大量の買い取り準備
「じゃあ、そこに座ってくれるか。ジェムを入れる箱を用意して来るからな」
ギルドに到着するなり、そのまま別室へ連れて行かれた俺は、言われるままに椅子に座って大人しく準備が整うのを待っていた。
「ええと、じゃあ今のうちにジェムの見本を出しておくか」
会議室みたいに大きな机があったので、そこに取り出した見本のジェムを並べていく。
「ええと、ブラウングラスホッパーのジェムはまだまだあるから、これも出しておいてやろう。それから、シルヴァ達が集めてくれたジェムはだいたい一割引の方で使えるな」
最近では俺はほぼ使わなくなったスライムやホーンラビットなどの小さめのジェムを始め、飛び地で集めたアメンボもといウォーターストライダーなどの珍しくない昆虫類や小動物、それから小型の爬虫類系のジェムもまとめて出しておく。
どれも相当の数があるから、これが一割引用のジェムだ。
「ええと、あとは最近集めたのなら、ここの飛び地で集めたオーロラハードロックとか、オーロラミニラット、それからオーロラシルクワーム辺りも出しておこう。素材はどうするのかねえ?」
オーロラハードロックの素材である宝石の原石や、オーロラシルクワーム、俺を気絶させたあの巨大な蚕もどきの素材である綺麗な糸の束。これは艶といい手触りといい極上のシルクそのものって感じだ。
「でもシルクって、確か蚕の吐く糸で作った繭から取るんじゃなかったっけ? まあ異世界だから良いのか。何しろカンガルーやトカゲやワニを倒したら、なめした革が素材として出てくるような世界だもんな」
小さく笑ってそう呟き、一応宝石の原石と、小さいけど金と銀の塊。それからシルクの糸の束も取り出して見本で並べた。
「なあ、この辺って数はあるのか?」
小さな声で鞄の中にいるアクアに尋ねるとうんうんと頷くように肉球マークが上下している。
「すっごくたくさんあるよ、数えようか?」
「ええと、一万個以上あったりする?」
俺が手にして見せたのは、巨大蚕もどきのジェムだ。
「もちろん余裕であるよ〜〜〜!」
「サクラもまだまだ持ってま〜〜す!」
「ええと、その辺のジェムや素材ってベリー達はまだ渡してないって言ってたよ」
「ベリー達も沢山持ってるって言ってました〜〜!」
嬉々として報告してくれるアクアとサクラの言葉に、遠い目になる俺。
「ああ、ギガントすっぽんもどきも出しておかないとな」
話を変えるみたいにそう言った後で、大口を開けて坂道を滑り降りてきたあの巨大なスッポンモドキを思い出してしまい、またちょっと遠い目になったよ。
「まあ、デカいのはおいといても、すっぽんの素材が鼈甲って時点で絶対に間違ってるよな、確か鼈甲って海亀の甲羅だったはずだ」
色々とツッコミどころは満載だけど、ここは異世界。違うのは当然だよな。ってことで、小さく笑って考えるのをやめた俺は、疑問を全部まとめてふん縛って明後日の方向に全力でぶん投げておいたよ。
一応、今回は買い取ってくれるかどうかは分からないけど、ギガントすっぽんもどきと素材の鼈甲も一つだけ出して並べておく。
「集めたばかりだけど、雪蛍のジェムと色付きジェム、それからあんまりないけど素材も出しておくか」
そう呟いて、集めたばかりの雪蛍のジェムと素材も取り出して並べておく。
「あ、アンモナイトも一応出しておくか」
最初の買い取りの時は、武器や防具になる素材を中心に買い取ってもらったから、装飾用の素材はほとんど渡していない。
「そういえば、シルクモスの素材とジェムもそのままだったな」
考えていたらまだまだ見せていないジェムや素材があるのに気が付き、もう笑いそうになるのを必死で堪えていた。
まあひと冬丸々ここにいるんだから、今回はこの辺で勘弁しておいてやろう。
「お待たせ。ええと……おお、そんなにあるのか!」
台車を押して戻って来た冒険者ギルドのギルドマスターのガンスさんが、目を見開いて机に並べたジェムをガン見している。
「ええと、こっちの列が一割引でお渡ししても良い分です。どれもまだまだ相当の数がありますから、多分好きなだけ数を言ってもらっても大丈夫だと思いますよ。それでこっちの列は、最近集めたジェムと素材です。職人さんが喜ぶって聞いたので……」
一緒に戻って来たエーベルバッハさんとヴァイトンさんまで三人揃って真顔になる。
「お前、こっちの列のこれ全部一割も引いてくれるのか……」
「ええ、そうですよ」
笑って頷くと、三人揃って反対側に並べた最近集めた方を見る。
「おい、なんだか物凄いのがずらっと並んどるぞ」
「ふむ、三人の目に見えておるのなら、どうやら目の錯覚じゃあなさそうだなあ」
「しかもあの端に並んでるのは、もしやアンモナイトか?」
真顔で瞬きもせずに前を向いたまま会話をする三人。
マジでちょっと怖いんですけど……。
「ケンさん! すまんがもうちょい待ってもらえるか。至急相談し直す」
申し訳なさそうなヴァイトンさんの言葉に、俺は吹き出しそうになるのを必死で我慢したよ。
予算的な部分を主に相談するんだね。この前メタルブルーユリシスを大量購入したところだから、きっと予算が足りなくなりそうなんだろう。
「良いですよ。何を出してあるかは分かってるので、じゃあこれはこのままここに置いておきますから、好きなだけ相談してください。それで数が決まれば連絡をお願いします」
「本当に申し訳ない。では預かり表を大至急発行するので、すまんがもうちょっとだけ待ってくれるか」
そう言ってガンスさんが、ポケットからメモ帳のようなものを取り出して並んでいるジェムと素材を一つ一つチェックし始めた。
それを見たヴァイトンさんとエーベルバッハさんも手伝い始める。
「まあそうか。俺が良いって言ったとしても、もしも一つでも無くなったらギルドの責任問題だもんな」
正直言ってちょっと眠くなって来たので、預かり表が出来上がるまでの間に何度も横を向いて、密かに欠伸を我慢した俺だったよ。