和室だ〜〜〜〜!
「おお、相変わらず広い部屋だねえ」
当主の部屋に入った俺は、苦笑いしながらそう呟いた。
一応、過剰に豪華な元々あった家具の内のいくつかを撤去してもらい、もう少しだけ実用性のある、とはいえ俺的には充分過ぎるくらいに立派な、ドワーフ特製の新しい家具が運び込まれていた。
交換してもらったのは、一番使いそうなソファーとか椅子とか机とかだよ。だって、座るだけで緊張するような歴史的骨董品のソファーなんて正直言ってかけらも寛げる気がしないし、それでうっかり従魔に爪研ぎなんかされた日には……ヴァイトンさん達に知られたらどうなるか、考えただけで怖いよ。
そしてぐるっと部屋を見回した俺は、部屋の一角に出現していた依頼通りのそれを見て満面の笑みになった。
そう、いわゆるリビングの一角に作られた和室みたいなあれだよ!
しかも壁全面が複数の障子になっているから、解放感を求めたい時は障子を外してしまう事も出来る仕様だ。
まず目に飛び込んできたのは、白木の木目が美しい、和紙を張った何枚もの障子。そして小上がり風に部屋の床から50センチくらいの位置に和室の床は上げられていて、正面側にこれも綺麗な彫刻が入った木製の箱型の階段が置かれていた。ここが和室の入り口になる部分だ。
大きな箱型の和室の四隅に立つ太い柱は、これまた木目が綺麗な多分檜っぽい白木だし、敷居の部分にまで細やかな気配りが見て取れる。そしてその柱が支える天井には、見える部分だけ瓦が数列にわたって敷き詰められている。和室の天井もそれっぽく作ってもらえるように、詳しく説明してお願いしたんだけど、もう完璧過ぎて笑いが出るレベルだよ。ドワーフの技術舐めてました。
いやあ、異世界でまさかここまで完璧な和室にお目にかかれるとは。少なくとも外見はもうこれは完璧な和室だよ。
笑み崩れそうになるのを必死で我慢しつつ、まずは階段に座ってブーツを脱いだ。それからサクラに頼んで履いている靴下を念の為綺麗にしてもらう。
いやほら、一応新しい畳だしさ。いきなり汗の跡がベタベタついたりしたら嫌じゃん。
嬉々として当然のように靴を脱ぐ俺を見て、エーベルバッハさんとアードラーさんも満面の笑みになる。
「では、開けさせていただきます!」
そのまま階段を上がって、そう言いながらゆっくりと目の前の障子を引いた。
音も無く、軽い力だけで障子が開く。
おお、さすがドワーフ製。こんなところまで完璧じゃん。
そして、またしても目に飛び込んできた完璧な光景に俺は歓声を上げた。
「畳の部屋だ〜〜〜! しかも炬燵付き〜〜〜!」
そう、広い二十畳くらいは余裕でありそうな部屋の一角には、大きめの横長の炬燵セットが鎮座ましましていたのだ。
別注の横長の炬燵布団には、やや厚手の毛布も掛けられていて横には四角い座布団と座椅子が幾つもセットして並べられている。
「中はどうなっているかと言いますと……おお! これだよこれだよ。掘り炬燵だよ!」
完璧に注文通りのそれを見て、俺はもう笑いが止まらない。
この横長の炬燵は、約1、5メートル角くらいの正方形を二個並べた大きさになっていて、半分が掘り炬燵になっているのだ。
つまり座椅子に座って掘り炬燵で温まる事も出来るし、畳の方でなら足を投げ出して座るか、潜り込んで寝転がって昼寝する事も可能だ。
しかも、こたつの内側上部には、それぞれ当然だけど特別製の平たい暖房器具が取り付けられていて、ジェムをセットしてスイッチを入れればコタツの中はポカポカになる訳だよ。
もちろん火傷しない程度の温度になるように調整してくれてある。
「うああ、幸せ……俺、もうここから出たくない……」
いきなり炬燵に潜り込んで収まってしまった俺を見て、エーベルバッハさんとアードラーさんが揃って吹き出す。
「いやあ、喜んでもらえたようで何よりだよ。まあ使ってみて何か不具合があったり、また希望があればいつでも遠慮無く言ってくれよな。こんなワガママだったら大歓迎だよ。いやあ、久々にいい仕事させてもらったよ」
嬉しそうに笑ったアードラーさんの言葉に、振り返った俺は満面の笑みでサムズアップを返した。
「完璧だよ。もう最高!」
それから俺は、呆然とこっちを見ているハスフェル達に向かってにんまりと笑って手招きをした。
「まあ、騙されたと思って入ってみろよ。ここは靴を脱いで入る場所だからさ。一応スライム達に足を綺麗にしてもらってから入ってくれよな」
「おう、へえ面白い事を考えたもんだなあ」
笑ったハスフェルの言葉に、ギイとオンハルトの爺さんも嬉しそうに頷き、順番に靴を脱いで言われた通りにスライム達に足を綺麗にしてもらってから開けたままだった障子に興味津々の様子で和室に入って来た。
「せっかくですから、お二人もどうぞ」
少し離れて見ていたエーベルバッハさんとアードラーさんも手招きしてやる。
おずおずと靴を脱いだ二人に、スライム達が一瞬だけまとわりついて足を綺麗にした瞬間、二人が揃って悲鳴を上げたのを見て、俺達は遠慮無く吹き出したのだった。