この後の予定とリナさん達の装備
「それではお疲れ様でした〜〜!!」
割引券を貰った俺達は、また馬車に乗って観光案内所近くの円形広場まで戻って来た。ツアーとしてはここで解散らしい。
笑顔で手を振るファータさんとアイゼンさんに手を振り返し、まだ暮れるには早い空を見上げた。
「ううん、どうするかねえ。まだ夕食にはちょっと早いしなあ」
「そうだなあ、もう今日は休みにしてゆっくりするか。それともこのまま一旦宿泊所へ戻って近場へ狩りに出かけるか?」
ハスフェルの言葉に、オリゴー君とカルン君が目を輝かせる。
「なあ、それなら俺達も従魔に乗りたい!」
「お願いします!」
何故か、二人とも俺のところへ来てるんだけど、リナさんやアーケル君の従魔じゃなくいいのか?
「お前はどうだ? 料理の進み具合は?」
「ええと、まあ色々作ったし、少しぐらいなら付き合うよ。たまには俺も外に出たいしさ」
俺の答えになぜか拍手喝采になる。
「よし、よく言った、それでこそ冒険者だ。じゃあ、このまま従魔達を連れて外へ出るか。今なら雪蛍が出るぞ」
「雪蛍? 初めて聞くけど、それもジェムモンスターなのか?」
何となく予想はつくけどあえてそう尋ねる。
「ああ、雪が降る前のわずかな時期しか出ない、いわば期間限定の貴重なジェムモンスターだよ。それが出てくれば、そろそろバイゼンの周囲に初雪が降り始めるんだ。そうなると一気に行動範囲が狭くなるからな。以前行った飛び地には春が来るまでもう行けなくなるよ」
「へえ、季節限定のレアものなんだ。それはちょっと確保しておかないとな」
クーヘンやバッカスさんの店には、王都から目の肥えた商人達が来ているそうだから、そんなレアなジェムや素材があるなら、是非ともゲットしておきたい。
「じゃあ、今夜はそこへ行くか。雪蛍が出るのは夜だから、今から行けばちょうど出現時間に間に合うだろうさ」
「ああ良いですね。雪蛍は相手としてはちょっともの足りませんけど、貴重なジェムですから一つでも確保しておきたいです」
アーケル君が嬉しそうにそう言って切るふりをする。
「任せろ。出現箇所を知っているから教えてやるよ」
笑ったギイの言葉に、横で聞いていたオリゴー君やカルン君だけじゃなくて、リナさん達やランドルさんまで目を輝かせている。
「いいのか? そんな貴重な出現場所を教えて」
小さな声でそう言ってやると、振り返ったギイはニンマリと笑った。
「まあ、別に俺達だけの狩場って訳じゃあないさ。ただし雪蛍には幾つか出るタイミングがあって、いつ出るかは普通は分からない。まあ俺達には分かるんだけどな」
「ちなみにその出現箇所の周辺には、魔獣が出没する箇所がいくつもあってかなり危険なんだよ。だからそこにベースキャンプを張って出るのを待つのはかなり無理があるんだ」
ギイに続いてハスフェルが教えてくれた詳しい説明に納得する。
成る程、そこへ行ってもいつ出るかは分からず、待っている事も出来ない。確かに場所だけ知っていても価値は低そうだ。
「そっか、俺達なら従魔達がいるから魔獣が出ても安全って事だな」
「安全というか、これだけの魔獣やジェムモンスターの従魔がいれば普通は警戒して近寄って来ないさ」
「セーブルが巨大化したら特にそうだな」
苦笑いした俺の言葉に、リナさん達も揃って大きく頷いていた。
って事で、またしても大注目の中をギルドの宿泊所まで徒歩で戻り、待ち構えていた従魔達を全員回収してそのまま出かけることにしたよ。
オリゴー君とカルン君は、結局リナさんとアーケル君の従魔であるリンクス達にそれぞれ乗せてもらってご機嫌だったよ。
まあ、体が小さくて軽いから落ちる危険も低いみたいだ。
揃って街を出てそのまま街道から外れて一気に駆け出す。
久しぶりの郊外の空気に、俺はマックスの上で大きく深呼吸をしたのだった。
「そういえば、リナさん達は鞍や手綱は付けないんですか? ずっと毛を掴んでいるのは大変そうですけど」
並んで走っていてふと思った。俺達は全員鞍と手綱を装備しているし、ランドルさんは、ダチョウの首にロープで輪っかを作ってくぐらせて首輪兼手綱にしている。
リナさん達も、いつの間にか大型の子達には首輪やリボンをしているんだけど、基本的には鞍も手綱も無しでそのまま乗っている。
まあ、スライム達にホールドして貰えば大丈夫なんだろうけどさ。
「ああ、それなら出来上がり待ちです。ここへ来てすぐにハスフェルさん達に教えてもらって、狩りに出る前に革細工の店へ行って彼らの鞍を参考にして別注をお願いしているんです。まあ、普通の馬用のではサイズが合わなくて、変更してもらう箇所が多いので、まだしばらくかかるみたいですよ」
「そっか、俺とハスフェルの時は、特別製の鞍があったからベルトだけ作って貰えば良かったんだけど、普通はそう簡単じゃないのか。でも注文したのなら、出来上がるのを待つだけですね」
「そうですね。まあ鞍と手綱があれば今後の旅は格段に楽になるでしょうから、出来上がるのを楽しみにしています」
「じゃあ、春には装備は一新ですね。俺も頼んでいる装備が出来上がるのが楽しみで仕方がないんですよ」
「ええ、出来上がったら是非ともお披露目してくださいね」
笑ったリナさんの言葉に笑顔で頷きつつ、あの装備を全部装着した時の自分の姿を考えて、ちょっと遠い目になったよ。
「絶対に分不相応で、借りてきた装備みたいになると思うんだけどなあ」
まあ、それはその時に考えよう。
きっと慣れれば過剰な装備でも使いこなせるようになるさ。あはは……。