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朝食と東アポンの街

「お待たせ、それじゃあ行くとしようか」

 水桶から三匹のスライム達が出て来て、アクアはニニの背中に、サクラはいつものように鞄に潜り込んだ。ミストはポーンと跳ねてシリウスの背中に飛び乗った。

「なあ、わざわざスライムを鞄に入れる意味は?」

 俺のする事を見ていたハスフェルに言われて、俺は笑って背負った鞄を見せた。

「だって、俺自身は収納の能力持ちじゃ無いからさ。サクラに買い出し品の荷物持ちをしてもらってるんだ。だけどシャムエル様に聞いたら、スライムが収納の能力を持ってるなんて有り得ないんだろう? だから、人前でスライムに入れる訳にはいかないじゃないか。なので俺が鞄に入れたふりして収納してるって事にしてるんだよ。名付けて四次元鞄!」

 某青猫ロボットのポケットと違って、自分で入れた物しか出てこないけどな。

「すごい事考えるな。成る程、それならわざわざ宿まで持って帰る必要は無いし、便利で良いじゃないか」

 感心したハスフェルに言われて、俺はちょっとドヤ顔になったね。


 そして、当然マックスやニニ達も全員一緒に出掛けるよ。ほら見て良い子だぞ作戦実行中だ!


 全員揃って宿泊所を出た俺達は、ハスフェルの案内で屋台が出ているのだという広場に向かっていた。

 良いお天気で、早朝にも関わらず、大勢の人が出ている。

 しかし、広場へ向かう俺達の周りだけが、不自然に広い空間が空いているのだ。

「マックス、お前は大人しい良い子だよな」

 態とマックスの首を撫でてやりながら、大きな声で話し掛ける。マックスも分かっているので、妙に可愛い声で一度だけワンと鳴いた。

 周りからどよめきが起こる。

 それから、マックスの後ろを歩くニニの首にも同じように話し掛けながら抱きついてやり、心ゆくまでもふもふを満喫した。

 分かっているニニが、大きな音で喉を鳴らしながら手を離した俺の頭を嬉しそうに目を細めて舐める。またしてもどよめきが起こったが、俺は敢えて聞こえない振りをした。

「こらこら、お前の舌は痛いから駄目だって。毛が抜けるよ!」

 笑って、鼻先を抑えて舐めるのを止めさせて、もう一度抱きついてやる。


「何をやってるんだ、お前は」

 呆れたようなハスフェルの声に、俺は笑った。

「だって、こいつらのもふもふは俺の元気の源なんだからさ」

「成る程。それなら邪魔はしないよ。心ゆくまで従魔と戯れてろ」

 笑ったハスフェルも、隣を歩くシリウスの首にしっかりと抱きついていたから、彼もこの行為の効果は分かったんだろう。

 何しろ、俺達が仲良く戯れているのを見ていた周りの人達の態度が、微妙に変わってきたのだ。

 さっきまでのような、あからさまにマックス達を怖がる様子が無くなり、代わりに興味津々でこっちを覗き込む人まで現れ始めたんだよ。

 よしよし。ほら見て良い子だぞ計画は順調に成功しているみたいだ。

 とにかく、まずはこいつらは怖くない従魔だって事を分かってもらわないとな。

 マックスとニニを交互に撫でてやりながら、ようやく広場の入り口に到着した。


「ここが屋台が出ている広場だ。とりあえず、見てみると良い」

 言われて広場に入って屋台の方を向くと、ここでもやっぱりどよめきが起き、わっと広場の端に移動する人々……。

「こいつらは、全部俺の従魔ですから大丈夫ですよ。ご心配無く」

 大注目を集めながらそう叫んで、内心は半泣きになっていたが、平然と並んだ屋台を見て回った。


「うう、もう本気で泣きそうなんですけど」

 マックスの陰に隠れて嘆く俺に、ハスフェルは笑っている。

「言っただろう、気にするな。すぐに慣れるさ。ああ、米が主食なら、あの辺りの店がケンには嬉しいんじゃないか?」

 彼が指差す方向に並んだ数件の屋台は、何やら大きな鍋が見えているが、並んでいるのは鍋と皿だけで、商品らしきものは全く見当たらない。

「あれは何を売っている店なんだ?」

「米を、柔らかくしてスープみたいにしたのを売っているよ」

 ハスフェルの説明に目を輝かせた。

「それって、もしかして朝粥じゃん!」

 ゆっくりと近寄り、マックスの側から離れる。またしてもどよめきが起こったが、無視だ無視!

 当然だが、マックスは俺が手を離しても大人しくその場でおすわりして待っている。そしてその横に当然のようにニニが並んで座った。


「い、いらっしゃいませ……」

 目の前でおすわりする二匹にめっちゃビビりつつも、鍋の横にいたおばさんがお皿を手に取って俺を見た。

「一人前お願いします」

 すると、おばさんはにっこり笑って頷いてくれた。

 大きな木の器に、鍋からとろとろの粥を掬ってたっぷり入れてくれる。それから、何やら色々とトッピングして、匙を一本突っ込んで渡してくれた。

 言われた代金は、なんと銅貨一枚! 安っ!


 広場の端に寄って、大人しく座ったマックスの足に座って俺は買ってきた粥を一口食べてみた。

「優しい味で美味い! お粥最高!」

 しかもなんと、中には小さいが海老が入っていたのだ。海老じゃないかもしれないけど、少なくとも俺の知る海老と同じものだし同じ味だ。薄めの塩味も好感が持てる。

「これ、鍋ごと買いたい。頼んだら、分けてくれないかな」

 見ていると、鍋を持ってきて、そこに粥を入れてもらっている人もいる。

 よし、鍋をいくつも買って、粥も買って行こう。これは疲れた日の朝に絶対欲しいぞ。

 ゆっくりと味わいながら粥を食べていると、いつの間にかハスフェルも色々買って来て横に座ったシリウスの足に座って食べ始めた。

 しばらく、無言でそれぞれ買ったものを黙々と食べた。

「ごちそうさま。美味しかったよ」

 器を返すと、さっきのおばさんが笑顔で受け取ってくれた。

「ありがとうね。またよろしく」

「あの、ちょっと聞いてもいいですか」

「ああ良いよ。どうしたんだい?」

 当たり前のように答えてくれる。何となく、世話好きなおばさんっぽい印象は間違っていなかったようだ。

「このお粥って、持ち帰りも出来るんですよね。鍋や皿を持って来たら良いんですか?」

「ああ、鍋の場合は、何杯入るかで値段は変わるけどね。たくさん買ってくれた方が安くなるよ」

「どれ位まで売ってくれますか?」

 思わず身を乗り出す俺を見て、おばさんは吹き出した。

「何だい何だい、えらく気に入ってくれたもんだね。かまやしないよ。どんな大鍋だって持っておいで。入るだけ入れてやるからさ」

 ケラケラと笑ったおばさんは、屋台の奥を指差した。

 そこにはいくつも大鍋が置かれていて、順番に火にかけられているのだ。

「分かりました。じゃあ今度は大鍋を持って来ます」

「待ってるからね!」

 吹き出すおばさんに手を振って、俺たちはその場を後にした。



 腹はいっぱいになったが、せっかくなので一通り見て回った。

 お粥の店は一軒だけで、ラーメンっぽい店が二軒、おにぎりを売っている店も何件もあった。それ以外は、見慣れた屋台が並んでいた。串焼きやパン屋、お菓子屋や果物屋。ジュースやコーヒーを売っている店もある。

「コーヒー飲みたい」

 思わず呟いて珈琲屋に寄り、マイカップにたっぷり入れてもらった。


「この後だけど、ちょっと食事の在庫が減って来てるんで、買い出しに行きたいんだ。ハスフェルはどうする?」

「ああ、まだ念の為、用心すべきだから一緒に行くよ。だけど、その前にお前さんに見せたいものがあるんだ。こっちだ」

「ああ、そう言えば夜が明けたら俺が驚くみたいな事を言ってたよな。だけど、今の所大きな街だとは思うが別に驚くような事はないと思うんだけどな?」

 首を傾げつつ付いて行き、広場を出て別の通りを曲がる。するといきなり広い通りへ出た。

 四車線ぐらいの幅のある道路を大勢の人が行き交っている。そして、その先に見える光景に、俺は絶句した。


「ええ、何だよあれ。帆船じゃん!」

 そう、目に入って来た大きな通りの先はドーンと開けていて、そこを巨大な帆船が行き交っていたのだ。

 思わず、もっとよく見ようと、俺は無意識にマックスの首輪を掴んで背の上に一気に飛び乗った。

 周りからどよめきが聞こえたが、俺には構う余裕は無かった。

「すげえ、すげえ!」

 思わず何度も呟く。


 道路の左側にあった大きな建物は、その屋上部分がそのままはるか先の対岸まで続く、背は高く、幅も広い巨大な石造りの橋に繋がっていたのだ。

 アーチ状になった陸橋の間を、大きな帆船がゆっくりと行き交っている。他にも、川面には小さな船がいくつも見えた。

「アポンは大河を挟んで東西に発展した。造船技術も凄いぞ。あの巨大な帆船は、この街の造船所のドワーフ達の技術の結晶さ」

 ハスフェルの説明に、俺はマックスの背の上でただただ感心して無言の拍手を送ったのだった。

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