が下に落ちる。なので手持ちのランタンや懐中電灯よりも物が見やすい。それに万一何かあっても両手が空いているので、即座に反応出来るのだろう。これはダンジョン攻略にはうってつけの魔法だね。
入ってすぐのところにある広い場所で、そんな感じでまずは各自が明かりを取り出したところで、誰が先頭になるかで少し話し合い、少なくとも少しはここを知っているのだというエーベルバッハさんがハスフェルと一緒に先頭につき、その後ろにアードラーさん、その後ろに俺とヴァイトンさんが並び殿がギイとオンハルトの爺さんという配置に落ち着いた。
俺とヴァイトンさんは守られてる感満載だけど、俺のモットーは安全第一だから問題無し!
「それじゃあ行くとするか。一応、今日のところはこの地図にある最初の広場まで行って安全を確認したら戻ってこよう。まだ冬は始まったばかりだからな」
「そうだな。せっかくだから皆を誘ってじっくりゆっくり楽しむとしよう」
何故だか妙に嬉しそうなハスフェルとギイの声を聞いて、エーベルバッハさん達は、いつでも誘ってくれればご一緒しますぞ。なんて言ってるし、俺はもう既に諦めのため息を吐いて手持ちのランタンの明かりを最大クラスにまで強くしたのだった。
いやあ、まさかこの先の広場にあんな展開が待っていたなんてさあ……。