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ボードゲームと例の試作品

「うああ、また底なし沼だ〜〜〜! もうこの底無し沼の所、本気で燃やしたくなってきたぞ」

 相変わらずゴール前の底なし沼トラップと降格トラップに、わざとか? と、真顔で突っ込みたくなるくらいに毎回ひっかかるギイの悲鳴に、もう俺達はさっきから本気で腹がよじれそうなくらいに大笑いしている。

「やめろ。貴重なボードゲームを燃やすな」

 真顔のハスフェルの突っ込みに、また俺達が揃って吹き出す。

 良いよな。こういうアナログなゲームは、顔を突き合わせて好き勝手言いながらワイワイやるのが楽しいんだよ。

 もう早々にゴールしている俺達は、底辺の争いを繰り広げているギイとランドルさんとアーケル君の三人の争いを完全に面白がって見学していた。

 合間に作り置きで昼食を食べて、また一から立身出世ゲームを始める俺達。

 もう、ずっと笑っていて、笑い過ぎでおかしくなりそうだ。



 そんな感じで楽しく遊んでいると、突然部屋をノックする音が聞こえて俺達は飛び上がった。

「誰だ?」

 一旦ゲームを中断して、俺が代表して出る。まあ、一応ここは俺が借りてる部屋だからさ。

 後ろをハスフェルが来てくれているのを見て安心して扉の前に立つ。

「はい、どなたですか?」

 出来るだけ平然とそう返事をすると、扉の向こうで小さく笑う声が聞こえた。

「ああ、いてくれたか。よかった。俺だよ。ヴァイトンだ」

 商人ギルドのギルドマスターであるヴァイトンさんの声に、俺はハスフェルと顔を見合わせて頷き合ってから扉を開いた。

「俺もいるよ」

 ヴァイトンさんの隣には、何やら大きな木箱を抱えたエーベルバッハさんもいて、俺を見て揃って笑顔になる。

「ああ、どうも。どうしましたか?」

 もしかして、工事に何か不都合でも出たんだろうか。心配になってそう尋ねるとエーベルバッハさんは満面の笑みになった。

「入らせてもらっても構わんかな。試作品が出来たので、見てもらおうと思ってな」

 にんまりと笑ったエーベルバッハさんの言葉に、一瞬なんの事だか分からずに考えてすぐに気がついた。

「ああ、もしかしてもう出来たんですか?」

 二人揃ってにんまりと笑いながら大きく頷かれて、俺は思わず拍手をした。

「どうぞどうぞ、入ってください。それでどんなふうになったのか、見せてください!」

「おう、任せろ!」

 エーベルバッハさんが自慢げにそう言って部屋に入ってくる。



「何だ何だ。大賑わいだな」

 大人数が集まる部屋を見たエーベルバッハさんの呆れたような、しかしこれ以上ない的確な表現に部屋にいた全員がほぼ同時に吹き出す。

「何故か俺の部屋がいつも溜まり場になるんですよね。まあ、俺も賑やかなのは好きですからいいんですけど」

「まあ良いじゃないか。人が集まるのも人徳の成せる技だよ」

 笑ったヴァイトンさんにそう言って背中を叩かれる。

「女性には壊滅的にモテないんですけどねえ」

 苦笑いしながら誤魔化すようにそう言い、自分で自分にクリティカルヒットしたよ……ちょっと、すみっこで毛布被って泣いていい?

 乾いた笑いをこぼす俺を、肩に座ったシャムエル様が呆れた顔をして見ていたのだった。くすん。




 部屋の真ん中に置いてある大きな机の上は、ボードゲームが散らかっているので使えない。

 なので台所の大きな大理石の天板の机の前に行き、並べてあったコンロと空の鍋を一旦全部自分で収納する。

 最近、なんとなく感じてたんだけど、収納の容量が一気に増えたような気がするんだよな。今度どれくらい入るか、塩漬けになってる大量のジェムで試してみよう。



「じゃあ、ここで出してもらえますか」

 机の上を跳ね飛んできてくれたアクアが一瞬でピカピカにしてくれたので、大理石の机を叩いて木箱を抱えたエーベルバッハさんを手招きする。

「おう、それじゃあ出すぞ」

 エーベルバッハさんの言葉に、皆興味津々だ。

「一体何を作ったんだ?」

「何やら大きな部品のようだな?」

 ハスフェルとギイが不思議そうに開いた木箱の中を覗き込む。

 蓋が開いた途端に目を輝かせたオンハルトの爺さんが駆け寄り、エーベルバッハさんと顔を突き合わせながら何やら楽しそうに話を始めた。

 取り出したのは、ガラス製と思しき大きな傘状になった大小のお皿。だけどこれはお皿としては使えないよ。何しろ真ん中に大きな穴が空いているんだからさ。

「いやあ、苦労したぞ。木彫りだと、この上に流れるのが上手くいかなくてな。結局ガラス職人に頼んで作ってもらったんだ。真ん中の部分は後から取り付け加工をしてある。それでこっちが肝心の駆動部分だよ」

 大きめの植木鉢くらいの大きさの箱を取り出して机の上に置く。



 嬉々として二人がかりで組み立て始めたそれを見て、俺はもう感心を通り越して笑いが止まらない。

 いやあ、さすがは世界に冠たる職人の街だよ。

 あの俺の下手くそなパースの狂ったメモ書きを見て、これだけ完璧なものを作ってくれるんだからな。

 恐らく俺達の中で、これが何なのか理解しているのはオンハルトの爺さんだけだろう。

 俺と顔を見合わせたオンハルトの爺さんは、こちらもこれ以上ないくらいの笑顔で、両手でサムズアップをしてくれたよ。

 ついでに言うと、オンハルトの爺さんの隣では、なぜか急に姿を表した収めの手の両手バージョンが、同じくサムズアップをしていたのだった。

 もうシルヴァ達、期待し過ぎだろ。

 でもまあ、あれだけの装置を見せられたら作らないわけにはいかないよな。

 頭の中で、今すぐに使えそうなチョコレートフォンデュの具は何があるかを考えていたのだった。

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