トロッコツアーに出発進行!
「それにしても遅いな。前はこんなに待たされなかったぞ?」
ランドルさんの呟きに、喉が渇いてきたので水筒の水を飲んでいた俺も頷く。確かにちょっと時間がかかりすぎかも。
顔を見合わせて揃って首を傾げていると、ノックの音がしてファータさんが顔を出した。
「大変お待たせいたしました。では只今よりトロッコツアー出発致します!」
隣にはドワーフの男性が一人、一緒に並んでいるのでおそらく今回のガイド役の人なんだろう。
「本日のツアーのご案内を担当いたします、ファータと申します。どうぞよろしくお願いします。こちらは、トロッコの運転と整備を担当するアイゼンさんです」
「どうぞよろしくお願いします」
一礼する二人に揃って拍手する俺達。
すると、顔を上げたファータさんが慌てたように俺のところへ駆け寄って来た。
「あの、ちょっとお尋ねしますが……」
言いにくそうに困っている彼女を見て、俺は座り直して彼女に向き合った。
「ええ、何でしょうか」
「鉱夫飯って……もう、さすがに必要ありませんよね?」
「ええと、もしかして、またキャンセルですか?」
困ったように頷くファータさん。
振り返ると、ハスフェル達が揃って満面の笑みでサムズアップしている。
一体どうしたのかと思って事情を聞けば、東の街道の途中で悪天候のために通行止めになっているらしく、このツアーにも参加予定だった団体を含め、東の街道を通ってバイゼンヘ向かっていた人達の多くが巻き込まれて到着がかなり遅れているらしい。それで、今回の幾つかのツアー用の鉱夫飯が予定よりも余ってしまったんだって。
幾つかは販売の目処が立ったんだけど、三十個残ってしまったらしい。
「いいですよ。余ってる分全部買います。ええと、今すぐの方が良いですか? それともツアーが終わってから、引き取りに来た方が良いですか?」
「わざわざ戻って来ていただくのも申し訳ないので、今すぐでも構いませんか?」
「もちろん、それじゃあちょっと行ってくるよ」
って事で、ファータさんと一緒に受付へ行って、残っていた分を全部まとめて購入させてもらった。
何度もお礼を言ってくれるスタッフさんに笑って手を振り、遠慮なく全部収納してから一足先に外へ出ているハスフェル達と合流した。
今回は、ツアーの参加者用に馬車が用意されていて鉱山まではこれで行くんだって。
「お待たせ。それじゃあいよいよ出発だな」
既に乗り込んでいたハスフェル達にそう言い、空いている席へ座る。
「では出発致します。最初は少し揺れますので危険ですから立たぬようお願いいたします」
御者席に座ったアイゼンさんの言葉に、元気よく返事をする草原エルフ三兄弟。
俺も、期待半分ビビり半分だけど、笑って元気よく返事をしたのだった。
そのまま何となく馬車の外の景色を眺めながらのんびりと進む馬車に身を委ねていると、しばらくして見覚えのある光景が近づいてきた。
そう、あちこちの岩場から大きな煙突が突き出している場所で、製鉄を行なっているたたら場ってやつだ。
アイゼンさんが製鉄所である事を詳しく説明するのをハスフェル達も興味津々で聞いていたよ。
オンハルトの爺さんは、周りを見回しながら始終笑顔だった。
「到着いたしました。ではここで馬車から降りていただきます」
ファータさんの案内で、順番に馬車から降りて以前入ったのとは別の通路から鉱山の中へ入って行く。
ここはかなり天井も高く、あちこちに明かりが灯されているので、それほどの暗さも閉塞感も無い。
そのまましばらく歩いて突き当たりの角を曲がったところで、トロッコの乗り場に到着した。
「これってハスフェルとギイは、絶対座席に一人しか乗れないだろう」
並んだトロッコを見て思わず俺がそう突っ込むと、同じ事を考えていたみたいで全員揃って吹き出して大爆笑になった。
だって、そのトロッコってのがかなり小さくて、草原エルフくらいの体格なら二人並んで座れるくらいの大きさしかない。はっきり言って、俺でもファータさんとならギリ乗れるくらいの幅しかないのだ。
トロッコ一つに、ベンチ型の座席が二列並んでいるだけのシンプル構造だ。
一応、屋根はある。だけど窓の部分は何もなくてそのまま開放されているから、はっきり言って箱状のトロッコに無理矢理屋根を取り付けましたって感じだ。開放感抜群。
座席に申し訳程度に取り付けられている安全ベルトを見て、ちょっと遠い目になった俺だったよ。
「普段なら出来る限り詰めて乗っていただくんですけど、今回は人数も少ないですし、おひとり様一つ座席を使っていただいて構いませんよ。ただし、必ず安全ベルトは装着してくださいね」
にっこり笑ったファータさんの説明に気抜けた返事をする一同。
先頭の車両は少し小さな形が違う車両で、それにアイゼンさんが乗り込み、客車の一台目の前列にアーケルくんとカルン君が並んで座り、その後ろにオリゴー君が一人で座る。二台目には前列にリナさん夫婦が並んで座り、その後ろにランドルさんが一人で乗る。三台目には俺とオンハルトの爺さんが一人ずつ乗り、四台目にハスフェルとギイが一人ずつ乗った。あれ? ファータさんは?
「では、いってらっしゃいませ!」
一人だけ残ったファータさんが何故か満面の笑みでそう言い、すぐそばにあったポイント切り替えの時に使うみたいな大きなポールを両手で握り、右から左へと力一杯動かした。ガチャンと重々しい音が響く。
「では出発いたしますぞ。どうぞお楽しみください」
こちらも満面の笑みのアイゼンさんがそう言うと、キリキリと何かを回すような音がしてゆっくりとトロッコが進み始めたのだった。
さて、どうなるんだろうね!