駄目な大人達
「いやあ、すごい戦いだったんですね。早駆け祭りの英雄殿に乾杯!」
オリゴー君の掛け声に、あちこちからも笑う声と共に乾杯の声が聞こえる。
「かんぱ〜〜〜い!」
俺ももう、すでに何回目か記憶にない乾杯をしてグラスに残っていた濁り酒を飲み干した。
「はあ〜〜〜〜美味い! いやあ、まだ明るいうちから飲む酒ってなんでこんなに美味しいんだろうなあ」
ほろ酔い気分でそう呟くと、あちこちから同意する声と笑い声、それからまたしても勝手に乾杯する声が聞こえる。
「かんぱ〜〜〜〜い! 真っ昼間っからここには駄目な大人が集まっていますよ〜〜!」
笑って乾杯した俺の言葉に、屋台村は大爆笑になったのだった。
「はあ、すっかり飲み会になっちゃったなあ。だけど、もうそろそろ戻るよ」
追加で買った鶏皮の最後の一つを摘んだ俺は、そう言って酔いを払うみたいに大きく深呼吸をしてから伸びをした。オリゴー君とカルン君も、残っていた濁り酒を飲み干して空になったグラスを机に置いた。
「じゃあ、また後で宿泊所で会いましょう」
「俺達はまずは武器屋へ行って研ぎをお願いしてきます」
揃って立ち上がった二人は、俺と違ってほとんど酔っているようには見えない。いやあ、相変わらず皆お酒に強いねえ。
「ああ、そうなんだね。それじゃあここで一旦解散かな。楽しかったよ」
笑ってそう言い、手を振って笑顔で出ていく二人を見送った。
「さてと、それじゃあ俺も一旦宿泊所へ戻るか。ううん、さすがにちょっと飲みすぎたよ」
念の為、美味しい水の入った水筒を取り出して飲んでおく。水筒を鞄に放り込んでから俺も立ち上がった。
「ごちそうさまでした。ええと、ちょっと相談なんですが、まとめ買いってさせてもらっても構わないかな?」
そう言って、さっきの鶏肉料理の専門店を覗いた。
酒の当てに最高の、あの鶏皮は是非ともゲットしたい。
店主と相談の結果、鶏皮だけじゃなくて昼用に仕込んだ残りを全部まとめ買いさせてもらったよ。
売れ残りで申し訳ないと言われたんだけど、それは仕込みをしているだけで、話をしている間に揚げてくれていた分だから事実上揚げたて。だけど、なんでも昼と夜で仕込む味付けを変えているから、これはもう使えないらしい。
そんな事言われたら夜バージョンも欲しくなるじゃないか! それって絶対酒に合うように濃いめの味付けになってるやつでしょう!
って事で、またしても相談の結果、夜の味付けの分は後で宿泊所へ配達に来てくれる事になった。忙しいだろうに申し訳なく思って謝ると、配達もやっているから大丈夫だって言われた。
聞けば本店は別にあって、当然の養鶏所直営店。この屋台はその鶏肉専門店が出しているいわばアンテナショップ的な位置付けらしい。なので俺みたいに大量買いの希望者や店への納品依頼があった場合は、本店の方で対応してるんだって。
「成る程。それなら遠慮なく頼めますね」
にっこり笑った俺の言葉に、店長さんも笑顔で頷いてくれた。
前金を払ってギルドの宿泊所に配達を頼む。大量にお願いしたから、もしも無理なら二日か三日に分けてもらっても構わないことも伝えておく。
「ありがとうございました〜〜!」
笑顔で手を振ってくれる店長さんに俺も笑顔で手を振り返し、次はさっきの汁そば屋へ向かい、ここでも持ち帰り用に鍋を渡してまとめて作ってもらう。
「時間停止の収納とは羨ましい限りですね」
そんなに大量にどうするのか。伸びてしまって美味しくないぞと心配する店主に、時間停止の収納持ちである事を明かして納得してもらい、大鍋に満杯まで作ってもらった。
それから他の店も見て周り、良さげなものをどんどんと買ったよ。
ちょうど昼を過ぎて夜の仕込み前の時間だったため、どこも大喜びでまとめ買いに応じてくれた。
「よし、これでしばらく料理はしなくてもすみそうだな。じゃあ今日は何をするかねえ」
思いのほか大量の作り置きをゲットできたので、すっかり機嫌を良くした俺は、外へ出たところでムービングログを取り出して飛び乗った。
「よし、帰ったらまずは栗を焼いたり茹でたりしておこう。それで栗を使った焼き菓子のレシピを調べてみるか。ああ、そうだ。パウンドケーキに甘露煮を入れたら、そのまんま栗のケーキになるじゃん。よし、それでいこう」
いつもよりもゆっくり目のスピードで道の端っこを進みながら、鼻歌まじりにそんな事を考えていた俺だったよ。
「栗、クッリ、クリクリ〜〜! 焼き栗、茹で栗、栗ケ〜〜〜〜〜キ!」
俺の呟きを聞いて、嬉々として新作栗の歌を歌いながらハンドルの上で器用にステップを踏んで踊りまくっているシャムエル様。
「お見事。だけど落ちると危ないから、お願いだからそこで踊るのはやめてください。見てて俺が怖いよ」
思わずハンドルを見ながらそう言うと、まるで煽るみたいにくりっと一回転したシャムエル様はまたステップを踏み始めた。
「へっへ〜〜ん! そんなドジはしないもんね〜〜〜〜!」
そう言って、得意げにくるっと蜻蛉返りを決める。だけどその時俺は、角を曲がるためにハンドルを切ったところだった。
「どわあ〜〜! だから危ねえって言ったじゃんか!」
当然、着地の瞬間に丸いハンドル部分に足を滑らせたシャムエル様が吹っ飛びそうになって、俺は慌てて片手でシャムエル様の尻尾を掴んだ。
即座に地面に片足をついて止まった俺は、ハンドルの真ん中にある操作板の上にシャムエル様を乗せてやる。
「もう、走行中のムービングログの上ではダンス禁止! 落っこちたら危ないだろうが!」
「てへ!」
誤魔化すように笑ったシャムエル様は、一瞬で俺の右肩に移動して尻尾のお手入れを始めた。
「もう、助けるにしてもちょっと考えてよね。大事な尻尾の毛が抜けちゃったじゃない」
「はいはい」
苦笑いした俺はもふもふのお尻をつっついてから、改めてムービングログに乗って宿泊所へ戻って行ったのだった。