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雪蛍狩りの終了と俺の寒さ対策

「よっしゃ! これが最後の一匹!」

 そう言いながら目の前に飛んできた最後の一匹を叩き落とした俺は、周囲を見回してそう言って大きく深呼吸をした。

 ランドルさんに貸してもらった、この硬鞭(こうべん)って武器は意外なほど俺に合っていて、剣で戦った時よりもかなり多くの雪蛍を叩き落とす事が出来た。

 今も足の踏み場もないくらいに周りに転がったジェムと素材を、スライム達がせっせと集めてまわってくれている。

「ううん、東の空も白み出したみたいだし、そろそろ出現は終わりかな?」

 雪蛍をやっつけて一面クリアーすると、それほど時間をおかずにまた次の雪蛍が現れてくる。なので、結局俺達は一晩中ほぼ休みなしでひたすら目の前に飛んでくる雪蛍を叩き落とし続けていた。

 とは言えさすがに疲れた時には、俺はランドルさんに声をかけて下がって休憩していたし、ランドルさんも同じように俺に声をかけて交代して休んで水を飲んだりしていた。

 まあ体力馬鹿のハスフェル達は嬉々としてずっと大暴れしていたし、リナさん一家も適当に交代して休みながら戦っていたみたいだ。

 まあ、物理で戦う俺達と違って、あっちは全員魔法による攻撃がメインだから、順番に一人ずつ出てまとめて戦ってるって感じだったよ。

 こういう小さいのがたくさん出る団体戦になると、剣より魔法の方がやっぱり攻撃範囲が広いから有利だよな。

 俺の氷は、まあ魔法と言えばそうなんだけど攻撃方法はリアルに物理だからなあ。

 凍らせた氷をぶつけるという……。



 小さく笑って自分で収納している普通の水筒を取り出して水を飲んだ俺は、もう出てこなくなった近くの岩の裂け目を覗き込んだ。

「もう終わりみたいだな。さすがにちょっと疲れたよ」

 そう言って大きく伸びをしてから、持っていた硬鞭をランドルさんに返した。

「大事な武器を貸してくださってありがとうございました。これ、本気で気に入ったので、冗談抜きでバイゼンの街へ戻ったら探してみます」

「いやあ、お仲間ができて嬉しいですよ。是非一緒に探しましょう」

 受け取ったランドルさんも嬉しそうにそう言ってくれたので、お互いに顔を見合わせて笑い合っていると、オンハルトの爺さんが笑顔で駆け寄って来た。

「なんだなんだ。また珍しい武器を使っていたじゃないか。ランドルの武器か」

 おお、さすがは鍛治と装飾の神様。珍しい武器も網羅してるってか。

「ええ、これは以前バッカスに作ってもらった硬鞭という武器なんですが、元は俺の故郷で親父が扱っていた武器なんですよね」

「ほう、ではお父上からこれの扱い方を教わったわけか」

「ええ、そうですよ。まあ子供の頃ですけどね。最近では扱う人が少なくて寂しかったんですが、ケンさんが気に入ってくれて嬉しいですねえ」

 持っていた硬鞭をオンハルトの爺さんの目の前で、ランドルさんが嬉しそうにそう言って構える振りをして見せる。

「良い武器なのだがなあ。だが確かに両手を同じように扱えないと、少々難しいか。ケンが案外器用に扱っておったなあ」

 一瞬でもう少し大きな硬鞭を取り出したオンハルトの爺さんも笑って構えて見せる。

「おお、やっぱり持ってた!」

 まあ予想の範疇だけど、ランドルさんは自分以外で扱える人に久しぶりにあったらしく大喜びしていた。



 のんびりとそんな話をしていると、白いものが目の前に落ちてきて、俺は慌てて剣を抜いた。

「まさか、もう一回雪蛍が出たのか?」

「おいおい、何してる。危ないから武器をしまえ」

 呆れたようなオンハルトの爺さんの言葉に、俺は慌てて周りを見た。

「うわあ、雪だ!」

 話をしている間に、そろそろ夜も明けて周囲はかなり明るくなってきていたんだけど、頭上は厚い雲に覆われていて、太陽は見えない。

 しかも、ちょうど俺たちの真上には真っ黒な雲が固まっていて、そこから白い雪がハラハラと落ちてきていたのだ。

「どうする? 朝飯にしようと思っていたんだけど、このままここで食っても大丈夫かなあ?」

 一応、転がっていたジェムと素材はもうすっかりスライム達が集めてくれたらしく綺麗さっぱり無くなっている。

 明るくなると雪蛍は出ないと言っていたから、もうここで食べてもいいかと思ったんだけど、逆にこれだけ雪が降ってくると大丈夫か心配になってきた。

「まあ、一時的な雪だろうが、ひとまずここから離れよう。飯はその後でな」

 笑ったハスフェルの言葉に、一旦撤収して従魔達と合流した俺達はその場を後にした。



「うわあ、寒い!」

 マックスの背に乗って走り出すと、雪はそれほど大したことはなかったんだけど、今までとは全く違う冷たい風が一気に吹き付けて来て、俺は慌ててマントの前を押さえた。

「うう、マフラーも探せばよかった。なにこれ、めちゃめちゃ寒いじゃんか」

 皮の手袋をしていても、手綱を握る指先が凍えそうだ。

 なんとか首を引っ込めて立てたマントの襟の中に潜りながら、俺は震え上がっていた。

「ご主人、じゃあ私が暖めてあげます」

 マックスの首輪に取り付けたカゴの中に収まっていたラパンが、ぴょんと跳ねて俺の胸元に飛び込んで来た。

 そのままもぞもぞと器用に動いて、俺のちょうど首元のマントとの隙間に収まる。

「ふおお、あったけえ〜〜!」

 突然のもふもふに、俺は思わずそう叫んで笑み崩れた。

 だって、もふもふの縁取りのついた襟元に、さらにもふもふの小さなラパンが潜り込んできたんだぞ。

「じゃあ私も〜〜!」

 もう少し大きくなったコニーが、俺の腹の辺りに潜り込んできた。

 ちょうど鞍に乗って少し前屈みになっているお腹の部分に上手く収まる。

「うああ、腹も寒く無くなったよ。ありがとうなあ」

 いつもなら手袋を外して撫でてやるんだけど、今手袋を外すと冗談抜きで指先が凍えそうなので、手袋越しにそっと撫でてやる。

「じゃあ私も〜〜!」

 不意に聞こえた声に驚いて顔を上げると、側にいたニニの背中からタロンがジャンプして俺の後ろへ飛び移ってきた。

「うわあ、すっげえジャンプ力だな」

 笑ってそう言うと、タロンは俺のマント越しに背中をよじ登り、後頭部の辺りに器用に乗って収まってしまった。

「おお、後頭部から首筋まで暖かくなってきたぞ〜〜!」

「私も暖かいからね」

 嬉しそうなタロンの鳴らす喉の音を聞きながら、走るマックスの上で思わず声を上げて笑ったのだった。

 いいねえ。やっぱりもふもふは俺の癒しだよ!

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