朝食と彼らなりの気遣い
『おはよう、起きてるか?』
ちょうど部屋に戻って身支度を済ませたところでハスフェルから念話が届いた。
『おう、おはようさん。ちょうど今準備が終わったところだよ。朝飯はどうするんだ? 冬の間って屋台とかやってるのか?』
一晩でどれくらいの雪が積もってるのか知らないけど、雪が積もっていたり降っていたりする中で屋台をするのはかなり大変そうだ。
『ああ、初雪が降れば屋台はどこも一旦終了だよ。手持ちの買い置きでも何かあるだろう?』
『おう、それなら色々あるのを出すから来てくれよな』
当然トークルームは全開なので、三人の笑った声が聞こえてすぐに気配が消える。
「じゃあ、色々出しておくか」
苦笑いして、作り置きのサンドイッチや惣菜パンなんかを適当に並べておく。
「ああ、コーヒーがかなり減ってるなあ。まあ、まだ豆は山ほどあるから、後でハスフェル達に淹れてもらおう」
空になった幾つものコーヒー用のピッチャーを見て思わずそう呟く。
コーヒーは、ハスフェル達でも手伝ってもらえる貴重な作り置きだからな。
「おはようございます」
リナさん一家とランドルさんも、ハスフェル達と一緒にまとめて来てくれた。
ちなみに今朝は、ちゃんと、俺が返事をして誰なのか確認してからスライム達に開けてもらったよ。
「おはようございます! あの、今更なんだけど、俺達が持っていた故郷の薬草もハスフェルさん達にまとめて渡しておきました」
「おはようございます! 厚かましいですけど、ケンさんの作ってくれる料理は本当に美味いですからね。ひと冬お世話になります!」
部屋に来るなり、オリゴー君とカルン君が何やら神妙に俺のところへ来て報告してくれた。
どうやらリナさん達がハスフェル達に食事代代わりに渡していた、例の草原エルフの故郷の森でしか採取出来ない貴重な薬草を彼らも大量に持っていたらしい。なので、リナさん達から俺達が万能薬の材料を欲しがっているって話を聞いて、彼らもそれをハスフェル達に食事代の代わりに渡す事で話をつけたらしい。
しかもリナさん達も、あの大騒ぎの神様からの伝言を伝えに帰郷した際、バイゼンへ来る前に森へ行って例の薬草をありったけ、採取出来るものは根こそぎ採取して来たらしい。
聞くところによると、その薬草って草原エルフの里の貴重な外貨獲得の手段らしいから、リナさん達なりの故郷への仕返しだったのかもしれない。
こちらとしては、万能薬の材料はそれこそ薬草一枚でも多く欲しいところなので、ハスフェル達は大喜びで受け取ってくれたらしい。
まあ、それで彼らが遠慮なく食ってくれるのなら、俺としても問題無いよ。
食材の買い置きはまだまだ大量にあるので、人数が少々増えたところで一冬くらいなら籠城しても大丈夫なくらいに余裕がある。
だけど屋台にしばらく朝食を食べに行けないとなると、もうちょっとサンドイッチとかの朝食用の軽めの作り置きをしておいた方がいいかもな。
「気を使わなくてもいいのに。でもそれは有り難いから遠慮なくもらっておくよ。それじゃあ好きに取ってくれよな」
笑って机を振り返ると、ランドルさんが収納袋から何か取り出してお皿ごと机においているところだった。
ランドルさんは、あんな風にちょくちょく買い置きの料理を色々と出してくれる。しかも俺の出す料理とはちょっとメニューが違ってたりもするので、これもありがたくお願いしている。
今も、何やら少々辛そうな赤い粉末のかかった唐揚げぽいのを山盛りに並べてくれていたよ。
美味そうだからあれは絶対に確保しよう。
それぞれ並べたサンドイッチなんかを好きに取り、俺はいつものタマゴサンドを二つと鶏ハムと野菜たっぷりのサンドを取り、シャムエル様を振り返ってカツサンドを二個取った。
それからさっきのランドルさんが出してくれた唐揚げも小皿に山盛りに確保する。もちろん二人分だよ。しかしこれは美味しそうな予感しかしないぞ。いわゆるホットチリっぽい感じだ。
サンドイッチと唐揚げ、それからコーヒーをマイカップに注いだ俺は、いつものように簡易祭壇にまとめてお供えして、収めの手を見送ってから席に戻った。
お皿を持って高速ステップを踏んでいるシャムエル様からお皿を受け取り、タマゴサンドとカツサンド、それから唐揚げも大きそうなのを選んで並べてやる。
「はいどうぞ」
盃にコーヒーをスプーンですくって入れてから渡してやると、またしても歓喜の高速ステップを踏んでいるシャムエル様。そして隣へすっ飛んで来て、一緒になって見事なまでのシンクロ振りでステップを踏むカリディア。
「じゃあ、カリディアにはこれだな」
収納している果物から、あの激うま葡萄を一粒取り出してやる。
もちろん、果物はサクラがベリー達に定期的に渡してくれてるんだけど、これはダンスに対する報酬だもんな。
受け取ったカリディアは、シャムエル様と並んで座ってせっせとブドウを齧り始めた。
ううん、シャムエル様とカリディアが並んで座っていると、尻尾のもふもふ度が最高値を突破してるよ。
こっそりと左手で交互にもふもふな尻尾をもふりつつ、俺も自分の分の唐揚げを一つ摘んで口に放り込んだ。
「ううん、ちょっと辛いけどこれは美味しい。でもランドルさん、これはお酒の当てにぴったりですよね、次は飲む時に出してくださいよ!」
俺が笑いながらそう言うと、どうやら同じ事を考えていたらしい全員が揃って吹きだし大爆笑になったのだった。
「もちろんですよ。じゃあ今夜の飲み会の時には、俺のおすすめのつまみを山ほど出しますのでお楽しみに!」
何故かドヤ顔でランドルさんがそう言い、部屋は大爆笑かつ拍手大喝采となったのだった。
ううん、今夜も宴会決定のようだね。