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クーヘン少年

 結局、二人とシャムエル様で相談した結果、小人(クライン)族のクーヘンはハスフェルが面倒を見ると言う事で収まった。


「だけど、良いのか?」

「え?何が?」

 俺の右肩に座って呑気に身繕いなんかしているシャムエル様に、俺は小さな声で相談した。

「だって、どこまで秘密をバラすかって、よく考えないと駄目だろう? 俺の身分、ってか異世界人だって事もそうだし、ハスフェルにしたって、第三者に彼の正体がバレるのは不味く無いか? それに、例の各地の転移の扉は? あれは見せて良いのか? ってか、あれも第三者と一緒ならそもそも開かないって言ってたよな? 俺達と一緒に行動するなら、今後絶対見る事になるぞ。それに、ベリーやタロンの事だってそうさ。俺達って、よく考えたら公に出来ない秘密だらけじゃん」

 うっかり弟子入りだなんて言われて安易に引き受けちゃったけど、考えれば考える程無謀な気がして来た。

「大丈夫だよ。私が認めたから、彼も転移の扉を潜れるよ。まあ、口外しないようにちょっと念の為の細工はしておくよ」

 あ、また神様っぽい発言頂きました。

「まあ、シャムエル様が良いって言うんなら、俺が文句を言う筋合いは無いよな」

 俺が一人で納得していると、シャムエル様はぼんやりと、ハスフェルと話をしているクーヘンを見ている。

「クライン族は、そもそもベリーと同じで本来は外には出ない種族なんだよね。だけど、彼らは何というか好奇心旺盛で、たまに、どうしても外の世界への好奇心が抑えられなくなって、郷にいられなくて心の赴くままに出奔する子がいるんだよね。だから、最近ではもうあんまり規制をかけていないんだ。好きにすれば良いかなって思ってさ」

 シャムエル様のしみじみとした言葉に、俺はすぐ隣にいる見えないけど俺には見えるベリーを振り返った。

「ベリーはどう思う?」

 すると、揺らぎはまるで笑ったみたいに少し震えた。

「私は仲間が出来て嬉しいですよ」

 そう言って、ベリーは姿を現したのだ。

「おい、いくら倉庫街で人がいないって言ったって、いつ誰か来るか分からないんだぞ。誰かに見られたらどうするんだよ」

 慌てる俺に笑いかけて、不意に姿を表したベリーはクーヘンを見た。ハスフェルがそれに気付いてクーヘンに何か言う。

「これは何と! 噂に名高きケンタウロス。賢者の精霊にお会い出来るとは光栄の至り」

 こっちを見て驚いたクーヘンは、満面の笑みになって深々と頭を下げた。

 若干、言い方が態とらしい気もするが、割と本気で驚いているっぽい。

 ベリーはそのまま彼らのところへ行き、嬉しそうに何やら話しを始めた。


「移動の間はどうする? ニニに乗れるかな?」

不意に気がついて、俺はハスフェルを見た。

「取り敢えず、彼には子供の姿に擬態してもらって連れて行く事にするよ。俺の従者って事にしてな」

 頷いたクーヘンが、手を叩いてクルリと回った。

 すると、もう目の前にいたのは、明らかにクーヘンだがクーヘンでは無い誰かだった。


 そう、そこにいたのは、クーヘンと似たような、若干大人びた顔をした人間の子供だったのだ。見かけの年齢は大体十代半ばあたり。この世界では、そろそろ独り立ちする頃らしい。


「どう? これなら一緒にいても変じゃ無いでしょう?」

 口調まで変わって、もうそこにいたのはクライン族のおっさんでは無く、可愛いらしい人間の少年だった。

「うわあ、凄え。ってか、中身はおっさんなのに何その美少年っぷりは」

 そう、目の前のクーヘンは、髪の毛は栗色のクルクルふわふわ肩の下まである柔らかな巻き毛と、少しそばかすの浮いた鼻のラインと白い肌。大きくて綺麗な緑の目。小柄な体は細くて華奢だ。しかし、この年齢特有の大人でも無く子供でも無い微妙なバランス。完璧な美少年だった。


 うん、これなら絶対に雑誌の表紙を飾れるレベルだよ。


 妙なところに感心していると、ハスフェルがそれを見て小さく吹き出した。

「もう少し薄汚くした方がよく無いか? それだと、要らぬ犯罪を招きそうだ」

 その言葉に、俺も思わず吹き出した。

「うん確かにそうだな。もうちょっと何と言うか……全体に太らせた方が良いかも」

「じゃあ、こんな感じ?」

 もう一度、その場でクルリと回ってみせる。

「お、良い感じかも」

 目の前に立っているのは、いかにも下町育ちって感じの、少しふっくらとした優しげな顔の少年だった。

 クルクルの髪の毛はそのままだが、短く刈り込まれていて軽い感じになった。

 肌の色も、もう少し全体に濃くなり、俺の肌の色と変わらなくなった。目はそのままだが、輪郭は全体に丸くなった。それだけで、さっきと受ける印象はからりと変わる。

「じゃあこれで決定だな。よしよし、もう覚えたぞっと。じゃあこれからは、この姿でいきますので、どうかよろしくお願いします!」

 中身はおっさん、見かけは美少年改め、中身はおっさん、見かけは普通の少年は、嬉しそうに笑って頭を下げた。

「何度見ても、クライン族の変化の術はすばらしいですね。見かけだけで無く、中身まで完璧に変わりましたね」


 え?中身まで変わるって……どゆこと?


「ああ、クライン族の変化の術は、完全に自分自身を変えてしまえるからね。言ってみれば別の人格になった感じに近いかな。だから、今のクーヘンは、元々の知識はあるけど、完全に十代の人間の子供だよ」

「それで、自己は確立できるものなのか?」

「もちろん、どんな姿になっても自分でしょう?」

 うんこれも深く考えたら駄目な気がして来た。って事で、これも明後日の方向に思いっきり放り投げておく。


「じゃあ、とにかく街へ戻ろう。あ、彼の乗り物は? ニニに乗れるかな?」

 思わず心配になってそう言ったが、ハスフェルは笑ってシリウスの首元を叩いた。

「俺と一緒にシリウスに乗せるよ。それが恐らく一番安全だ。彼にいくつか装備を買ってやりたいから、一旦戻ろう。これはちょっと軽装過ぎる」

 シリウスの背中に軽々と乗ったハスフェルは、屈んで手を伸ばしてクーヘンの腕を掴み、一気に持ち上げて背の上に乗せてやった。

「うわあ、すごいすごい! 高いですね」

 目を輝かせて大喜びする彼を見て、俺は苦笑いしてニニの首に抱きついた。

「なんかもう色々起こりすぎて頭の中がいっぱいだよ。ニニ、ちょっとモフらせてくれ……」

 柔らかなニニの毛に埋もれて深呼吸する。

「ああ、最高……ニニの胸毛は俺の癒しだよ」

 心ゆくまでもふもふを堪能して顔を上げると、二人が呆れたようにこっちを見ていた。

「あんな大人になっちゃ駄目だぞ」

「はい、気を付けます」

「おい待て! 何の話だよ。自分の従魔と戯れて何が悪いんだよ!」

 俺の言葉に、二人は揃って吹き出した。

 無邪気に笑っているクーヘンを見ると、何だか本当に子供に見えて来て、俺も思わず笑っちまった。

 本当に凄えな、変化の術って。


 って事で、一人増えた俺達一行は、また姿を消したベリーも一緒に、一旦街へ戻ったのだった。

 さてと、日が暮れるまでに、また買い物かな?

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