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気をつけます!

「突き出してきたぞ」

「おう、ありがとうな」

 意外にすぐに戻って来たハスフェル達の言葉にまだマックスに抱きついていた俺はそう答えて、ようやく腕を解いてマックスから離れた。

 椅子に座ったままハスフェル達を見ると、四人は揃って俺を見たあと何故だかものすごく大きなため息を吐いた。

 おお、ランドルさんのため息もすげえ。ハスフェル達といい勝負してるよ。

「あの連中、なんとここのギルドに冒険者登録していた奴ららしいぞ。ただし、一度もまだギルドの依頼も買い取り依頼もしていない。数日前から上の個室の部屋に泊まっていたらしいから、ケンがどこの部屋に泊まっているのかは、おそらくだがお前が出入りしているのを見て勝手に確認したんだろうとの事だ。一応、ギルドマスターのガンスには襲われた事は直接話をしておいた」

「地脈の回復に伴い、最近新しく冒険者登録するやつが増えているらしい。なので、ああいったちょっとタチの悪い連中も紛れ込む事があるそうだ。まあ、自己責任と言われればそれまでだから、今度から鍵を開ける時は慎重にな」

「おう了解。さすがに街の中は安全だと思ってたよ。次からは気をつけるよ」

 俺も大きなため息を吐いて、それから改めてコンロの火をつけた。



「じゃあ、もう怪我もなく全員無事だったからいい事にするよ。夕食はグラスランドブラウンボアの肉で牡丹鍋にしてみたから、お好きなだけどうぞ、ああ牡丹鍋って、ご覧の通りに味噌鍋の事だよ。脂身の多い猪肉をこんな風にすると牡丹の花っぽく見えるから、俺の故郷ではそう呼んでたんだ」

「へえ、これはまた風流な名前の鍋ですねえ」

「うおお〜!めっちゃ美味しそう!」

 オリゴー君とカルン君の叫ぶ声が聞こえて、俺はやっと笑う事ができた。

「おう、美味そうじゃなくて美味いぞ。肉は山ほどあるから、好きなだけどうぞ。肉や他の具が無くなったら、そっちに用意してあるから追加を入れて火を強くしてくれよな。ご飯にこの味噌汁をかけて食うのもおすすめ。だけどまあ、これは好みがあるから無理にとは言わないよ」

「そんなの、ケンさんが美味いって言う食い方をしないわけないでしょうが! ああ、じゃあお代わりはそのやり方で食べる事にしよう」

 横からカルン君が真顔でそう言い、リナさん達も笑っている。



 なんだか皆に気を遣わせてるみたいで、ちょっと申し訳なくなったよ。

 いや、さっきのはひとえに、俺が相手を確認もせずに迂闊にドアを開けたからであって、どうぞ気にしないでやってくださ〜〜い。



 内心で平謝りしながら、俺は鍋の時にいつも使う携帯用の鍋を取り出した。

「こういうの持ってたら出した方がいいぞ。それで、とりあえず自分の分を確保してくれ。何しろ、ハスフェル達の食う量は半端ねえからな」

「おう、俺達がおかしいみたいな言い方はやめてくれよな」

「そうだそうだ。俺たちは別に普通だぞ〜〜!」

 当然のように同じような携帯鍋を持ったハスフェルとギイが揃ってそう言う。

「いや、絶対おかしいから。普通って言葉の意味を一回辞書で引いてみろよな」

「ううん、それはした事ないなあ」

 携帯鍋を置いたギイが、しみじみとそんな事を言うもんだから、俺だけじゃなくほぼ全員同時に吹き出して部屋は大爆笑になった。

 まあおかげで、部屋に残っていた妙な緊張感というか、俺に気を使う雰囲気は綺麗さっぱり無くなったけどな。



「って事で、あとは好きに食え。以上だ!」

 そう言って、俺はコンロの火を止めて持っていた携帯鍋に大急ぎで肉と野菜を始め色々と集め始めた。

「出遅れてなるか!」

 ハスフェル達がそう言って鍋の周りに集まる。

「うああ、肉が無くなるぞ〜〜!」

 慌てたアーケル君の叫びを合図に、残りの全員も鍋に殺到する。

 大騒ぎをしながら肉の取り合いをする彼らを見て、自分の分をしっかり確保した俺は、心の中では感謝しつつも大笑いしながら眺めていたのだった。

 うん、仲間っていいよな。



 いつものように、簡易祭壇に自分の分の携帯鍋いっぱいに入った味噌鍋と、それから冷えた白ビールとお櫃ごとご飯も取り出して一緒に並べておく。

「グラスランドブランボアの牡丹鍋だよ。少しですがどうぞ。なんだかわからないうちに強盗に襲われかけて、従魔達とハスフェル達に守ってもらいました。仲間の有り難さと自分の迂闊さをまたしても思い知らされたよ。気をつけますので、今後ともよろしくお守りください」

 最後はちょっと違う気もしたけど、一応相手は神様なんだからこれでいいよな。

 いつもの収めの手が現れて俺の頭を何度も何度も撫でてから、料理をひとしきり撫で、最後に鍋ごと持ち上げるみたいにして消えていった。

「あっちにもなんだか気を遣わせちゃったみたいだな」

 小さくため息を吐いて顔を上げた俺は、改めてもう一回手を合わせてから鍋とビールを持って自分の席へ戻ったのだった。

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