大好評のモンブラン風マロンタルト!
「なあ、この丸いケーキを十等分にするにはどうすれば良いと思う?」
途方に暮れた俺は、ナイフを持ったままでハスフェル達を振り返る。
しかし無言で顔を見合わせるハスフェルとギイ、そして目を逸らすオンハルトの爺さん。
リナさんとアルデアさんも無言で考え込んでるし、残りのスイーツ男子達も似たような有様だ。
ごめん、聞いた俺が悪かったよ。
等分にするのは諦めて、もう適当に切れば良いかと思った時にある方法を思いついた。
「あ、あれなら出来そうだけど……上手くいくかな?」
小さく呟き、取り出したのは大きめの料理用に使っている敷紙だ。
「そんなもの何にするんだ?」
ハスフェルの不思議そうな質問に、俺は肩をすくめた。
「要は、切る時の目安があれば良いんじゃないかと思ってさ。まずはこれを半分に折ってもう半分に折って中心を取るだろ」
折り紙の要領で、二回折って真ん中の当たりを取る。
「で、半分に折った状態に戻して円錐を作る」
そう言いながら適当に巻いて中心部分が頂点になるように紙を円錐形に丸める。
「それでここからが難しいぞ。二回半の位置まで広げて端を合わせてぺたんこに折ると十等分になるはずなんだけどなあ……」
ぶつぶつ呟きながら、筒の口の部分を覗き込んで微調整をしながら二回半巻いた状態にして畳む。
「しっかり折り目をつけて開くと、ほら! 十等分の線が引けた!」
完全な十等分ではないだろうけど、これなら目安になりそうだ。
「あ、円も取っとかないと」
もう一度折り目に沿ってたたみ直し、お皿よりも大きい位置で適当に端を折って二等辺三角形にしておく。こうすればお皿ごと乗せた時に中心が分かるからね。
「これを机の上に敷いてその上にお皿を置けば……ほら、これで完璧だ!」
何故か拍手が起こる。
「素晴らしい!」
「ケンさんすごい!」
「そんなやり方は初めて見ました!」
「一体どうすればそんな事思いつくんですか!」
スイーツ男子達は何故か手を取り合って感動してるよ。
ううん、この世界の教育水準が分からないけど、どうやらこれは彼らは初めて見たらしい。
多分、図形を引いたり設計したりする人達には当然の知識も、一般の人達には未知の知識だったみたいだ。
「手遊びの一種だけど、折り紙ってやらないのか?」
「折り紙?」
不思議そうな声が重なる。
「ええと、俺の故郷で流行ってたんだけどなあ」
そう言ってから、ハスフェル達と同郷だって事になってたのを思い出して内心慌てる。
「成る程なあ。同郷と言っても、樹海では住む場所が違えば色々違うからな。そんな手遊びは初めて聞くよ」
腕を組んだギイが、感心したように頷きながらそんな事を言ってくれる。
ギイ、グッジョブ!
いざとなったら今の意見、採用させていただきましょう!
頭の中でそんな事を考えつつ、用意したナイフを温めながら敷いた紙の折り目を目印にしてケーキを切っていく。
「まずは半分に切ってっと、ここからはその半分ずつ切るんだな」
全員から大注目を集めつつ、若干大きさに違いはあるかもしれないが、まあそれなりに綺麗に十等分に切る事が出来たよ。
「いつもよりやや小さめだな」
お皿に一つずつ乗せてから、ケーキの横に生クリームと甘露煮を二種類飾れば完成だ。
「お待たせしました〜〜! 新作のマロンタルトのモンブランだ!」
そしてまた起こる拍手。皆大喜びだ。
「じゃあ、これにはコーヒーかな」
作り置きのコーヒーのピッチャーを取り出しておき、各自で用意してもらっている間に、並べたお皿に残りのケーキを盛り付けていった。
「それじゃあ俺の分だけ、もう一回お供えしておくか」
予想通りに現れて大はしゃぎしている収めの手に笑いかけて、俺の分のケーキとコーヒーを簡易祭壇に並べた。
俺の頭と頬を撫でてから、嬉々としてケーキを撫で回して消えていく収めの手を見送り、なんだかおかしくなって笑いを堪えるのに苦労していたよ。
「お待たせ」
待ってくれていた皆にお礼を言って、ケーキとマイカップを持った俺も席に座る。改めて手を合わせてから皆食べ始めた。
「食、べ、たい! 食、べ、たい! 食べたいよったら、食べたいよ〜〜〜〜〜〜! ジャジャ〜〜〜〜ン!」
お皿を振り回したシャムエル様の、欲望に忠実な食べたいダンス頂きました!
そして当然のように隣にすっ飛んできて、一緒になって踊るカリディア。こちらは相変わらず完璧なまでにシャムエル様のダンスのコピーだ。いやあ、お見事お見事。
「じゃあ、これは俺も食べたいから半分こな」
そう言って、持っていたフォークで無理矢理半分に切り分けて大きい方をシャムエル様のお皿に乗せてやる。
生クリームと甘露煮も丸ごと乗せてやり、俺の分には追加で瓶から甘露煮を取り出して並べた。
「ふおおお〜〜〜〜〜〜マロンケーキ最高〜〜〜〜!」
「ふおおお〜〜〜〜〜〜マロンケーキ最高〜〜〜〜!」
そしてやっぱり、歓喜の叫び声が見事なまでにシンクロしていて交互に上がるシャムエル様とアーケル君。
「美味い! 美味すぎるよ〜〜〜!」
「だよな! ケンさんと知り合えてよかった〜〜〜!」
そして、食べながらこちらも交互に歓喜の叫びを上げているオリゴー君達。
小さく吹き出した俺は、コーヒーを一口飲んでから、栗クリームのたっぷり乗ったマロンタルトを食べ始めた。
「うん、自分で作って言うのもなんだけど、これは確かにめちゃめちゃ美味しい」
俺の呟きが聞こえたのか、振り返った栗クリームまみれのシャムエル様がサムズアップをしてくれたので、俺も笑顔でサムズアップを返したよ。
確かにこれは美味しい。良い仕事したよな俺。
「手間はかかるし栗クリームを絞るのは大変だけど、こんなに美味しいならまた作っておこう。あ、プリンカップでマロンマフィンを作って、それに栗クリームを飾ったバージョンも出来そうだな。よし、これも作ってみよう」
自分が食べたいとやっぱり色々とアイデアが出るな。
小さく笑った俺は、残りのマロンタルトを平らげたのだった。
ごちそうさまでした〜〜〜〜!