ご注文おうかがいしま〜〜す!
「ええと、飾り付けは適当だから崩れてるのもあるけど、ごめんよ」
期待に満ち満ちた目で揃って見つめられてしまい何だか照れ臭くなった俺は、誤魔化すようにそう言ってサクラの入った鞄からまずはチョコパフェとマロンパフェの各サイズ、それからプリンアラモードを取り出して並べた。
「こっちから、チョコレートパフェの大、中、小。でこっちがマロンパフェの大、中、小。で、これがプリンアラモードだよ。数はありますから、お好きなのをどうぞ」
最後だけ改まってそう言い、カフェの店員みたいにトレーを取り出してチョコパフェを一つ乗せてポーズを決めてみせる。
「うわああ! これは素晴らしい!」
「予想以上だよ! うわあ、どれにしよう!」
スイーツ男子二人が並んだパフェ各種とプリンアラモードを前に絶叫している。
わはは、好きなだけ悩め悩め。
「それから、これはワインに合うと思うんだけど、鬼柚子っていうこんな変わった柑橘を市場で見つけたんだ。それでこの皮の部分を甘く炊いたのがこれ。こっちはそれにチョコレートをコーティングしてみたよ」
そう言って、鬼柚子を一つ取り出して見せながら、お皿に適当に二種類の鬼柚子ピールも取り出して並べる。
「ええ、これも作ったんですか? すっげえ」
アーケル君の驚く声に俺はちょっとドヤ顔になる。
「おう、これの皮を剥くところから全部やったぞ。かなり手間はかかったし面倒だったけど、美味しいんだよこれが」
そう言って、チョココーティングしてあるのを一つ摘んで口に入れる。
「ああ、これならマギラスの店で食べたことがあるぞ。確かにワインに合うって聞いた覚えがあるなあ」
ギイが笑いながらそう言って、鬼柚子ピールを一つ取って口に入れる。
「うん、確かにあれと同じだよ。へえ、こんなの作れるって凄いな」
感心したようにそう言い、小皿に鬼柚子ピールを取り始めた。それを見て、ハスフェル達も鬼柚子ピールを確保し始めた。
へえ、師匠も作ってるんだ。あとでレシピが載ってたかどうか見てみよう。今回のレシピは、市場のおばさんから貰ったレシピそのままだもんな。
「気に入ったんなら、また時間を取って作っとくよ」
笑ってそう言った俺は、並んだパフェを振り返る。
「で、どれにするか決まった?」
パフェを前にして、真剣な顔で瞬き一つせずに考え込んでいるランドルさんとアーケル君。
リナさん夫婦はそんな二人を苦笑いしながら見つめている。だけど二人の注文が一向に決まらないのを見て、顔を合わせて頷き合ってから俺を振り返った。
「ケンさん、私はそのプリンアラモードをお願いします」
「俺は、チョコレートパフェの小さいのをお願いします」
「ご注文いただきました〜ではこちらをどうぞ〜!」
笑顔でそう言って、取り出したパフェをトレーに乗せて運んでやる。
「お待たせいたしました。プリンアラモードとチョコレートパフェ小でございます」
揃って拍手する二人を見て、鬼柚子ピールを確保し終えたハスフェル達が揃って手を挙げる。
「チョコパフェ大をお願いします」
笑顔のハスフェルとギイの声が重なる。
「俺はそのマロンパフェの大きいのを頼むよ」
オンハルトの爺さんも大きいのに行くんだ。
「チョコパフェ大二個と、マロンパフェ大ご注文いただきました〜〜!」
笑いながらそう言って三つのパフェを取り出して運んでやる。
これまた揃って拍手で迎えられたよ。
「へえ、パフェ用のスプーンがあるんだ。確かにこれならこのグラスでも手を汚さずに食べられるなあ」
一緒に渡したパフェ用スプーンを見て感心しているハスフェル達の声を聞きながら、アーケル君が大きく頷いて右手を挙げる。
「あの、複数頼んでもよろしいでしょうか?」
「おう、数は作ってあるから大丈夫だけど腹具合と相談してくれよ、食いすぎて腹が痛くなっても俺は知らないからな」
まあ予想通りの質問だったので、笑いながらそう言って大きく頷いてやる。
「では、三種類全部ください! あの、パフェは大きいので!」
おう、まさかの三種制覇。しかも大サイズ。アーケル君の胃袋はシャムエル様レベルみたいだ。
密かに笑いそうになるのを堪えて、アーケル君の前に、取り出したパフェとプリンアラモードを運んで並べてやる。
「チョコレートパフェ大とマロンパフェの大、それからプリンアラモードのご注文いただきました〜〜!」
ハスフェル達の吹き出す音が聞こえる。
「あの、俺はパフェは両方中サイズで。プリンアラモードもお願いします!」
ランドルさんも何故か手を挙げて大声で叫ぶ。いや、聞こえてるから普通に言ってくれていいんだけど。
「チョコレートパフェ中とマロンパフェ中、それからプリンアラモードのご注文をいただきました〜〜!」
もう完全に面白がってる俺がそう言って、取り出したパフェをランドルさんの前に並べてやると、これまた拍手をいただきました。
ちなみにアーケル君は、俺が持ってきたのを並べてる間中口を押さえてずっと悶絶してました。
そこまで喜ぶほどのものじゃあないと思うんだけど、まあ作った側にしては嬉しい反応だね。
「で、俺はこれな」
取り出したままだったマロンパフェ小を横に避けて残りは収納しかけて手を止めた。
机の上では、またしてもパフェスプーンを槍みたいに振り回すシャムエル様がいて、わっしょいわっしょいとよく分からない掛け声と共に、ぴょんぴょんと飛び上がっては足を高速で交差させていた。
おお、あれって名前は知らないけどバレリーナとかがやるやつじゃん。すっげえ。
そして最後はスプーンを抱き抱えるみたいにしてクルクルと回転してからきめのポーズだ。
「お見事。ええ、でもさっき丸ごと一つ食ってたと思うんだけど、大丈夫か?」
呆れたような俺の言葉に、決めポーズのままもう一回転したシャムエル様がドヤ顔になる。
「もちろん! 今度はマロンパフェの大きいのをお願いします!」
「あはは、はいどうぞ」
一度トレーに乗せてから、目の前に置いてやる。
「ふおお〜〜〜! 今度はマロンパフェ! ではいっただっきま〜す!」
聞こえてる訳は無いんだけど、まるでそのシャムエル様の叫び声が合図だったかのように、皆が笑顔で頷いて食べ始める。
俺も、マロンパフェ小を残して残りを収納してから早速食べ始めたのだった。