ご馳走様とおやすみなさい
「ふおお〜〜〜〜! 熟成肉最高〜〜〜!」
「ふおお〜〜〜〜! ハイランドチキンも美味しい〜〜〜!」
「ふおお〜〜〜〜! ハイランドチキン美味しい〜〜〜!」
「ふおお〜〜〜〜! 熟成肉も最高〜〜〜!」
相変わらず、絶対聞こえてるだろうと突っ込みたくなるレベルに絶妙のタイミングで、交互に喜びの雄叫びを上げているアーケル君とシャムエル様。
もう両方聞こえている俺達は、笑いを堪えるのに必死で食事どころじゃないって。
「もう、勘弁してくれ……」
とうとう我慢出来なくて吹き出した俺を見てハスフェル達も揃って吹き出し、俺達は顔を見合わせて大笑いしていたのだった。
「はあ、笑いすぎて腹が痛いって。せっかく焼いた肉が冷めちゃうじゃないか」
なんとか笑いの収まった俺は、笑いすぎて出た涙をぬぐいつつそう言ってナイフとフォークを手にした。
シャムエル様に半分取られても、まだたっぷりと残っている分厚い熟成肉を大きく切り取って口に入れる。
「うん、自分で焼いて言うのもなんだが、何度食っても熟成肉は美味いよなあ。ううん、幸せだ」
そう呟きながら熟成肉とハイランドチキンをじっくりと味わい、俺も食事を堪能したのだった。
「はあ、ご馳走様でした。いやあ美味しかったです」
皆口々に笑いながらそう言って、綺麗にしたお皿を返してくれる。
一応、リナさん一家とランドルさん達が返してくれたお皿は表面の汚れを拭った程度なので、鞄に入ったサクラに渡す時に、改めて綺麗にしてもらっている。
「はい、お粗末様。それじゃあ少ししたら、俺達も夜に備えて休むか」
まだマックス達が戻って来ていないので、ベッド役がいない。
まあ、食べてすぐに寝るのもなんなので、ヤカンに水を入れてお湯を沸かして温かい緑茶を入れてやった。
ハスフェル達はお酒を飲んでたみたいだけど、俺は一応、郊外では飲まない事にしてるからさ。
「ううん、なんだかこのところ一気に寒くなって来た気がするなあ。本当にそろそろ雪が降ってもおかしくないかも」
温かい緑茶を飲み終えた俺は、立ち上がってテントの外に出て明るい割にはやや曇天の空を見上げた。
「今日は大丈夫のようだが、確かにそろそろいつ降り出してもおかしくないよ。今夜の狩りを終えたら、一旦街へ戻るか」
隣に出てきたハスフェルの言葉に、なんとなく納得して頷く。
「この辺って、雪が降り出したら一気に積もるのか?」
なんとなく一緒に空を見上げながら話をする。
「おう、積もるぞ。まあ、いきなりドカ雪になるような事はないだろうけどな。だけど雪が降り始めたら一気に気温が下がるから、野営はちょっと正直言うと遠慮したいぞ」
笑ったその言葉に納得する。
「積もった雪の中でする雪中キャンプより、雪が降る前の方が寒いって聞くもんなあ。確かにそれは俺も嫌だなあ」
苦笑いしてそう呟き、大きく伸びをする。
「ああ、帰って来た!」
なんとなく周りを見回していると、マックスとニニやシリウス達が並んでこっちに向かって走ってくるのが見えて思わずそう叫んだ。
「おお、ベッド役が帰って来たみたいだな。じゃあこれで休めるな」
俺と同じく、シリウスと一緒に寝ているハスフェルが笑いながらそう言って、こっちに向かって駆けて来る従魔達に手を振る。
手を振る俺達を見て、まるで犬みたいにワンと吠えたマックスとシリウスが、一気に加速して俺達目がけて勢いよく突っ込んでくる。
「どわあ〜〜〜! 待て待て! ストップ!」
しかし、俺の叫びも虚しく突っ込んできたマックスに飛びかかられてしまい、勢い余って仰向けに押し倒される俺。
ううん、ここが草地で良かった。足元がさっきの狩場みたいな岩盤だったら、後頭部強打で昇天するところだったよ。
「だから落ち着けって! ステイ! ステイだ! マックス!」
隣ではさすがに押し倒される事なくシリウスをしっかり抱き止めているハスフェルを見て、俺はなんとかそう叫んだ。
その声が聞こえたのか、一気に我に返って慌てたように下がってお座りするマックス。
「うわあ、すっげえ。今のって、何かの呪文ですか?」
「なあ、あんなに興奮していたハウンドを一言で落ち着かせたぞ」
オリゴー君とカルン君の感心したような呟きが聞こえて、俺は笑いながら起き上がる。
「これは躾の際に教えた言葉で、ステイ、ってのはそこにいろ。みたいな意味だよ。つまり何をしていてもステイって言われたら、マックスはすぐに離れてお座りするように躾けてあるんだ。なあ、お前は良い子だもんなあ」
得意げに胸を張って座ったままで尻尾扇風機状態になってるマックスの首元に、そう言って抱きつく。
「でも、この言葉が効くのは今のところマックスだけだなあ。ニニ達には全然効果無しだよ」
苦笑いする俺の言葉に、草原エルフ三兄弟が、三つ子かよってくらいに同じリアクションをする。
つまり、揃って首を傾げてマックスを見た後にニニを見たのだ。
「ええと、それは何故?」
「いや、犬科の動物は比較的主人に忠実だけど、猫科って基本自由だろう。躾が出来るかどうかはその差じゃないか? ほら、群れを作るか単独行動か、みたいな」
「ああ、確かにそれはありそうですね」
納得したように三人揃って頷く。
そのまま顔を見合わせて同時に吹き出したのだった。
「それじゃあ、ベッド役の子達が帰ってきてくれたみたいだから、俺達も休むか」
「そうだな。それじゃあおやすみなさい」
マックス達と一緒に狩りに出掛けていたのは、狼コンビと狐達だ。
セーブルは、周辺で食料を確保出来るみたいで狩りに行かなくてもいいらしく、交代して猫族軍団が狩りに出かけて行った。
「それじゃあ、俺達も休むか」
皆それぞれにテントへ戻るのを見送り、巻き上げていたテントの垂れ幕を下ろした俺は、すっかり片付いて広くなったテントの真ん中に出来上がったスライムベッドへ、マックスやニニと一緒に飛び込んだのだった。