トロッコツアーに参加するぞ!
「従魔連れじゃあないから、今日は目立たないと思った俺が間違ってたよ」
ランドルさんと並んで歩きながら、俺は思わずそう呟いて諦めに近いため息を吐いた。
「ですよねえ。実は俺もそう思ってましたけど。逆に周りがいないおかげで本人達が思いっきり目立っちゃってますねえ」
苦笑いするランドルさんの言葉に俺も全く同意見だったので大きく頷く。
「だよなあ。気付かなかったけど、俺らの従魔達って良い仕事してたんだなあ」
「ですねえ。本当に」
呆れたような俺の呟きにランドルさんも大きく頷きながらそう答えて、最後に二人揃って顔を見合わせて乾いた笑いをこぼした。
なんで朝からこんなに疲れてるかって言うと、昨日の夕食の後、オリゴー君とカルン君、そしてアーケル君の草原エルフ三兄弟が力説してくれたおかげで、今日は狩りに行くのは休憩にして全員揃って観光客になり切るって事になり、三兄弟のたっての希望で、観光案内所へ行ってあのトロッコのツアーに参加してみようって話になったんだよ。
それで、あの俺が参加したムービングログのツアーの時ならいざ知らず、高速で走るトロッコに従魔達を乗せるのは無理だろうから、って事で俺の小物入れに入ってるサクラとアクア以外は全員宿泊所に置いてきたんだよ。それで、そのまま全員揃って徒歩で観光案内所へ向かっている真っ最中だ。
先頭をアーケル君達草原エルフ三兄弟が歩き、その後ろをリナさん夫婦、そしてその後ろをハスフェルとギイとオンハルトの爺さんが続き、俺とランドルさんがしんがりを務めている。
そうするとまあ、今までとは別の意味で街中から大注目を浴びる羽目になった。
要するに、実年齢は知らないけど見かけは全員十代の美少年アーンド美少女のリナさん一家と、戦神の再来を思わせる風貌の超マッチョな金銀コンビ。そして今更気がついたのもなんだけど、初老と言っていい見かけのオンハルトの爺さんだって、実はめちゃめちゃ格好良いんだよ。だって、あの金銀コンビと並んで見劣りしないんだぞ。
モブその一とモブその二扱いの、俺とランドルさんとはそもそもの作りが違う。
そんなメンバーが、並んで歩くとどうなるか。
結果、その場にいる街の方々、主にご婦人方とお嬢様方の視線を全部かっさらいました。そして当然のごとくリナさんには野郎どもの視線が全集中。要するに、男女の比無く、年齢に関係なく、ほぼ全ての人の視線を全部集めたよ。
だけど、そんなの知らないとばかりに平然と歩くリナさん一家とハスフェル達。
うう、イケメンとリア充め。注目されるのは日常茶飯事ですってか。
まあそんなわけで最後尾の俺とランドルさんは、もう完全にモブその一とその二になりきって少し離れてついて歩いている真っ最中なのでした。
しかしおかしいなあ、観光案内所ってこんなに遠かったっけ?
「ようこそバイゼンヘ〜〜!」
ようやく到着した観光案内所では、団体で入ってきた俺達を見て元気な受付嬢の声が聞こえてなんと無く皆笑顔になった。
ハスフェルを先頭にして、そのまま全員で壁に貼られている本日の参加可能なツアーの一覧を見に行く。
「これこれ! もうこれに決まりですって!」
嬉々として、トロッコ体験ツアーと書かれたポスターをバンバンと叩くオリゴー君。
「じゃあ、参加申し込みをしないとな」
俺の言葉に全員が受付カウンターへ向かう。
「ああ、ケンさん! また来てくださったんですね!」
何と、受付カウンターに座っていたのは、前回お世話になったあのファータさんだったよ。
彼女を見て、ハスフェル達が急に無言になって何か考えてる。分かるぞ、ちょっと年上だけど本当にそっくりなんだもんな。
「彼女は、あのフクシアさんのお姉さんなんだってさ。よく似てるだろう?」
先に教えてやると、揃って納得したらしくうんうんと頷いていたよ。
って事で、ファータさんにお願いして全員分の参加申し込みを済ませた。
なんでもこれは人気のツアーなのでトロッコが走るルートが幾つかあるらしい。あらかじめ予約しておくか朝一番に来ればどのツアーに参加するか選ぶ事も可能なんだけど、もう今日の午前中出発のツアーはあと一つしか無かった。
午後からのツアーもあったんだけど、午前中出発は鉱夫飯付きのツアーらしく、全員一致でこのツアーに参加する事に決定した。
ちなみに朝イチのツアーはもう出発していて、俺達は第二弾のツアーでの参加となった。
確か前回も、トロッコツアーは二組あったって言ってたよな。
「参加申し込み、ありがとうございます。出発までまだ少しお時間がございますので、こちらのお部屋で、この詳しい参加説明書を是非ご一読ください」
笑顔のファータさんに案内されて、奥にある会議室へ案内された。
「ここって前回も来た部屋だな。なるほど、参加者達の控え室な訳か」
何となく奥側の席に並んで座り、渡された参加申込書を読んでみる。
「何々、トロッコに乗りましたら、必ずスタッフの指示に従ってください。安全ベルトは必ず装着してください。万一勝手に外した状態で事故が起こっても観光案内所では一切の責任を持ちません。まあこれは当然だよな」
ってか、安全ベルトがあった事に心底安堵していた。
前回のムービングログに参加した時、チラッと見えたトロッコツアーの人達は、かなり大絶叫してたからな。まあ、怖がりの人が叫んでいた可能性もあるけど、実際にどれくらい怖いのかは乗ってみないと分からないもんな。
草原エルフ三兄弟はもうさっきからご機嫌で、手を離して乗るんだと言っては笑い合ってる。ああ、ジェットコースターでもたまにいたよな。両手上げて乗ってる人……。
若干の不安を抱えつつ、そのあとは大したことは書いていなかった説明書を読み終えた俺は、説明書をそのまま収納しておいたのだった。
さて、どんなツアーになるんだろうね?