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ツアーの終了と割引券

「はい、それではこれにて本日のトロッコツアーは終了となります。ご参加ありがとうございました! またの参加を心よりお待ちしておりますぞ」

「お疲れ様でした〜〜!」

 満面の笑みのアイゼンさんとファータさんの定型のお約束の挨拶を、俺はまだ若干放心状態のままで椅子に座って、膝の上に乗ったアクアとサクラを無意識で撫でながら固まって聞いていたのだった。

「あはは、ケンさん大丈夫ですか?」

 早々にトロッコから降りて来たアーケル君の笑いながらの言葉に、俺はギギギと音を立てそうに軋んだ首を何とか動かして横を向いた。

「もう、俺絶対このツアーには参加しないからな!」

 本気で拳を握ってそう叫んだけど、草原エルフ三兄弟には何故か大受けしていた。

「まあまあ、魔獣使いの兄さん、そう言わずにまた参加してやっておくれ」

 笑ったアイゼンさんの声に、俺は振り返って肩を竦めた。

「も、もうちょい安全なツアーなら」

「ええ、このツアーが最高なのになあ」

 まるで三つ子の如きシンクロ率で三人が声を揃える。

「あはは、まあ、そこは個人の感覚ってことで頼むよ。俺はもうちょい安全なのがいいよ」

 顔の前でばつ印を作りながら笑ってそう言い、色々と諦めのため息を吐きつつ俺も何とか立ち上がって大きく伸びをした。

「ううん、緊張のあまり体がカチカチになってるぞ」

「ですよね。俺も何と言うか身体中ガッチガチです」

 こちらもようやく立ち上がって大きく伸びをしているランドルさんの実感のこもった呟きに、俺は心底同意してうんうんと何度も頷いていたのだった。



 そのまま鉱山入り口にある受付へ行き、ハスフェル達もツアー参加者限定の、あの参加証明書をもらっていた。

 まあ彼らが鉱夫飯を直接購入するかどうかは分からないけど、何だか喜んでいたからもしかしたら備蓄用に自分で買うつもりなのかもしれない。

「ケンさんはすでに参加証明書をお持ちですから、こちらのお渡しになりますね」

 笑顔のファータさんがそう言って渡してくれたのは、何やら分厚いメモ帳みたいに片面を糊付けした紙の束だ。

「これは鉱夫飯の割引券になります。一回で一枚。使用期限もありませんし数量に上限もありませんから、一度にお買い上げいただく分をまとめて割引いたします。ただこれは明日からの使用になりますので、申し訳ありませんが……」

 言葉を濁す彼女を見て納得した。どうやらさっきツアーの出発前に買った分の鉱夫飯は割引対象にならないらしい。

 まあ、冬中ここにいるんだしまだまだ買うつもりだから、これはありがたくいただくよ。

「ああ、了解です。じゃあまた無くなったら買いに来ますね」

 笑って当然のように割引券の束を収納する俺を見て、ファータさんが何故か謝ってくれた。

 どうやら無理言って余っていた鉱夫飯を買ってもらったのに、今日の分が割引にならなくて申し訳なく思ってるみたいだ。

「ああ、お気になさらず。どうせまた買いに来ますから、その時に使わせてもらいますって」

 笑ってそう言うと、深々と頭を下げたファータさんにもう一度お礼を言われた。



「ケンさん! それなら俺達の分貰ってやってください! ねえ、これの譲渡は構いませんよね?」

 オリゴー君の嬉々とした声に振り返ると、何やら束になったあの割引券を山ほど差し出している。驚いてファータさんを見ると、苦笑いして頷いている。

「いやいや、俺も貰ったからいらないって。いくら何でもそんなに使えないよ」

 俺の分を見せながらそう言うと、何故かにんまりと笑った三人が揃って割引券を俺に見せる。

「あれ、色が違う?」

 俺が持っているのは縁に水色のラインが入っている。

 そして三人が持っているのは、全員緑色のラインが入っていた。

「これ、ツアーに参加した回数によってもらえる割引券が違うんですよ。これが最高値の40%引きですよ」

 にんまりと笑ったオリゴー君の言葉に俺は驚いて自分が持っている割引券の表紙をめくった。

 そこにはこう書いてあった。

 お買い上げ金額の5%を割引します、って。

「ええと……」

 ファータさんを振り返ると、苦笑いして頷いている。

「割引券の現金での売買はお断りしております。もしも売買が発覚したらその割引券は使えなくなります。ですが職員達の目の前で、今回のように無償の場合のみ譲渡を認めております」

「はあい、譲渡しま〜す!」

「俺も俺も!」

「俺も譲渡するよ! もちろん無償でね」

 満面の笑みの三人が、そう言って緑色の割引チケットの束を何故かファータさんに渡す。

「はい、ではこれは譲渡された割引券として確認いたしました」

 そう言って、彼女は右手で渡された割引券を軽く叩いた。

「あれ、それって……」

 彼女が手を離すと、割引券の表紙には参加証明書に描かれていたドワーフギルドによく似たあの紋章があった。

 あれって、俺の魔獣使いの紋章みたいに右手でハンコを押したっぽい。

「はい、これが正式に譲渡された事を証明する印になります。これが無い場合は没収されますのでご注意ください」

 笑顔のファータさんにそう言って割引券の束を渡されて、俺は呆然としつつ頷いていたのだった。



 どうやら、詳しく聞くとシリアルナンバーみたいなのが割引券の束単位で付いているらしく、それが俺達が持っている参加証明書に紐づいているらしい。

 なので勝手に渡された場合は使おうとしてもそもそも使えないらしい。なので、今みたいに誰かにあげる場合は申し出てこの譲渡済みのハンコをもらわないといけないんだって。

 まあ、四割引はさすがに驚いたけど、ずっとその割引価格にするのなら、これくらいの用心は当然だろうとも思えた。

「ありがとうな。じゃあこれ使わせてもらうよ」

「どうぞ遠慮なく使ってください。無くなったらまだまだありますからね!」

 笑った俺の言葉に、そう言ってドヤ顔になった三人が揃ってサムズアップをする。当然、俺も笑ってサムズアップを返しておいたよ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] つまり以前のキャンセル分購入は、向こうの落ち度なのに割引もなく100%の値段で買わされたってこと? かなり不義理だなあ。 金持ち相手だからってそんな不実な対応するギルドに不信感。
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