いつもの朝の光景
ぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
こしょこしょこしょ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん……起きる……」
いつものフカフカでもふもふなニニの腹毛に無意識に潜り込みながら返事をする。
今日の抱き枕にしているタロンが、大きく喉を鳴らしながら甘えるみたいに寄ってきて俺の顎の辺りを舐める。
「痛いって……」
右手で収まるくらいの小さな頭をつかまえて、寝ぼけながらおにぎりにしてやる。
ニニとタロンを始め、集まってきた猫族軍団達までが揃って大きく喉を鳴らし始める。
タロンの横に潜り込んできたヤミーの背中を撫でながら、そのまま俺は気持ちよく二度寝の海へ墜落していった。
ぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクチク……。
こしょこしょこしょこしょ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、起きてるって……ふあぁ〜〜」
二度目のモーニングコールに無意識で返事をして欠伸をした俺は、不意に我に返って大急ぎで起きあがろうとした。
今朝の最終モーニングコールは、ソレイユとフォールのやすりがけコンビじゃんか!
起きろ俺!
しかし、起きあがろうと手をついたニニのもふもふの腹毛に、俺は絡め取られてしまう。
「ああ、このもふもふが俺を駄目にするんだよ……」
撃沈。
ザリザリザリザリザリ!
ジョリジョリジョリジョリジョリ!
「ひょえ〜〜〜〜〜〜!」
剥き出しの首筋と頬を舐められて、情けない悲鳴を上げてニニの腹の上から転がり落ちる。
「待って待って! 今のいつもより長くなかったか!」
首の後ろと頬を押さえながら叫ぶ。
「だって、ご主人が起きてくれないんだもん」
「起きてくれないんだもん、ね〜〜〜!」
最後は二匹揃って嬉しそうに声を揃える。
「何が、ね〜〜だよ! 俺の頬の肉がもげたらどうしてくれるんだ〜〜〜〜!」
笑いながら、胸の上に乗ってきた二匹を捕まえておにぎりの刑に処する。それから交互に甘えてくる他の子達も順番に撫でたり揉んだりおにぎりにしたりして、しばしのスキンシップを楽しんだ。
「さて、いい加減起きよう」
甘えるセーブルの頭に掴まって引っ張り上げてもらって起き上がり、そのまま力一杯抱きしめてやる。
セーブルの毛は、他の子達よりもかなり硬くてゴワゴワのウールの絨毯みたいだ。だけどしっかりと筋肉がついた体はもうこれ以上ないくらいにがっしりしていて、俺が力一杯抱きついたくらいではびくともしない。
しばらく抱きついたままでいて、セーブルから離れるまでそのままじっとしておく。
「ご主人、もう寝てはいけませんよ。ほら、顔を洗ってきてください」
嬉しそうに笑ったセーブルの声に俺も笑って手を離し、起き上がって洗面所へ向かった。
顔を洗ってうがいをする。それから跳ね飛んできたスライム達を順番に受け止めて水槽の中へ放り込んでやる。続いて飛んできたお空部隊の面々に、俺は両手で水をすくってかけてやった。その後にスライムシャワーが降り注ぐ。
マックスと狼コンビも駆け寄ってきて、いつものごとく最後はびしょ濡れになったよ。
「ご主人、綺麗にするね〜〜〜!」
水槽から出てきたサクラが、ニュルンと伸びて一瞬で俺を包み込む。
戻った時にはもう、サラサラのピカピカになってる。いつもながらすげえよな。
「ありがとうな。それじゃあ、あと片付けよろしく!」
「はあい、お任せくださ〜〜い!」
得意気なスライム達の返事に笑って手を振り部屋に戻る。
ベッドの上には、サクラに預けてあった防具一式が置いてくれてある。最近では、剣帯と剣は俺が自分で収納してる。
手早く身支度を整えたところで、タイミングよくハスフェルからの念話が届く。
『おはようさん、もう起きてるか?』
いつものトークルーム全開だ。
『おう、おはようさん。もう準備が終わるところだよ』
『おう、それじゃあ準備が出来次第出て来てくれるか』
『りょうか〜〜い』
収納していた剣帯を締めて、
剣を装着すれば準備完了だ。
「じゃあ、行ってくるから留守番よろしくな」
振り返ってそう言うと、奥で寛いでたマックス達が先を争うみたいにして俺の元へ駆け寄って来る。
今日は外へは出かけずに街の中にいる予定なので、従魔達は宿泊所で留守番してもらう事にしたのだ。
甘える従魔達をもう一度順番に撫でたり揉んだりしてスキンシップを楽しんでから、念の為サクラとアクアには小物入れに入ってもらう事にした。まあ、何があるか分からないからね。
ちなみに今日は、皆で一緒にまずは屋台で食事をして、観光案内所へ向かう予定だ。
聞けばハスフェル達も観光案内所の存在は知っていたし、入った事もあるらしいが、実際のツアーに参加はした事が無いらしい。ちなみにランドルさんは、バッカスさんと一緒に行った事があるって笑ってたよ。
何故こんな事になったかと言うと、昨夜オリゴー君とカルン君だけでなくアーケル君までが一緒になって、あの鉱山のトロッコ見学に一緒に行きましょうと力説したからだ。
「ええ、あれは観光向きじゃないって言ってたけど?」
三人の言葉に驚いた俺がそう言うと、三人は何を言うんだと言わんばかりに俺を振り返った。
「あの、トロッコに乗るのがめちゃめちゃ面白いんですよ。一度乗ったら癖になる事請け合いですって!」
「絶対面白いから行きましょうよ!」
「超おすすめなんですってば!」
結局その意見が通り、今日は皆で観光客になり切ることになったのだった。
「まあ、俺はジェットコースターは割りに平気な方だったけど、ハスフェル達やリナさん達は大丈夫なのかねえ」
苦笑いしつつ鞄を持った俺は、小さなため息を吐いてそっと扉を開いたのだった。