準備完了!
「じゃあ、エーベルバッハさんとヴァイトンさんは、それの水を抜いて改めてセットしておいてもらえますか。俺は今からチョコソースと具材を用意しますので」
改めてアクアに手を綺麗にしてもらい、とりあえず待ち構えていたアクアとアルファにチョコレートをまとめて渡して刻んでもらう。
それから大きな銅の片手鍋を二つ取り出し、たっぷりのミルクを入れて火にかける。
「それ、温めればいいのか?」
「おう、お願いするよ。煮立たせないようにして、鍋の縁の部分が温まってきたらチョコを入れるから教えてくれるか」
ギイが来てくれたので、ミルクは任せて俺は具になるものを作る事にした。
「とは言っても、基本切るだけだもんなあ。何がいいかな?」
鞄の中に入ってくれたサクラから、まずはハード系のパンを色々取り出して一口サイズに切る。それからメロンパンの残りがまだ少しあったので、それも取り出して一口サイズに切る。
それから食パンやクロワッサン、丸パンなどの定番のパンも取り出して同じく一口サイズに切る。果物も取り出して切る。
それから、屋台で買っていた焼き菓子や揚げ芋みたいなのも取り出して、とにかく一口サイズに切る。
「じゃあこれ、残りは見本を参考に切っておいてくれるか」
在庫のパンや焼き菓子をたっぷりと取り出して、残りはスライム達に切ってもらう。
エーベルバッハさんとヴァイトンさんは、スライム達が俺の指示通りに次々に具材を切っていくのを、目を丸くして見ていたのだった。
「おおい、そろそろミルクが温まってきてるぞ」
ギイの声に返事をして、大慌てでそっちへ向かう。
大きなボウルに、アクアとアルファが山盛りに刻んでくれたチョコレート二種類を、大きめのスプーンですくいながら一旦火を止めた鍋に適当に入れていく。
「これ、混ぜながら溶かしてくれるか。火は付けなくていいぞ」
銅の鍋の良いところは保温性が高いところだ。こんなふうに一度温めてしまうと普通の鍋よりも温度が下がるのが遅いんだよな。
ギイが、渡した鍋を真剣にかき混ぜてくれる横で、俺ももう一つの鍋をせっせとかき回してチョコレートを溶かしたのだった。
「後は栗の甘露煮と鬼柚子ピールも出しておくか。それと……これ、ちょっともらっても良いか?」
取り出したのは、シャムエル様御用達の全部乗せ巻き。
大きく焼いたクレープに生クリームとカスタードクリームをベッタリと塗って、ナッツやチョコや果物や、後は焼き菓子の刻んだのなんかを散りばめて太巻きにしてある豪快なケーキだ。
「別に構わないけど、これを小さく切ったら崩壊しちゃわない?」
右肩に座ったシャムエル様の心配そうな言葉に、俺は笑って首を振る。
そして全部で三本取り出して巻き寿司みたいに2センチくらいの分厚さで切り分けてから、取り出した小皿に横に倒した状態で並べておく。
「これはこうやって倒した状態でお皿で出しておいて、スプーンでチョコレートソースをすくってこの上にかけてもらえばいいだろう?」
そう言いながらスプーンをその横にセットしていく。
「ふおお〜〜〜! それならチョコレートソースの海に沈む全部乗せ巻きバージョンが出来るんだね。すごいすごい! ケンって天才じゃない!」
何やら歓喜のあまりプルプル震えながらそんな事を言うシャムエル様の尻尾は、すでにいつもの倍サイズになっている。
「あはは、いいぞいいぞ。もっと褒めてくれ」
こっそりもふもふに膨らんだ尻尾を突っつきながら、黄色い色の方の甘露煮をお皿に山盛りに取り出しておく。
シロップはまた何かに使えそうだから、そのまま蓋をして収納しておく。
「こっちも出しておくか。主に俺が食べたい」
そう呟いて、手にした栗の渋皮煮もひと瓶丸々取り出してお皿に山盛りにしておく。
「まあ、ざっとこんなもんかな。具材はまたいろいろ考えてみよう。スポンジケーキとか、小さくしたアイスとかも良さそうだもんな」
手早く道具を片付けていると、真顔になったエーベルバッハさんとヴァイトンさんが揃って俺のところへ来た。
「なあ、ちょっと聞くがさっきのスライム達、あれは何をしていたんだ?」
改めて聞かれて思わず考える。あれ、これって珍しいのか?
「ええと、うちのスライム達は俺の言う事をちゃんと聞いてくれるので、今みたいに切ったり混ぜたりするのは得意なんですよ。だからいつも料理の手伝いをしてもらってます」
揃って驚く二人を見て、俺は笑って側にいたアクアを抱き上げてやる。今はちょうどバレーボールサイズになっているので、片手でも抱けるよ。
「これからもっと魔獣使いが増えてくれれば、きっとこんな光景も普通になりますよ。それじゃあ準備が出来ましたので、とにかく試食してみましょうよ。楽しいですよ」
話を逸らすつもりじゃないけど、笑ってそう言ってやると二人はわかりやすく笑顔になる。
「おお、こっちの準備は出来てるよ。それじゃあ、チョコレートタワーを作るとしよう」
笑って頷いた俺は、すっかりきれいになったチョコレートフォンデュタワーのお皿部分に、ゆっくりとチョコレートソースを鍋から注いで行ったのだった。
さあ、いよいよチョコレートタワー始動だぞ!