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雪のバイゼン

「うわあ、めっちゃ積もってるよ」

 一面雪景色になった通りを見て驚いたように俺が叫ぶと、前を歩いていたエーベルバッハさんとガンスさんが揃って振り返った。

「何だ何だ、その反応を見るに、ケンさんはまさかとは思うが雪を見るのは初めてか?」

 苦笑いするガンスさんの声に、俺は誤魔化すように笑って首を振った。

「あはは、昨日エーベルバッハさんにもそう言われましたよね」

 ガンスさんの隣では、昨日全く同じ事を俺に言ったエーベルバッハさんが笑いながら頷いている。

「何でも彼の故郷は、まあ雪は降らん訳ではないがほとんど積もることは無かったそうだからな。昨日も薄く積もった道路の雪を踏んで、子供みたいに大喜びしてたぞ」

 からかうようにそう言われてしまい、俺はもう一度誤魔化すみたいに笑って肩を竦めた。

「いや、さすがに初めて見たってわけじゃあないですけど、ここまで積もったのを見るのは初めてですね」

 思わず手を伸ばして道沿いに山になっている雪を摘んでみる。

 上の部分は意外にサラサラで、俺が軽く触れただけでちょっと山の上側部分が崩れてきたみたいだ。だけど部分的に塊になっていたり少し溶けて固まっていたりするので、積み上がってる雪は真っ白ってわけではない。

「これくらいで驚いとったら、もっと本格的に降り出したら大変な事になるぞ」

 ガンスさんが面白そうに笑いながらそう言って俺の背中を叩く。

「エーベルバッハさんの身長くらい積もるんだって聞きましたからね」

 足元に気を付けながら歩き出した俺の歩調に、二人が合わせてゆっくりと歩いてくれる。

 少し残った雪が凍って塊みたいになってて、意外に歩きにくい。これは気をつけないと、つるっと滑って後頭部強打! なんて悲惨な事になりかねないぞ。

「ああ、紹介してやるから、雪道用のブーツを買った方がいいぞ。それだと滑るだろう」

 歩くのに苦労している俺を見たガンスさんに苦笑いしながらそう言われて、俺は慌てて店を紹介してもらえるようにお願いしたのだった。成る程、雪用ブーツってのがあるのか。それは是非とも確保しておかねば。



「ううん、しかしここまで降るとなるとあの家の雪かきってどうすればいいんだろう。ギルドに頼んで人を雇ったりしたほうがいいんですかね?」

 最後は二人を振り返りながらそう尋ねてみる。

 分からない事は、知ってる人に聞くのが一番だよな。

「ああ、あの館は雪解けの細工が屋根に施されているから基本的には雪かきの必要は無いよ。まあ場所によっては落ちた雪の山が大きくなりすぎないように崩す必要はあるかもしれんがな。お前さんなら従魔達が喜んでやってくれるだろうさ」

 当然のように言われてしまい、思わず立ち止まって建物の屋根を見る。

「確か昨日の説明では、屋根が裏庭側に傾斜してて、屋根の雪は裏庭側に落ちるって聞きましたけど、それの事ですか?」

 昨日聞いた説明を思い出しつつ質問する。

「まあそんなところだ。特にケンさんが買った大邸宅などは屋根も一つではないからな。幾つか雪を落とすための広い場所があって、そこに上手く落ちるように屋根に細工がしてあるんだよ。ただし、時に大きな氷柱が出来たり、ドカ雪が降って雪の山が大きくなり過ぎたりしたら、今言ったように山を崩したり氷柱を叩いて落としたり程度の事はしなければならんだろうな。まあ、ハスフェル達がいるから大丈夫だろうけど、もしも人手がいるようなら、ギルドに依頼を出してくれれば冒険者ギルドから、信頼のおける冒険者を紹介してやるよ」

 ガンスさんの言葉に何となく納得する。

 要するに、冬場になると冒険者達の主な稼ぎであるジェムモンスター狩りに、基本的に行けなくなる。なので、資金に余裕のある上位冒険者達は骨休みを兼ねてのんびりすればいいだろうけど、それ以外の、いわば日銭を稼ぐ仕事が無くなって困る、特に若い駆け出しの冒険者達が続出するわけか。なのでそんな彼らのために、冬の間は雪かきがジェムモンスター退治の代わりの主な仕事の依頼になるって事なんだろう。

 雪かきは力仕事だから、家によっては男手がいなくて困る事だってあるだろうしな。

「はあ、そうなんですね。勉強になります」

 感心したように素直に頷く俺を見て、二人は顔を見合わせて笑っている。

「まあ、街の中はどれだけ雪が降っても一応道はこんな感じで軍が雪かきはしてくれるし、お前さんのあの館も、一応玄関までは依頼してくれれば雪かきの対象になるからな」

「場合によってはお願いしますね」

 絶対俺がやるより上手くやってくれそうだ。場合によっては手伝うくらいの事はするつもりだけど、あの広い敷地内を全部雪かきするなんて、絶対俺には無理だもんな。

「了解だ。じゃあその話も後でしようか」

「ほれ、風邪でも引いたら大変だ。話は中に入ってからな」

 笑ったエーベルバッハさんに背中を叩かれて、俺とガンスさんが笑って頷き大急ぎでギルドの建物の中へ駆け込んで行ったのだった。



「うわあ、中は暖かい!」

 実は外ってかなり寒かったみたいで、建物の中に入って一気に暖かくなって思わずそう呟く。

「な、特に雪国でジェムが日常生活にどれだけ必要か分かるであろう?」

 そう言って真顔になるガンスさんとエーベルバッハさん。

 その言葉に、俺も思わず真顔になって頷いたよ。

 確かにそうだ。暖房が必須の地域で、燃料であるジェムが枯渇することはすなわち死を意味する。

「今年の冬は、皆が暖かい部屋で笑顔でいられるようにたくさんお譲りしますからね」

 笑って鞄を叩くと、二人も笑顔になる。俺はそのまま、二人と一緒に奥の部屋へ向かったのだった。



 さて、バイゼンのギルド連合はどれくらい買ってくれるんだろうね?

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