チョコレートフォンデュの試食会開始!
「それでは、チョコレートタワー始動しま〜す!」
下のお皿部分の指定線の上まで、出来たばかりのチョコレートソースをたっぷりと注いだ俺は、全員の注目を集める中を先程と同じく、土台部分の側面に作られた直径2センチくらいの丸いボタン状のスイッチにゆっくりと手を添えた。
「それ、ポチッとな」
やっぱりそう呟いて押すと、小さな駆動音がして柱の螺旋状の部分が回転を始めてチョコレートソースがゆっくりと巻き上げられていく。
「うおお〜〜チョコレートが吹き出してきた〜〜〜!」
突然のアーケル君の叫び声に、息を呑んでチョコレートタワーを見つめていた全員が同時に吹き出す。
確かにそう言いたくなるのも分かるくらいに、チョレートタワーは見事に希望通りの形に仕上がっていたよ。
ドワーフの技術凄すぎだよ。
「よしよし、大丈夫みたいだな。それじゃあお好きにどうぞ。但し、一度口をつけた具材の二度付けは禁止だからな」
「了解で〜す!」
嬉々とした草原エルフ一家に続き、ランドルさんとハスフェル達の返事が重なる。なんだかんだ言ったって、ハスフェル達も甘いものも結構好きなんだよな。
そして大喜びで、具材をそれぞれのお皿に取って、フォンデュフォークを手にチョコレートタワーに突撃していく一同。
「ええと、このままお祈りしたらシルヴァ達のところへ、チョコレートタワーや用意したいろんな具材って届く?」
多分後ろを向いたら、収めの手が待ち構えているであろうことは容易に予想がついたんだけど、一応シャムエル様に確認しておく。
「あはは、もうチョコレートタワーが吹き出した瞬間から大はしゃぎしてるね。うん、そのままケンが手を合わせてくれれば、机の上のものは全部丸ごと彼女達のところへ届くように私が配慮するよ。だから早くください! 食、べ、たい! 食、べ、たい! 食べたいよったら食べたいよ〜〜〜〜〜〜!」
大皿を持って高速ステップを踏みながら、食べたいダンスを踊っているシャムエル様が笑いながらそう言ってくれたので、出遅れた俺は大急ぎでまずは自分の分の具材を確保してそれから改めて手を合わせた。
「ええと、お待たせいたしました。チョコレートフォンデュの試食会です。きっとシルヴァ達は好きだと思うので、楽しんでくれると嬉しいです。具もチョコレートソースもたっぷり用意しましたので、お好きなだけどうぞ」
そっと手を合わせて小さな声でそう呟く。
いつもの収めの手が俺の頭を何度も撫でた後、まずチョコレートタワーを丸ごと持ち上げる振りをした収めの手に、俺はもう笑いを堪えるのに苦労してたよ。
あれって毎回、手しかないのにはしゃいでるのが分かるってすげえよな。
「ケンさん。これ最高ですね!」
キラッキラに目を輝かせたアーケル君の言葉に、俺はもう堪える間も無く吹き出したよ。
「おう、気に入ってくれたなら良かったよ。今日は具材は急いで作ったからありあわせのものが中心だけどさ。次はもう少し凝った物なんかも作るから、楽しみにしててくれよな」
「うああ、もうケンさんはどれだけ俺を喜ばせるんですか! 決めました! どこまでもついて行きますから!」
「いやいや、いらないいらない。そこまでしなくて良いから」
嬉々としたアーケル君のどこまでもついて行きます宣言に、思わず笑って顔の前で手を振って拒否する俺。
「ケンさん酷い! でも、そんなこと言われたら余計に張り切って絶対ついて行くもんね!」
突然のストーカー宣言に俺達だけでなく、横で聞いていたハスフェル達までが揃って吹き出したのだった。
もう、全員がさっきからずっと笑ってばかりだ。
「なんだかこういうのって良いよな。やっぱり美味しいものには人を幸せにする力があるんだよ」
またチョコレートタワーに突入して行ったアーケル君を見送り。なんだか照れ臭くなった俺は小さくそう呟いてシャムエル様を振り返った。
「ふえ? 何か言った?」
しかしシャムエル様は人の話を全く聞いていなかったらしく、さっき俺が作ってやった全部乗せ巻きチョコレートソースたっぷりバージョンに、文字通り頭から突っ込んで全身チョコまみれになっている真っ最中だった。
「いや、なんでもない。楽しんでくれてるのなら良かったよ」
なぜか今回は、いつもの三倍サイズになった歓喜の尻尾だけが全く汚れていないのを見て、もう一度吹き出した俺は、素知らぬ顔でチョコまみれになった栗の甘露煮を食べながら、こっそり手を伸ばしてもふもふしっぽを堪能したのだった。
いやあ、どっちも最高だよ……。