午後のツアーに出発進行!
「じゃあ、後半戦に出発だな」
アーケル君の妙に嬉しそうな言葉に、俺はちょっと遠い目になる。
「もうジェットコースターはお腹いっぱいって感じなんだけどなあ」
とは言っても、ここで止めますと言うわけにもいかない。諦めのため息を吐いて、先程のトロッコの乗り場へ向かう一堂の後ろをついて歩いた。
「なあ、あれが言ってたミスリルの塊な訳?」
小さな声で、こっそりと右肩に座っているシャムエル様に話しかける。
「そうだよ。あれが平均くらいの大きさかな。一番大きいのだと、ケンの頭よりもちょっと小さいくらいはあるかな。出現率が偏らないように、大小取り混ぜてあちこちの坑道に満遍なく散らしたから、掘り進めば今後はもっと効率よく採取出来るようになると思うよ」
短い手を広げたシャムエル様の言葉に、苦笑いしながら頷く。
「ええと、それってこの鉱山だけなのか?」
もしもそうなら、鉱夫達が全員この鉱山に殺到しそうだなんて考えながらそう尋ねると、笑ったシャムエル様は首を振った。
「もちろんここだけじゃなくて他の鉱山でも一緒だよ。それにミスリルだけじゃなくてその他の鉱石も、ここみたいに塊で出したり、粒を大きくしたりしたからね。まあその分出現箇所そのものは減ったんだけどね」
「ああ成る程。出現する総量は変えずに、集めて塊で出したわけか」
「ううん、総量にすれば増えてるんだけどね。まあ、そこはドワーフの鉱夫達に頑張ってもらおう。目指せ一攫千金だね」
確かにこれは、掘る側にすれば間違いなく一攫千金レベルだろう。俺の頭クラスのミスリルの塊って、あの地下迷宮で出たミスリルに匹敵するんじゃね?
評価価格がどれくらいになるのかは分からないけど、夢が広がっていい事だよな。
「では、後半戦と参りましょうか。どうぞ乗ってください」
満面の笑みのアイゼンさんの言葉にちょっと泣きそうになりつつ、さっきと同じ場所にそれぞれが座って安全ベルトを締める。
そこで先ほどとの違いに気がついた。車両が増えているのだ。
そこにあったのは客車では無く、アイゼンさんが乗っているみたいな厳つい車両で、おそらく駆動車両なのだろう。それが一番後ろにも接続されていたのだ。
だけどそれに対しての説明などは無く、アイゼンさんが各車両を回って、一人ずつ安全ベルトがきちんと締まっているかの確認をしてくれた。それから一番前の車両へ戻るのを俺は見送りつつふと首を傾げた。
「なあ、今いる場所って縦穴のかなり底の方だよな? もうそれほどトロッコで走るところってないんじゃね?」
すると、一番前の車両に乗っていた草原エルフ三兄弟が揃って満面の笑みで振り返った。
「まあお楽しみに。午後からも楽しいよ」
「その笑みが怖い!」
遠慮なくそう言ってやると三人は揃って吹き出し、俺達の会話が聞こえていたらしいアイゼンさんまで一緒になって吹き出して大爆笑になっていたのだった。
「では参りましょう。午後からも楽しいですからお楽しみに」
またキリキリと先頭車両からモーターのような音が聞こえ、ゆっくりとトロッコが進み始める。
そのまま縦穴に出たトロッコは、右に曲がって壁面に作られた道沿いのレールの上を進み始めた。
だけどその速度はゆっくりで、いかにも牽引されてますって感じだ。
そのまましばらく少し坂になった道を上り、また右に曲がって別の横穴に入っていく。緩やかに右に曲がる道沿いに進み、そこから一気に上り坂になる。これはもうほぼ垂直なんじゃね? と言いたくなるくらいの急な坂道をトロッコは登っていった。
その時に分かった。一番後ろに接続されたあの車両の意味がさ。
後ろからも同じようにキリキリとモーターみたいな音がしているから。初めの時よりももっと急なこの坂道を上がるには牽引する車両が一つでは足りないのだろう。
延々と薄暗がりの道の中を登っていく車両の中で、これだけ上がるという事は、冷静に考えてまた縦穴の一番上まで行ってるんじゃないかとふと気が付き、割と本気で気が遠くなった。
もう一回あの大ジャンプをされたら、俺、本気で泣くかも……。