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安全だって分かっててもさあ……

「勘弁してください! 俺のライフはもうゼロだって〜〜!」

 情けない悲鳴を上げた直後、また縦穴に出たトロッコは、勢いよく壁面に作られたレールの上を滑り降りていった。

「アガガガガ!」

 今度は何やらレールに仕掛けがしてあるのだろう。ガタガタとものすごい振動が伝わりガクガクと頭が揺れて無意識に声が出る。

 しかし、草原エルフ三兄弟は大喜びで笑いながらずっとバンザイ状態だ。

「ウガガガガガガ!」

 さらにガタガタは威力を増し、俺はもう舌を噛まないようにするのに必死だ。

 そして何故かこちらも大爆笑しているハスフェルとギイとオンハルトの爺さん。

 真ん中の俺とランドルさんは揃って情けない悲鳴を上げている状態だ。

「の、う、み、そ、が、ず、れ、る〜〜〜〜〜!」

 本気でそう思いたくなるくらいに凄い振動だ。

 しばらく強弱をつけながらのガタガタ道が続き、本気で頚椎の心配をし始めた頃にようやく元の滑らかなレールに戻った。そしてスピードも若干ゆっくりになる。

 多分ここは休憩タイムなのだろう。

「はあ、本気で首を痛めるかと思ったぞ。ってかもうちょい続けば本気でさっき食った物が出て来そうだったよ」

 苦笑いしてそう呟いた俺の言葉に、また皆が笑っている。

 首がもげそうなくらいに頷いているランドルさんを見て、俺も一緒になって大笑いしたよ。



 そのまましばらく緩やかな下り坂だったんだけど、また急に角度が変わって一気にスピードが増す。そしてまたしても大きく斜めに口を開けた横道へトロッコは入って行った。

 いくら鈍い俺でも、ここまで続けばもう分かる、要するにまた何かあるんだよな。

 両足を広げて踏ん張り、目の前の手すりを力一杯握りしめる。

 そのままスピードを上げたトロッコの進んでいた通路が何故か一気に広くなる。

 あれ? と思う間もなく、次の瞬間またしても世界がひっくり返った。

 要するにスパイラル状態。

 多分高さ5メートルくらいの丸く掘られた通路の壁面をぐるぐると渦を巻くようにしながら、大回転状態のトロッコがものすごいスピードのままに突き進む。

 もう完全にジェットコースターだ!

「うぎゃあ〜〜〜〜〜〜〜!」

「ひえええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

 俺とランドルさんの悲鳴を残して、薄暗がりの中を一気に回転しながら進んでいく。

「もう勘弁してくれ……」

 髪の毛がバッサバッサと振り回され、天地が何度も入れ替わる。

 本気で目が回りそうになった頃にようやくスパイラルが終わって、また縦穴の壁面に作られたレールに戻る。

「もう本気で勘弁して欲しいよ。もうお腹いっぱいっす!」

「そう言われましても、途中では止まれませんからなあ。諦めて楽しんでくだされ!」

 完全に面白がってる口調のアイゼンさんの言葉に、悲鳴を上げたのは俺とランドルさんだけだったよ。

 そしてそのまままた竪穴の底までトロッコは一気に下って行った。



「なんかまた勢いを増したぞ。だけどもう底なんだからこれ以上の事は……」

 嫌な予感に顔を上げて前を見ると、完全に縦穴の底まで行ったトロッコがまたしても向きを変えて今度は縦穴の中心へ向かって渦を巻くようにしながら突き進んでいく。

「なんか絶対嫌な予感がするんですけど〜〜〜〜〜〜!」

 俺の叫びがまるで合図であったかのように、真ん中辺りまで来たトロッコがそのまま空中へ向かって勢いよく突き進んでいったのだ。

「どっへぇえええええええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

 はい、本日四度目の本気の悲鳴です。

 踏ん張ってなかったら、冗談抜きでちびってたかも……。



 そして、空中に吹っ飛んでいったトロッコは、そのまま勢いを殺さずに大きく空中でループを描いて一回転して、そのまま大きく弧を描いて地面に着陸した。

 まあ、これだってその風の術とやらでレールを敷いているから実際には安全なんだろうけどさ!見えない人からすれば、そんなの何の慰めにもならないって。

 冗談抜きで涙目になった俺は、もう必死になって手すりにしがみついていた。

 今の俺の安全を確保してくれているのは、細い安全ベルトとこの手すりだけ……あれ?

 何だかいつもの慣れた感触に不意に気がついて足元を見ると、いつの間にか小物入れから出て来ていたアクアとサクラが俺の両足を確保してくれていたのだ。

「何だかご主人の悲鳴が聞こえたからさ」

「サクラとアクアが守ってあげてま〜〜す!」

 得意気なその言葉に、俺は安堵のあまり本気で泣きそうになった。

「あはは、ありがとうな。じゃあもう良いって言うまでしっかり確保しててくれよな」

「はあい、まかせてね!」

 無邪気な返事に片手を離してそっと二匹を撫でてやった俺は、またしても横穴に入って上昇していくトロッコの上で、小さく笑った。

「はあ、アクアとサクラが守ってくれるのなら、今度はちょっとは楽しめそうだな」

 そして、またしても最上部まで上がったトロッコがまたしても勢いよく吹っ飛んで縦穴横断の空中飛行をしてくれたおかげで、安全だと分かっていても、やっぱり俺は本気の悲鳴を何度も上げる事になったのだった。



「もう絶対、俺はこのツアーには参加しないぞ〜〜!」

 三度目の空中飛行の際、大声で叫んだ俺は……間違ってないよな?

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