のんびり昼寝と夕食準備
「それじゃあ、一旦戻りますね」
預かり票をもらった俺は、眠くなって来たので一旦部屋に戻って休む事にした。
相変わらず外はそれほどではないがずっと雪が降っていて、足元の雪は先程よりもさらに多くなってる気がする。
「へえ、これはちょっとテンション上がるなあ。ううん、もうちょい積もったら雪合戦とかやってみたいぞ」
小さくそう呟いて、大喜びのハスフェル達から集中攻撃される自分の姿を思い描いてしまい、慌てて頭から追い出したよ。
危ない危ない。大喜びする笑い声まで余裕で脳内で再生出来たぞ。
「はあ、ただいま。おお暖かい」
宿泊所の部屋は、寒い外から帰って来たら驚くほどに暖かい。
「ううん、こういう日こそお風呂に入って温まりたいんだけどなあ。まあ無いものは仕方がない。諦めてニニ達に温めてもらおう」
苦笑いしながらそう呟き、手早く装備を外していく。
「ご主人綺麗にするねえ〜〜〜!」
跳ね飛んできたサクラが、一瞬で俺を包み込んで綺麗にしてくれる。
「おう、ありがとうな」
手を伸ばして撫でてやる。
「ううん、冷たい」
スライムの体は意外にひんやりしていて、せっかく少し暖かくなった指先がまた冷たくなってしまった。
「ニニ、マックス。入れてくださ〜〜い!」
笑いながらそう言って、既にベッドでそれぞれ寛ぎモードの二匹の隙間に飛び込んでいく。
「はいどうぞご主人、私のお腹は暖かいわよ」
笑ったニニが、丸くなっていた体を起こしていつもの体勢になってくれる。
「では遠慮なく〜〜」
そう宣言していつものように腹毛の海へ潜り込んでいく。
「うわあ、めっちゃ暖かいぞ」
もふもふのニニの腹毛の中でもぞもぞと動いてベストポジションを探す。少し離れていたマックスがすぐ横に来て俺を挟み込んでくれた。
「じゃあ私達も参加しま〜〜す!」
そう言って、一瞬で大型犬サイズになったラパンとコニーが、定位置の背中側に、カッツェが足元にくっついて収まる。
続いてタロンが俺の胸元に飛び込んでくる。
他の猫族軍団も暖房器具の前に転がっていたはずなのに、次々に集まって来て小さなサイズで俺の周りにくっついて丸くなった。
「うおお、フォール達も皆ホカホカじゃんか。温まるのは良いけど、大事な毛皮を焦がしたとか言わないでくれよ」
笑ってまだ冷たい手を伸ばして、顔の横で丸くなった雪豹のヤミーを撫でてやる。
「うわあ、ふわふわ度最高。じゃあ手はここに挟ませてもらおう」
丸くなったヤミーのお腹の下側に遠慮なく手を突っ込む。
ものすごい音で喉を鳴らし始めたヤミーが、俺の手を捕まえて額を押し付けてくる。
「うわあ、ここでセルフよしよし頂いたよ。ああもう、なんて可愛いんだお前は」
笑いながらもう片方の手も伸ばして、もこもこの顔をおにぎりにしてやる。
ニニや他の子達まで一緒になって喉を鳴らし始め、俺の意識はその音に吸い込まれるみたいに消えていった。
いやあ、喉の音の癒し効果すげえ。
ぺしぺしぺし……。
ペチン!
不意に額を力一杯叩かれて、熟睡していた俺は驚いて目を覚まして眉を寄せる。
「うん……いきなりなんだよ。ええ、シャムエル様?」
薄目を開けると、呆れたようなシャムエル様が俺を覗き込んでいた。
「ねえ、いつまで寝てるんだよ。お腹空いたんだけど。夕食は?」
「あれだけ、チョコレートフォンデュを食っといて、まだ食うのかよ……」
「甘いものと食事は別だよ!」
何故かドヤ顔でそう言われてしまい、小さく吹き出して起き上がった。
「はいはい、じゃあ起きるか。ううん、なんだか昼夜逆転生活になってるなあ」
大きな欠伸をしてそう言い、思いっきり伸びをしてから幸せパラダイス空間から立ち上がった。
「ええとハスフェル達は?」
とりあえず目覚ましを兼ねて顔を洗って来てからそう尋ねる。
「皆少し前に起きて、部屋で寛いでいるよ。ご飯だっていえば喜んですっ飛んでくると思うけどね」
「そっか、じゃあ何をするかねえ」
もう一度欠伸をして、待ち構えているスライム達を見る。
「ううん、寒いから鍋とかかな。ああ久しぶりにグラスランドブラウンボアで味噌鍋にしよう。あれは美味しいもんな」
って事で、さっさと準備をする。
と言っても基本鍋だからそれほど大した事はしないよ。
「ええと、サクラ。じゃあ、今から言うのを出してください」
「はあい、何を出しますか?」
嬉々として机の上に跳ね飛んで来る。
「まずはコンロと大きな土鍋。二番出汁の入った鍋も頼むよ」
まずはベースになる味噌汁を作らないとな。
ここで見つけた一番大きな土鍋は、大人数で鍋を囲むためにあるようなサイズだ。
そこに豪快に二番出汁を入れてまずは火にかける。
「赤味噌と麹味噌、それからすりおろした生姜も少し入れるぞ」
味噌が溶ければベースの味噌汁は完成だ。
「じゃあ、グラスランドブラウンボアの肉、油が少し多めに入ってるところが良いな」
「ええと、じゃあこれかな」
そう言って大きな塊を取り出してくれる。
「おお、良いねえ良いねえ。じゃあこれ、いつもの薄切りしゃぶしゃぶサイズに切っておいてくれるか」
「はあい、それはアルファがやりま〜す!」
「ベータも手伝いま〜〜す!」
そう言って二匹がくっつき、大きな肉の塊を一瞬で飲み込んでしまった。
「じゃあ、切れた肉はお皿に適当に盛り付けておいてくれるかな」
「はあい!」
二本の触手が左右からにょろんと伸びて敬礼のポーズを取ってから消えていった。
うちの子達は、こう言ったちょっとした仕草が可愛いんだよな。
笑って手を伸ばして撫でてやり、野菜もどんどん取り出してもらった。
他の子達も集まって来て、野菜や練り物、それから豆腐などの具材をせっせと切ってくれているのを見ながら、まずは野菜の芯の硬そうなところや長ネギ、それからキノコ類を鍋に放り込んで行ったのだった。