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涙目ランドルさんと鉱夫飯

「ねえ、ケンさん……俺、俺前回乗った時って、こんな無茶苦茶じゃあなかったんですけど〜〜〜!」

 完全に涙目になったランドルさんの叫びに、全員揃って堪えきれずに揃って吹き出す。

「だって、本当にもっとシンプルなやつだったんですよ!」

 そう言って立ち上がろうとして果たせず、もう一回座席に座り込んでしまう。

 ランドルさん、完全に腰が抜けてるよ、あれ。

「おいおい、冒険者の兄さんよ。大丈夫か?」

 アイゼンさんが、苦笑いしながら駆け寄って来る。

「ほれ、飲んどけ。気付け薬だよ」

 おそらくこんな時の為に渡されているのだろう。当然のようにアイゼンさんがベルトに取り付けた小物入れから小瓶を取り出してランドルさんに渡した。

「ああ、ありがとうございます」

 小さな小瓶を受け取り蓋を取ったランドルさんは、大きなため息と共にぐいっとその中に入っている液体を一気に飲み干した。

「うがあ〜〜苦い!」

 思いっきり顔をしかめたランドルさんを見て、心配そうに振り返って見ていた草原エルフ三兄弟がまた揃って吹き出す。

「ああ、もう! こんな筈じゃあなかったのに!」

 顔を覆って情けなさそうにそう言って、手すりに突っ伏すランドルさん。

「ほれ、立ちなされ。名物弁当が待っておるぞ」

 小さくため息を吐いて笑い大きな手で力一杯ランドルさんの腕を叩いた。豪快な音があたりに響く。

「痛い!」

 悶絶するランドルさんを見て、もう俺も我慢の限界だったんだけど必死になって堪えた。



「ほら、いい加減に降りなって。置いていかれたら昼抜きだぞ」

 笑って何でも無い事のように軽く言ってやる。こういう時は過剰な反応する方が本人のダメージがデカいからな。

「あはは、例の鉱夫飯ですね。確かに初めてあれを見た時のインパクトは凄かったですからねえ」

 顔を上げて乾いた笑いをこぼしたランドルさんは、もうこれ以上ないくらいの大きなため息を吐いた。

 おお凄え。ハスフェル並みの肺活量じゃんか。

「はあ、午後からが思いやられますよ。これはハンプールへ帰ったら、バッカスに言ってやらないと。お前が乗ったのの何倍もすごいのに乗ってきたぞってね」

 薬が効いてきたのか、さっきは顔面蒼白だったんだけどちょっと顔色が戻ってきている。

 もう一度大きなため息を吐いたランドルさんは、小さな掛け声と共に立ち上がってようやくトロッコから降りた。

「うああ、緊張のあまり、体がガチガチになってますよ」

 軽く屈伸運動をして両腕を回し、ラジオ体操みたいに体を横に倒して脇を伸ばす。その動きは流れるようで、恐らく日常的にしている彼の準備運動のようなものなのだろう。

 最後に両手で顔を叩くと大きく深呼吸をする。

「はあ、なんとか復活だ」

「おう、お疲れさん。それじゃあ飯にしましょう」

 アイゼンさんが笑ってそう言い、俺達はアイゼンさんとファータさんの案内でさっき彼女が出てきた扉を通って別の横穴へ入った。



「へえ、前回来たのとはまた違う食堂だね」

 ここは前回食事をした食堂よりもさらに大きな食堂だった。既に大勢の鉱夫達が集まって例の巨大な鉱夫飯を豪快に平らげている。

「なんだなんだ。どこかで聞いた覚えのある声だと思ったら、草原エルフの兄さん達じゃあないか。いつこっちへ来たんだ!」

 俺達が案内されて座った場所のすぐ後ろの席に座っていたドワーフが、満面の笑みで振り返ってそう言って手を挙げたのだ。

 その人物は、他の泥だらけの鉱夫達と違って身綺麗な服装をしていたのでおそらくツアー関係者だろう。しかし振り返ったその顔を見た瞬間、俺やハスフェル達はもう咄嗟に吹き出しそうになるのを必死で堪えていた。

 だって、顔を見た瞬間に誰なのか分かったんだからさ。

 あれは絶対に、さっき話題になった案内人のバッカニアさんかユーゲンさんのどちらかだろう。そして、その言葉を聞いて隣に座っていたもう一人も立ち上がったんだけど、満面の笑みのその人物も誰かわかった。

 だって、振り返ったその顔は二人揃って見事なまでの太眉毛だったんだからさ。

 なるほど、あれは俺でも太眉毛兄弟って付けるよ。顔も似ているから、もしかしたら太眉毛同士ってだけじゃなくて本当の兄弟なのかもしれない。

「ああ、久し振りです! バッカニアさん。ユーゲンさんもお元気そうです。ついさっきお二人の噂をしていたところなんですよ。今回は、ちょっと出遅れて選ぶ余地がなかったんですけど、一番のハードコースに当たりましたよ!」

 オリゴー君が笑顔でそう言い、草原エルフ三兄弟が揃って満面の笑みでサムズアップする。

 それを見た二人のドワーフは、遠慮なく吹き出した。

「そりゃあおめでとさん。兄さん達の大好きなハードコースか。しっかり楽しんでっておくれ。ああ、今日の案内はアイゼンだったんだな。彼は最近案内担当になったばかりなんだよ。まあよろしく頼むわ」

 豪快に笑ってそう言うと、アイゼンさんの背中をバンバンと叩く。

「おお、ついさっきお二人からお前さん達の噂を聞いたところだよ。案内人冥利に尽きるなあ。名前を覚えてもらえるなんてさ」

 笑顔でそう言って、アイゼンさんも負けじとその腕を力一杯叩く。

 これ、二人とも笑顔じゃなかったら本気で喧嘩してるのかと心配になるレベルの音だ。

 だけどそんな二人を見ても周りは皆平然としている。

 まあこれが日常って事だね。体力自慢と言われるドワーフ達、スキンシップも少々過激なようで。

 あのグローブみたいな手で叩かれたら、俺なんか吹っ飛びそうだ。



 仲良く話をする彼らを見ていると、ガチャガチャと音がして鉱夫飯が乗ったワゴンが出て来た。

「お待たせ致しました〜〜!ではただいまより鉱夫飯をお配りいたします。残りはお持ち帰りいただけます。トロッコツアーの方はご希望があれば残りをお預かりしますので、どうぞお気軽にお申し付けください」

 鉱夫飯を机の上に並べながら、ファータさんがおそらく決まっているのだろう説明をしている。だけど今回はほぼ全員が収納の持ち主だから、多分預ける人はいないと思うよ。

 いつもの巨大な三段になった鉱夫飯を受け取り、ハスフェル達と顔を見合わせて笑顔で頷き合った。

「ではいただきます!」

 声を揃えてそう言った俺達は、嬉々として鉱夫飯の蓋を開けたのだった。

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