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クーヘン青年と買い物

「ってか、クーヘンは今までってどんな生活をしていたんだ?」

 広い倉庫街の道路を街へ向かって戻りながら、俺は顔を上げてハスフェルと一緒に乗るクーヘン少年を見た。

「普段は姿隠しの術を使っていました。ほとんどの人は私を見ても驚くだけなんですが、たまに私を見て武器を持って追いかけて来る奴がいるんですよ。最初に何度か酷い目にあって、それ以来、街へ入る時は姿隠しの術を使って入るようになりました」

「それと、そいつはいつ捕まえたんだ? 従魔はそいつだけなのか?」

 俺の質問に、クーヘンは小さく頷いた

「はい、私の従魔はこの子だけです。草原で野宿したある日、スライムに出会って叩きのめしたんです。ちょっとその日は体調が悪くて魔法を使いたくなかったので、持っていた棒で叩いて追い払うつもりだったんですよ。そうしたら、叩いたスライムがその場から動かなくなって」

 もう俺たちには、その先の展開が読めてしまった。

「追い払おうとしたら、妙にひっついて来て、掴んだら何故だか光って喋り出したんです。驚いたなんてもんじゃなかったです。それで、足元に丸くなってるこいつを見たらなんだかドロップみたいだなって思って、そう言ったら、よろしくです! ご主人様! って叫ばれて、もう一度俺まで叫びましたよ」

 その言葉に、俺たちは顔を見合わせて吹き出した。

「何だかよく分からなかったんだけど、どうやらこれがスライムをテイムしたんだって事だって気付いて、それからはこいつと一緒に仲良く旅をしました。こいつがいれば危険な魔獣がいればすぐに教えてくれるし、夜も見張りも任せられますからね。今ではもう本当に大切な仲間ですよ」

 懐から出てきたドロップを撫でているクーヘンは、本当に嬉しそうな顔をしていた。

「そんな時、すごい従魔達を連れた魔獣使いがいるって噂を聞いて、探していたんです。それで、すぐに見つかったんですけど、その、あまりの従魔達の大きさに怖くなって、でも、せっかく見つけた大先輩だし……」

「それで、ずっと後をつけていたのか?」

「うう、すみません。でも、まさか気づかれてるとは思いませんでした。だって、ずっと姿隠しの術を使っていたんですよ。それなのに、どうして分かったんですか?」

 驚くクーヘンに、俺たちは揃って肩を竦めた。

「まあそれに関しては、おいおい説明するよ。俺たちには、まあ色々と見えるんだよ」

 苦笑いするハスフェルに、クーヘンは慌てたように首を振った。

「ああ、申し訳ありません。詮索する気はありませんので、どうか気になさらず」


 うん、見かけは子供だけど、中身はやっぱりおっさんっぽいぞ。


 若干遠い目になった俺は、ようやく近づいてきた街並みを眺めて、ハスフェルを見た。

「じゃあ先ずはクーヘンの為の買い物かな? 帰りにギルドに寄って、ジェムの買い取り金を受け取って来ないとな」

「ああ、そうだな。それならその時に、こいつの分もギルドに登録してやろう」

「あ、そうだね。それはいい考えかも。ってか、それなら背は低くてもいいから、見かけは大人にしておいたほうが良くないか?」

 俺の言葉に頷いたハスフェルは、従魔達の足を止めて建物の陰に隠れた。

「ずっとこの年齢のままの少年の姿は、幾ら何でも不自然だろう。それなら、小柄な大人って設定の方が無理がなさそうじゃないか?」

「ああ、確かにそうだな。クーヘン、もう少し年齢を上げられるか?」

「人間の大人ですね。えっと、こんな感じでしょうか?」

 シリウスに乗ったまま、クーヘンは軽く手を叩いた。

「あ、いい感じかも」

 思わず俺が呟いた通り、クーヘン少年の姿は、もう少し年齢が上のクーヘン青年に変わっていた。

 二十代前半ぐらいだろうか。中々の好青年だ。ただし……背は低い。パッと見た感じ、160センチは確実に無いだろう。

「まあいいんじゃ無いか。背が低い奴も普通にいるよ」

「2メートル近い大柄なハスフェルが言うと説得力皆無だけどな。まあいいんじゃ無いか。それなら普通にギルドに登録しても不自然じゃ無いと思うよ」

 俺の言葉に、クーヘン少年改めクーヘン青年は照れたように笑った。

「まだ、私は人間の感覚というのがよく分かりません。なんかお気付きの事があれば、遠慮なく仰ってください」

「あはは、俺も言ったように常識を勉強中なんだよ。改めてよろしくな」

「はい、こちらこそよろしくお願いします!」

 目を輝かせるクーヘンに手を振って、俺たちは街へ戻った。




「駄目です、そんな高価な品」

 必死になって首を振るクーヘンを無視して、俺たちは彼の装備品を買いに職人通りへ来ていた。

「これが良いんじゃないか?」

 ハスフェルが手にしたのは、俺が最初にしていたような革製の胸当てだ。横には籠手と脛当ても置いてある。

「ほら、大人しくしてろ。合わないところは直してもらわなくちゃいけないんだからな」

 言われるままに、装備品を身に付けていく。

 この店の店主のドワーフが、肩当ての部分を取り外して、高さの調整をしているのを俺は黙って見ていた。

「へえ、あんな風にして合わせるんだな」

 右肩に座ったシャムエル様も、面白そうに彼らを眺めている。

「なんか良いよね。こういう職人さんが作った品物って」

 店を見ながらシャムエル様が嬉しそうにそんな事を言う。

「確かにそうだな。だけど、これをどうやって作ってるのかなんて、俺にはさっぱり分からないよ」

「私にも分からないね。こう言うのを見ると、頑張って世界を整えてやらなくちゃいけないなって思うよ。私の手に、彼らの全てが委ねられているんだもんね」

「お、神様っぽいお言葉、頂きました」

 からかうように俺が言ってやると、シャムエル様は小さな手で俺の耳を引っ張った。

「痛いって!」

 笑った俺は、逃げる代わりに右に首を傾けてシャムエル様に頬ずりしてやった。

「おお、もふもふ尻尾頂きました」

「こらこら、勝手に私の尻尾で遊ぶんじゃありません!」

 怒ったようにペシペシと額を叩かれたが、シャムエル様の声も笑っている。

「何をやってるんだ、お前らは」

 呆れたようなハスフェルの声に顔を上げると、彼の隣には胸当てと籠手、脛当てをしたクーヘンが立っていた。

「子供用だったらしいが、防御力は殆ど変わらないらしいからこれでいい事にするよ。あとは武器だな」

「あ、じゃあそれは俺に贈らせてくれよ」

 ここへ来るまでに、彼の着替えもいくつか購入した。

 俺も、ついでにシャツとズボン、それから下着を何枚か買っておいたよ。サクラとアクアが綺麗にしてくれるから大丈夫だけど、まあ、着替えぐらいは持っておきたいもんな。

「私は、剣は使った事がありません。短剣程度です」

「なら、短剣で良いんじゃないか。見てみよう」

 一旦店を出て、ハスフェルお勧めの武器屋に入る。


「おう、ハスフェルじゃないか。どうした? 研ぎか?」

 ここでも、頑固そうなドワーフのおっさんが剣を研いでいた。

「いや、ちょっと色々あってこいつの面倒を見る事になってな。石付きの短剣を見せてもらえるか」

「おい、石付きって事は、そいつは術師か?」

 立ち上がったドワーフは、奥の引き出しの方に向かった。

「ああ、火の術を使うぞ」

「そりゃあ頼もしいな。それなら、これかこれだな。赤い石は火の術と相性が良い」

 引き出しから、何振りかの短剣を取り出して持って来た。

「へえ、術を使う時に、石付きの物を使うんだ?」

 思わずシャムエル様に小さな声でそう聞いた。

「まあ、無くてもいいけど、あった方が術が楽に使えるよ。言ってなかったっけ?」

「初耳でございます」

 相変わらず、大雑把だなあもう。

「それなら、俺も何かあった方が良いかな?」

 俺の呟きに、店主が反応する。

「何だい、魔獣使いの兄さんも、術師なのか?」

 驚く店主に、俺頷いた。

「まあ氷の術を少々ね」

「それなら、これがお勧めだぞ。青い石は水系の術に最適だ」

 差し出された短剣は、柄の先に綺麗な水色の透明な石が嵌められていた。

「あ、良いんじゃない? アクアマリンだね」

 あ、聞いた事ある。宝石じゃんか。

「じゃあこれと、そっちのかな」

 クーヘンが持っているのは、赤い石が入った短剣だ。

 俺は自分の剣帯に買った短剣を鞘ごと取り付け、クーヘンは鞘付きの革製のベルトも付けてもらった。

 短剣二本とベルトで、金貨五枚を払って店を出た。

「それじゃあ、ギルドへ戻って夕食かな」

 俺の言葉に、ハスフェルも頷いた。

 相変わらずの大注目を集める中を、俺たちは揃って、ひとまずギルドへ向かって戻って行ったのだった。

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