雪蛍の出現場所
「ふう、どれも美味しいねえ! それにしても、やっぱり唐揚げとおにぎりの組み合わせは最強だね。それにこの串焼きも美味しい!」
ランドルさんが提供してくれた串焼きを持ったシャムエル様は、嬉しそうにそう言って串に残っていた最後の一切れに齧り付いて、そのまま勢いよく串から引っこ抜いた。
「おお、豪快にいったな」
何ともその豪快な食べっぷりを見て笑った俺は、お皿に残っていた唐揚げの最後の一つをそのまま口に放り込んだ。
「うん、塩唐揚げも美味しい。さてと、じゃあちょいと休憩したら片付けるか」
残りの麦茶を一息に飲み干した俺は、そう呟いてまずはお皿を側にいたアクアに綺麗にしてもらったのだった。
「それで、その雪蛍ってのはここに出るのか。へえ、綺麗な泉だな」
しっかりと夕食を食べた俺達は、少し休憩をしてからその場を撤収して、ギイの案内でその雪蛍が出て来る場所へ向かった。
到着したそこは、綺麗な清水が湧き出す岩場で、あちこちの岩場からいくつも水が流れ出して岩の隙間へと流れ落ちていた。
いくつかの大きな岩にはおそらく流れる水によって削られたのだろう丸くて大きな穴が空いていて、そこに流れ込んだ綺麗な水が俺達が灯しているランタンの明かりを反射させて煌めいていた。
「こっちは少し足場は悪いから、従魔達に任せた方がいい。俺達はあっちの岩盤の上で戦うぞ」
確かにここの岩場の隙間に足を取られたら冗談抜きで骨くらい軽く逝きそうだ。運動神経抜群のうちの従魔達にお任せするのが良さそうだよな。
そのままハスフェルとギイの案内で移動した横にある岩盤地帯は確かに戦いやすそうだった。多少の凸凹や段差はあるけど、サッカー場くらいは余裕でありそうなほぼ平らと言っていいだろう広い場所だ。これが一枚岩だって言うんだからなかなかこれも凄いぞ。
大岩の周囲には割れた岩がゴロゴロと転がっている場所が幾つもあり、水が染み出して流れている。その岩場からも雪蛍が出て来るらしい。
周りの岩場の上にそれぞれが手にしていたランタンを置く。光の強さは最大クラスだ。
更にハスフェル達が幾つか追加で手持ちのランタンに火を入れて置いてくれたので、岩場の一帯は昼間のように明るくなっている。これなら俺達ほどは夜目がきかないランドルさんやリナさん一家も、見えなくて苦労する事は無いだろう。
「ええと、武器は剣で良いのか?」
何となく予想はつくが、もしかしてまたとんでもないデカさだったりすると怖いので、一応確認しておく。
「ああ、お前は剣の方が良いだろう。俺とオンハルトはこれを使うよ」
ハスフェルが振り返ってそう言い、手にした鞭を見せてくれる。
「おお、それは俺は使った事無いよ。ぜひ今度使い方を教えてくれよな」
オンハルトの爺さんだけじゃなくて、ハスフェルも鞭を使えるんだ。
感心してそう言うと、にんまりと笑ったハスフェルが同じくらいの鞭をもう一本取り出して俺に差し出して来た。
「貸してやるから使ってみるか? 扱い方はそれほど難しくはないぞ。コツは手首をしっかりと使う事と、目標との距離感をしっかりと掴むことくらいかなあ」
うっかり受け取りかけたけど、それを聞いて慌てて首を振る。
「いやいや、さすがにいきなり実戦で使うのは遠慮するよ。今度暇な時に扱い方を教えてくれよ。今日はこっちを使うって」
慌てて腰に装備しているいつもの剣を抜いてみせる。
「まあそうだな。扱い慣れている武器の方がいいだろうからなあ。お、最初のが出始めたな」
一瞬で持っていたもう一本の鞭を収納したハスフェルは、笑って岩場を指差した。
そこには、次々に湧き出すみたいにして出てくる小さな白っぽい光がいて、周囲はあっという間に光の乱舞になった。
一匹の雪蛍の大きさは10センチほどしかなくて、はっきり言って今までの感覚からすればめちゃめちゃ小さい。
驚く俺の目の前で、ハスフェルが持っていた鞭を軽々と振るう。
大きくしなって、それから一瞬で伸びた鞭が光の乱舞の真ん中を通過した。
「うわあ、ジェムがゴロゴロ落ちたぞ」
小さい、スライムよりも少し大きいくらいのジェムが幾つも弾けるようにして地面に転がる。
「へえ、色付きの割合が高い!」
おそらく三分の一近くが色付きのジェムだ。
「素材は、尻の発光部分なんだが、かなりレアで滅多に出ない。ただし色付きのジェムが多く出るから遠慮なく集めていいぞ。コツは今のように集まっているところを叩き切る感じだな。目標が小さいから、いちいち狙って切るのは難しいぞ」
「了解、じゃあ遠慮なく戦わせてもらうよ。ただし俺はあっちで戦う。そんなに豪快に振り回されたら、鞭に巻き込まれて吹っ飛ばされそうだ」
苦笑いしながらそう言うと、ハスフェルとオンハルトの爺さんが場所を変えて岩場の逆側へ行ってくれた。
って事で、ここは俺とランドルさんが担当する事になり。また別の箇所にリナさん一家もバラけて拡がってそれぞれ武器を手に配置についている。なるほど、これくらい距離を空けないと危ないわけだな。
「何処からどれだけ出るかはその時の運だから、恨みっこ無しだぞ」
ハスフェルの大声に、笑った全員の声が重なる。
俺も返事をしながらまた湧き出してきた光の塊目掛けて、思いっきり剣を振り回したのだった。