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砕いた岩から何が出る?

「では、鑑定を始めますぞ」

 そう言ったアイゼンさんは、手にした小さな金槌でリナさん一家が総出で叩き割った巨大な塊を軽く叩く。



 キンキン



 妙に甲高い音が聞こえアーケル君達が満面の笑みになる。

「おお、なかなかに良き音が致しましたな。これは良い岩だ」

 そう言ってひと抱えほどもあるその巨大な割れた岩を、アイゼンさんは両手で軽々と持ち上げて先ほど引っ張り出してきた体重計のようなもの上に乗せた。

「ほう、比率は0,00004ですね。これはかなりの高比率です」

 笑顔になったアイゼンさんの言葉に草原エルフ一家が満面の笑みで拍手をする。

 あの体重計みたいなのは、簡易の測定器みたいなものらしい。

「うん? 0,00004って事はつまり、100キロの岩で4グラムのミスリルが含まれてるって事だよな? あの岩だと余裕で100キロはあると思うけど、それでたったの4グラムしかないんだ。へえ」

 小さな声で呟き、制作依頼をした時にミスリルの塊を出したら皆がものすごく食いついた意味が分かった。

 これだけの岩でたったの4グラム。それなのに、それでも高比率なのだと言う。

 代表してアーケル君が、アイゼンさんから小さなコインのようなものを受け取る。

「いきなり大物が出ましたなあ。今回の採掘場所は当たりやもせれませぬぞ。さて、次はどなたが叩きますか?」

「あの、先にやらせていただいても良いでしょうか?」

「どうぞどうぞ」

 ランドルさんの言葉に、また俺達が下がる。

 笑顔で頷いたランドルさんは先程のリナさん達が叩いた場所から少し離れた所に立ち、ちょっとだけ突き出ていた岩の根本部分を持っていたツルハシで思い切り叩いた。

 ガコンと重い音がしてバスケットボール大の大きな岩が転がる。

「おうおう、今回のツアーの皆さんはさすがですなあ。素人が一撃であれを落とせるとは。いやあ素晴らしい。鉱夫でも一撃で落とせる者はそうはおりませぬぞ」

 笑顔で拍手をするアイゼンさんの言葉に、ランドルさんはドヤ顔になってる。

 鑑定の結果、ランドルさんが落とした岩は含有比率が0,00002だったよ。

 これでもまだ高いほうらしい。

 先程のアーケル君がもらったのよりも小さなコインをランドルさんが貰い、次にハスフェルとギイが順番に別の箇所を叩いた。

 あいつら絶対、俺が気にしている個所に気が付いているだろうに、スルーして別の場所を叩いてくれてる。これってもしかして、やっぱりそういう事? 俺がやれって事なんだよな。

 ちなみに二人もそれぞれに巨大な岩の塊を叩き落として、アイゼンさんは頭を抱えていた。

 含有比率は、どちらも0,00003。二人もコインをもらって苦笑いしていた。



「じゃあ最後は俺だな。さて、どこにしようかなあ」

 ツルハシを担いで笑いながらそう言いあの場所に立つ。そう、どうにも気になって仕方がない、あの岩のある場所だ。

「では俺はここにします!」

 これで割れなかったら大笑いだ。

 割と本気で力を込めて、最初から気になって仕方がなかったあの岩に向かって振り上げたツルハシを力一杯叩きつけた。



 カーン!



 気持ちの良い、なんとも言えない軽やかな音がして、バレーボールサイズの岩が壁面から外れて落下する。

 そしてそのまま地面に落ちた岩は、これまた気持ちの良い軽やかな音を立てて真っ二つに割れたのだ。

 その、割れた断面を見たアイゼンさんの口から悲鳴のようなうめき声がもれる。そして同じく割れた断面を見たその場にいた全員が絶句してしまった。

 俺も自分で落として割ったその岩を見て、本気で気が遠くなったよ。

 だって、その真っ二つに割れたバレーボールサイズの岩の断面には、ちょうどテニスボールサイズくらいのどこから見てもミスリルの色をした岩の塊がちょこんと姿を表していたんだからさ。



「あの、これってもしかして……」

 しかし、アイゼンさんは目を見開いたままぱくぱくと口を開けては閉じているだけで言葉が出てこない。

「これは素晴らしいなあ。どう見てもミスリルの塊だな」

 平然とそう言ったオンハルトの爺さんが、ニンマリと笑ってその顔を出したテニスボールサイズのミスリルを撫でる。

「ちょいと借りますぞ」

 茫然自失のアイゼンさんの手から金槌をそっと取り上げたオンハルトの爺さんは、左手で持ったその岩の塊から顔を出しているミスリルの塊を金槌で優しくそっと叩いた。



 コーン



 澄んだ軽やかな、お鈴のようななんとも言えない綺麗な音が響く。

「ほうほう、これはまた凄いのが出たな。ケンよ、やはり其方は創造主様に愛されておるのう」

 笑ったオンハルトの爺さんの言葉にハスフェルとギイが揃って吹き出し、俺も遅れて吹き出した。

「あはは、そうみたいだね。感謝しないとな」

 笑いながらそう言い、差し出されたその岩を受け取る。

「なあなあ、さっきの俺もやってみたい! その金槌、俺もちょっとお借りしますね!」

 振り返ってアイゼンさんにそう言ったけど、全く反応無し。完全に目を見開いたまま固まってます。

 顔を見合わせた俺とオンハルトの爺さんは、もう一度吹き出して笑い合ってから金槌を受け取り、手にした岩のミスリルの部分を軽く叩いた。

 またしても聞こえる涼やかな澄んだ音。

 俺は目を閉じて、うっとりとその素敵な音色に聞き惚れていたよ。

 背後では、アイゼンさんだけでなくリナさん一家とランドルさんも揃って目を見開いたまま固まっていたんだけど、俺はそっちを見ない振りをして、もう一回ミスリルの塊を叩いてその綺麗な音を楽しんだのだった。

 今度小さめの金槌も買っておこう。

 この音なんだかすごく気持ちが良い。これって絶対に癒し効果とかありそうだからな。

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