朝飯だけど肉を焼くぞ〜〜〜!
「それじゃあここの水場でベースキャンプを張る事にしよう。一応危険地帯からは離れているけど、念の為集まってテントを張った方が良いぞ」
ハスフェルとギイの案内で到着したそこは、浅めの草が生い茂る草原地帯で、見晴らしも良いのでこれなら何か近付いて来てもすぐに分るだろう。
一斉に散らばったスライム達が、あっという間に周辺の草を刈って更地にしてくれる。
俺は水場に近い場所にテントを建て、その周りをリナさん一家のテントとランドルさんのテントが取り囲み、ハスフェル達がその外側にテントを張った。
なんだかめちゃめちゃ守られてる気がするけど、有り難いので素直に感謝しておくよ。
マックスやニニを始め、いつもベッド役になっている従魔達がまず先に狩りに出かけた。
「さてと、それじゃあ何を出そうかなあ。作り置きでも良いんだけど……一応朝だけど今から寝るんだしこれは夕食だよ。となるとやっぱり肉かな」
聞こえるように大きめの声でそう言うと、テントを張り終えて集まって来た全員から拍手されたよ。
「よし、じゃあ肉にしよう」
って事で、景気付けを兼ねてグラスランドブラウンブルの熟成肉を取り出す。
「チキングリルも食いたいから、これも焼くよ」
そう言って、ハイランドチキンの胸肉も取り出す。またしても起こる拍手。
「じゃあ、こっちは自分でやってくれよな」
そう言って、鞄に入ってくれたサクラから適当にサラダやフライドポテトをはじめ、副菜になりそうなおかずを取り出して並べる。
「寒くなって来たから味噌汁も出しておくか」
おにぎりとパンを並べてから、並べたコンロの端の一つに味噌汁を入れて火にかける。
「見ておくよ。温まったら良いんだよな」
オンハルトの爺さんが鍋を見に来てくれたので味噌汁を温めるのは頼んでおき、まずは肉を軽く叩いて筋を切ってから塩胡椒とお肉用の配合スパイスをたっぷりと振りかける。
「ええと、誰か肉を焼くのを手伝ってくださ〜〜い!」
さすがにこの人数の肉を一人で焼くのは無理なので、ここは素直に助けを求める。
ずらっと並べたコンロに大きめのフライパンを順番に乗せながらそうお願いすると、ギイとアーケル君が来てくれた。
ランドルさんとリナさんは、手持ちのパンを取り出して並べてくれている。皆、義理堅いねえ。遠慮しなくて良いのに。でもまあ、種類が増えるのはありがたいのでお任せしておく。
「じゃあ、アーケル君はハイランドチキンをお願い。ギイはそっちのフライパンを見ててくれ、ひっくり返すタイミングは指示するからさ」
「おう、了解だ」
「任せてください! 肉だけは上手く焼けますから!」
笑ったギイに続いてドヤ顔のアーケル君が胸を張る。確かに以前焼いてくれた時も、上手に焼いてくれたもんな。
「おう、じゃあそっちは任せるからよろしくな」
俺も笑ってそう言い、ハイランドチキンを並べたまな板をそのままトングと一緒にアーケル君に渡した。
熱したフライパンに皮から肉を並べていくアーケル君を見て、小さく頷いた俺は順番にグラスランドブラウンブルの厚切りステーキを並べていった。
脂の跳ねる音と共に、良い香りが一気に立つ。
「うああ、腹減ったよ〜〜〜!」
お皿にサラダを取っていたオリゴー君とカルン君が綺麗に揃った声で叫ぶ。
「まだ駄目だ、お預け!」
笑った俺の言葉に、二人だけじゃなくてなぜか全員からブーイングされた。
「文句言う奴には食わせないぞ〜〜〜!」
「うああ、ごめんなさい!」
口々に謝る彼らと顔を見合わせ、ほぼ全員同時に吹き出したよ。皆ノリが良くてありがたいねえ。
肉の様子を時折見ながら、巻き上げて全開にしてあるテントの中からすっかり明るくなった外を見ると、巨大化したセーブルがゆっくりと周囲を歩いているのが見えた。周囲を警戒してくれているのだろう。
巨大化したセーブルの足元には、これも巨大化したハリネズミのエリーの姿も見えて、そのあまりの大きさの違いにちょっと笑っちゃったよ。一緒に留守番をしている事が多いせいか、あの二匹は大きさがあんなに違うのにとても仲が良い。
しかし、あのデカさは俺でも何度見ても驚く。一番巨大化したセーブルを初めて見た時のリナさん一家は、本当に真顔になっていたもんなあ。
「よくあんなでかいのをテイム出来たよなあ、俺。今更だけど、我ながら感心するよ」
小さくそう呟いて笑うと、音を立て始めた肉を順番にひっくり返した。ギイもそれを見て、自分が担当しているフライパンの肉を順番にひっくり返した。
「そろそろ良い感じだな」
綺麗な焦げ目がついた肉を見て、ギイが得意げにそう言って笑う。
「惜しい、このまま火を止めて少しだけ置くんだ。そうすれば余熱で火が充分に通るからさ。その間に俺達も自分の準備しよう。アーケル君の方は……おお、良い感じに焼き上がったな」
ドヤ顔でフライパンを見せるアーケル君と手を叩き合い、ハスフェル達が用意してくれていた自分のお皿を受け取った。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ! ジャジャン!」
焼き上がった肉を乗せて振り返ると、机の上にはいつもの味見ダンスとともに、お皿を振り回すシャムエル様。
だけど、すぐ側にいるアーケル君はそれには全くの無反応だ。
それに俺がシャムエル様の相手をしている時も、アーケル君だけじゃなくリナさん一家とランドルさんも全くの無反応だ。
まあ、これは間違いなくシャムエル様が何かしてるんだろうけど、これも考えてもさっぱり分からないよ。
って事で、いつものごとく分からない事は全部まとめて明後日の方向へぶん投げておき、キメのポーズでお皿を差し出してプルプルしているシャムエル様からお皿を受け取った。
「はいはい、で、半分だな?」
もう予想がつくのでそう言ってやると、満面の笑みで首がもげそうなくらいに頷かれた。
これを見越して、俺も厚切り肉にしたんだよな。グッジョブだよ。さっきの俺。