買い取り金額と夕食
「ああ、来たね」
ギルドの建物に入った俺達に気付いたディアマントさんが、立ち上がって奥の部屋に案内してくれた。
「それじゃあ買い取り金を渡すからね」
目の前の机に、大きな革の袋が置かれる。今、なんか物凄い音がしたぞ……。
「買い取り金額だが、ブラウンハードロックのジェムが、一つにつき金貨5枚、ブラウングラスホッパーだが、こちらは金貨12枚を付けさせてもらったよ。亜種の方は金貨40枚だ。で、合計金額だが、64,250枚になるよ。どうだ、頑張ったぞ」
もう、金銭感覚が麻痺してきてて、どんな金額を言われても段々驚かなくなってきたよ。
しかし、俺たちの横に大人しく座っていたクーヘンは、目玉が落っこちそうなくらいに目を見開いて口を開けていたけどね。うん、きっとこれが普通の反応なんだろうな。
取り敢えず、鞄に入ったサクラにそのまま飲み込んでもらおうと思って袋を持ち上げようとして、俺は固まった。
「……ディアマントさん、さっきこれを片手で持ちましたよね」
「ああ、別にこれぐらい持てるだろう?」
当然のように言われて、俺は思いっきり首を振って叫んだ。
「どんな腕してるんですか! 俺には無理! せめて半分に分けてくださいよ!」
俺の叫びにディアマントさんだけでなく、ハスフェルまでが一緒になって吹き出した。
「クーヘン、ちょっと持ってみてくれよ。絶対持ち上がらないから!」
俺の言葉に、クーヘンは慌てたように首を振った。
「ご冗談を! どう見ても持てる重さじゃ無いですって」
「だよな! やっぱりそうだよな!」
「ですよ! これを一つの袋に入れるなんておかしいです!」
なんだか妙に意気投合した俺達をハスフェルは鼻で笑って横目で見て、平然と金貨の入った袋を片手で持ち上げた。
「まあ、重いが別に持てない程じゃないぞ」
「だから、お前らの腕力を基準にするなって!」
笑いながら、カバンの口を広げて差し出す。
鞄に放り込まれた金貨の入った袋は、無事にサクラが飲み込んでくれた。
呆気にとられるディアマントさんとクーヘンだったが、俺たちは構わず立ち上がった。
「それじゃあ食事はどうする? 俺としては、あの店にもう一回行きたい」
俺としては、やっぱり米が食いたい! あの買った鍋で自炊しても良いんだけどな。
「ああ良いな。じゃあ夕飯はあそこの店に行くとしよう」
ハスフェルも頷いてくれたので、夕食は昨日に引き続きあの屋台村みたいな店に行く事にした。
「そう言えば、お前らは腹は減ってないか?」
こっちへ来てから、まだ一度も狩りに行かせていない。
「そうですね。出来たら明日は狩りに行きたいですね」
顔を上げたマックスがそう言い、ニニとシリウスも頷いている。
「じゃあ、明日朝市で野菜を買ったら、そのまま郊外へ出てお前らの食事かな。この辺りでジェムモンスター狩りって出来るか?」
「ああ、それなら色々いるぞ。案内してやる」
シャムエル様が答える前に、ハスフェルがそう請け負ってくれた。
「ええと、シャムエル様は、クーヘンには普通に小動物に見えてるんだよな?」
小さな声でそう尋ねると、俺の右肩に座ったシャムエル様は、笑って頷いた。
「そうだね。まあ気にしないで良いよ。大丈夫だって」
うん、神様に大丈夫だって言われているのに、そこはかとなく漂う不安感は何なのかな? でもまあ、神様がそう言うのなら何とかなるんだろう。
若干の不安を、俺はまとめて、いつもの如く明後日の方向に向かって放り投げておく事にした。
「うわあ、これはまた賑やかなお店ですね」
クーヘンが、嬉しそうに目を輝かせて店内を見ている。
俺達は、昨日と同じあの屋台村みたいな店に来ていた。もちろん、マックス達も全員一緒だ。
ハスフェルが、クーヘンに夕食代を渡している。
「何だよ。俺が出すつもりだったのに」
「いやあの、夕食代くらいは持っていますから」
慌てたようにそう言うクーヘンを見て、俺たちはちょっと考えた。
「金はどうやって稼いでいたんだ?」
「ああ、ジェムモンスターを火の術で倒して手に入れたジェムを、商人ギルドで買い取ってもらっていました。商人ギルドは、特に登録などが無くても一個から買い取ってくれますから」
おお、冒険者ギルドだけじゃ無く、商人ギルドなんてのもあるんだ。
俺は、その話を聞いて密かに感心していた。
結局、俺は悩んだ末にラーメンっぽいのと、飯屋でおにぎりを買った。
ラーメンとご飯、あはは! 炭水化物万歳だぞっと! うん、明日の朝は野菜中心メニューにしよう。
で、初のラーメンはシンプル汁そばって感じだった。多分鶏がらスープ。これはこれで美味い!
小さな食器を取り出してやり、短く切ったラーメンの麺とスープも少しだけ入れてやる、おにぎりは一欠片ちぎって、お皿に並べてやると、シャムエル様は大喜びで食べ始めた。
「良いんですか? 小動物にそんな味のあるものを食べさせても」
大喜びで食べているシャムエル様を見て、クーヘンが心配そうに俺に聞いてきた。
まあ、当然だよな。普通はこんな味の付いたものを食わせたら駄目だろう。
「大丈夫だよ。こいつは特別なんだ」
笑って突っついてやると、シャムエル様は嬉しそうにその指を掴んだ。
「可愛いですね」
「だろ? 大切な仲間だよ」
「この子もテイムしたんですか?」
まじまじとシャムエル様を見ながら聞かれて、俺は思わず吹き出した。
「違うよ。そうだなぁ……まあ言ってみたら、気に入られちゃったって感じかな。一緒にいてくれるんで、俺も嬉しいよ」
掴まれた指を上下に動かしてやると、何が楽しいのかシャムエル様は嬉しそうに笑った。
「こいつをテイムしてから後、何度かテイムしてみようとしたんですけれど、全く駄目で、正直、どうやってこの子をテイムしたのか分からないんですよ」
スライムのドロップを撫でながら困ったように言うその言葉に、俺は思わずシャムエル様を見た。
「大丈夫だよ。彼の中にちゃんとテイマーの血は目覚めているからね。恐らく弱らせるのが足りなかったんだと思うよ。何なら、彼が捕まえられそうな弱めのジェムモンスターのところに案内してあげるから、一度テイムさせてみたら良いよ」
それを聞いていたハスフェルが頷くのを見て、俺もまだ捕まえてないジェムモンスターなら、テイムしても良いかもな。なんて呑気に考えていた。
それぞれに食事を終えて食器を返しに行った後、他の店を見ていて気がついた。
「あれ? もしかして、あの店が売ってるのってパスタじゃね?」
そう、その店が売っているのは、どう見てもスパゲッティっぽい麺にミートソースっぽいものがかかっている一品だった。
よし、明日はあれにしてみよう。
どうやらこの辺りは特に、食生活はかなり俺の知る世界に近い事が判明した。うん、一安心だな。
その後、軽く飲んで店を後にした。
さて、明日は久々のジェムモンスター狩りかな。
クーヘンは、ハスフェルと同じ部屋に追加で泊まる事になり、ギルドで手続きをお願いした。ついでに、後三日延長で泊まる事にした。
言い出したのは俺です。だって、心ゆくまで米が食いたいからです。