のんびり待機とムービングログ
「大変お待たせして申し訳ございません。間も無くトロッコツアー出発となりますので、ご準備ください」
なんとなくする事もなくてのんびりと寛いでいると、スタッフさんが来てそう言ってまたすぐにいなくなった。
「あれ、前回は他にも参加者がいたんだけど、もしかして俺達だけなのかな?」
トロッコの人数がどれくらいまで乗れるのか知らないけど、人気のツアーだって言ってたし、俺達だけって事は無いだろう。
「どうだろうな。俺達だけでも十人だろう? トロッコの定員は何人なんだろうな?」
首を傾げる俺の呟きに隣に座ったハスフェルがそう言い、ギイとオンハルトの爺さんも不思議そうにしている。
「トロッコツアーは、多い時は三十人を越す時もありますよ。でも、だいたい朝一番の方が人気なんで、二回目は一回目の半分くらいな事が多いですね。だから二回目が穴場なんですよ。まあ、団体が入るとすぐにいっぱいになるんですけどね」
ランドルさんはどうやら前にもこれに乗った事があるらしく、俺の呟きを聞いて詳しく教えてくれる。
「ちなみにどんなふうなんですか? このトロッコツアーって」
出来れば事前情報が欲しい。めちゃくちゃ怖いとかは嫌だもんな。
「俺は楽しかったですけどね。バッカスは降りてから座り込んでましたよ。まあ、あいつは元々馬に乗るのもあまり得意ではないくらいだから、あまり参考にならないと思いますけど」
成る程。バッカスさんは、ジェットコースター苦手系の人なわけか。
笑ったランドルさんの言葉に、三兄弟が首がもげそうなくらいに頷いている。
「めっちゃ楽しいですよ。だから俺達、毎回バイゼンヘ来た時にここへ来てツアーに参加してるけど、このツアー以外行った事ないです」
何故かカルン君がドヤ顔でそう言って胸を張る。
「俺はこの前、ミスリル鉱山見学会ってのに参加したよ。ムービングログに乗って移動するやつ」
そう言って、ハンドルを持つ振りをする。
「ああ、それって最近出来た新しいツアーらしいですね。気になってるんですけど、どうでしたか?」
「おう、面白かったよ。まあムービングログに乗るのが第一目的って感じだったけどな」
「へえ、そうなんですね。実を言うとあのムービングログってのも気になってるんですよ。あれって収納袋に入れておけるかなあ?」
「いやいや、お前無茶言うなよ。あんなデカいもの入れたら必要なものが入らなくなるだろうが」
カルン君の呟きに、オリゴー君が慌てて首を振ってる。
「まあそうだな。こういう時は根無し草の身が悲しいよな」
顔を見合わせて首を振った二人は、揃って肩を竦めた。
その話を聞いていて、ハスフェル達もムービングログを注文していたのを思い出した。
「なあ、そう言えばハスフェル達が注文した分ってどうなったんだ?」
「おう、あの後本当にすぐに用意してくれて、全部受け取ったよ」
「ああ、そうなんだ。もう受け取ってるんだ」
そう言って、俺達は揃って草原エルフ三兄弟を振り返った。
「ムービングログに乗りたいなら貸してやっても良いぞ。だけど、アーケルは多分駄目だと思うけどな」
笑ったハスフェルがそう言ってアーケル君を見る。
「ありがとうございます! って、どうして俺だけ駄目なんですか?」
一瞬喜んだアーケル君が、納得出来ないと言わんばかりに口を尖らせる。
「要するに、従魔が嫉妬して凹んで大変だったんだよ」
苦笑いするハスフェルの言葉に、俺達が吹き出す。
「確かにあれはびっくりしたよな」
「全くだ。自分の背に主人を乗せるのが、彼らの矜持だったわけだからなあ」
ギイとオンハルトの爺さんも、揃って苦笑いしながら頷いている。
不思議そうにしているアーケル君に、俺達はあの時の大騒ぎの顛末を詳しく説明した。
「まあ、俺は従魔達が狩りに出かけている時には、買い出しにムービングログを使ってるけどさ」
「ああ、それはいいな。あの時の従魔達の様子を見れば、使い所は限られそうだからな」
「まあ、街の中でちょっと買い物とか、ちょっと移動したりする時には確かに便利だよ。郊外では使え無さそうだけどな」
一応説明書には荒地でも乗れるとは書いてあるけど、どんな危険な箇所でも乗せてくれる騎獣のいる俺達には必要ないものだよ。
「じゃあ、せっかくだから今度一度貸してください。乗ってみて良さそうなら俺達も注文します。それで、王都のリーリア達に預かって貰えばいいじゃん」
「ああそれ良い! 絶対あいつらなら喜んで預かってくれるよ」
「じゃあ冬の間はここで好きなだけ乗って、旅に出る時に収納袋入れて預ければいいな」
「良いんじゃないか。じゃあその予定で行こう」
笑顔でハイタッチする二人を見て、アーケル君は自分も買うべきか腕を組んで真剣に悩んでいた。
ヴァイトンさん。何台になるかはまだ分からないけど、またムービングログが売れるみたいだよ。