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茹で栗と焼き栗

「さあてっと、何からするかね」

 宿泊所に戻った俺は装備を全部外して身軽になり、サクラに手を綺麗にしてもらってから、空っぽの机の上を見た。

「じゃあ、まずは時間のかかる茹で栗と焼き栗からだな。サクラ、いつものコンロと大鍋、厚手のフライパン。それと生の栗を出してくれるか」

 出してくれた道具を順番に机の上に並べ、まずは茹で栗を仕込んでいく。

 その前にスライム達に検品してもらって虫入りは全部跳ねてもらう。

 綺麗に洗ってから大鍋に栗を入れて水をたっぷりと入れて塩を少々振り入れる。あとは沸騰するまで強火にして、そのあとは弱火でじっくり茹でるだけだ。だいたい40分くらいだ。

「俺だけじゃなくて栗は皆好きみたいだったし、たっぷり買い置きはしてあるからとりあえずすぐに食べられる状態にしておけばいいよな」

 って事で、もう一つ大鍋を用意してこちらにもたっぷりの茹で栗の用意をして火にかける。



「これは焼き栗にするから、この前やったみたいにここに切り目を入れてくれるか」

 大粒の綺麗な栗をボウルに山盛りにしてスライム達に渡す。

「ああ、この前と同じで虫入りがあったら、それは食っといてくれていいからな」

「はあい、了解で〜す!」

 嬉しそうなスライム達の返事が聞こえ、サクラが嬉々として栗の在庫を取り出すのを見て思わず吹き出したよ。

「いいよいいよ、虫食いは全部進呈するから、皆で仲良く食べてください」

 笑ってそう言いながらフライパンの準備をしていると、誰かが俺の肩を叩いた。




「うわあ! びっくりした。ああベリーか。フランマとカリディアも、もう帰ってたんだな。お疲れ様」

 ベリー達は今日はハスフェル達とは別行動で、まだ周囲を警戒して巡回してくれているケンタウロスの仲間達のところへ報告を聞きに行くんだって聞いてる。

 驚いた俺の様子に苦笑いしたベリーが机の上を見る。

「カリディアが栗と聞いて喜んでいたので、その加熱前のを少し分けてやってもらえますか」

 遠慮がちなベリーの言葉に俺は笑って机の上に上がって来ていたカリディアをそっと撫でた。

「あはは、カリディアも栗好きだったか。そっか、生のままでいいんだ。もちろん好きなだけ取ってくれていいぞ。まだまだあるからな」

 机の上に出した分だけじゃなく、足元に並べた一番大きな寸胴鍋には、スライム達による虫食いの検品済みの生栗が山盛りに入れて置かれている。

「ありがとうございます。では少しいただきますね」

 嬉しそうにそう言って、俺が差し出した大粒の栗を両手で受け取り早速齧り始めた。

「ええと、どれくらいあればいい? ああ、もしかしてベリーも食べるのかな?」

 果物と同じで、いかにも木の実にもマナは多く含まれていそうだ。

 そう思って振り返ると、苦笑いしたベリーが嬉しそうに頷く。

「では、そんなにたくさん入りませんから、茹でたり焼いたりしたのを後でいただけますか」

 どうやらベリーは調理済みの方が良いらしい。

「了解、じゃあちょっと待っててくれよな。ああそうだ。貰い物だけど、小粒のやつなら焼き栗がたくさんあるぞ」

 屋台の人達から山盛りにサービスだって言って小粒の焼き栗をもらっている。大きさも味も、いわゆる甘栗サイズなので俺は嬉しいんだけど、ハスフェル達は小さいのは面倒らしくあまり食べていないみたいだ。

「いいんですか。では、それも少しいただきますね」

 嬉しそうなその言葉に、俺は自分で収納していた甘栗を大量に大皿に出してやった。

 カリディアがそれを見て目を輝かせていたので、別のお皿にもうちょい出してカリディアの前にも置いてやったよ。

「足りなかったら遠慮なく言ってくれよな。ああ、加工品は? 甘露煮とか砂糖漬けとかもあるけど、これは食べない?」

 念の為甘露煮の瓶を取り出して見せたけど、どうやらこれはお口に合わないみたいだ。

「そちらは遠慮します。どうぞ加工品はケン達で食べてください」

 苦笑いして首を振られたので、密かに安堵しつつ甘露煮の瓶は収納しておいたよ。



「じゃあ、次は焼き栗だな」

 フライパンに並べた栗をじっくりと焼いていく。これは時折フライパンを揺するくらいであまりする事がないので、俺はその間に師匠のレシピ本を取り出して栗の項目をじっくりと読み込んでいった。

「このマロンタルトってのも美味しそうだな。ああ、栗クリームの絞り方まで載ってるじゃんか」

 この前は見落としていたけど、栗クリームのページの隣に、これを絞り出す道具の説明とやり方の説明が詳しい図解付きで載っていたのだ。

「なあ、こんな道具って買ってる?」

 サクラにそのページを見せて聞いてみる。確かハンプールのセレブ買いの時に、製菓担当の店員さんがレシピを見ながら一通り作れるだけの道具を用意してくれていたはずだ。

 しばらく考えたサクラが、筒状の部分に栗クリームを入れて注射器みたいに後ろからぐいっと押すと出てくる道具と、それからたまにケーキ屋さんで見る、生クリームを絞ってる三角の布の袋と先に入れる口金って呼ばれる道具を色々と出してくれた。

「これが細いのがたくさん出る口金だね」

 そう言って取り出してくれたのは、口金の先端部分が直径2センチくらいの平らになったもので、その平らな部分に爪楊枝サイズの穴が円形状に幾つも並んでいる。なるほど、これで栗クリームを絞り出せば細いのが一気に出てくるわけか。これなら俺でも使えそうだ。

「よし、まだ夕方まで時間があるみたいだし、焼き栗と茹で栗が終わったらこのマロンタルトってのを焼いて、その上に栗クリームをたっぷり絞ってモンブランも作ってやる。それから時間があれば、栗入りのパウンドケーキと、鬼柚子ピール入りのパウンドケーキも焼いてみよう。今回の具はシンプルに一種類だけで作るぞ」

 作るものが決まればあとは作るだけだ。

 まずはそろそろ片面に焦げ目がついて焼き上がった焼き栗を、お箸でちまちまとひっくり返していったのだった。



 よし、いい感じに焼けてきたぞ。

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