鍋焼きうどん
「おお、これは美味しそうだ」
並んだ熱々の鍋焼きうどんを見てハスフェル達が嬉しそうな声を上げる。その隣では、ランドルさんとリナさん一家が揃って拍手をしている。最近、ランドルさんとリナさん一家のシンクロ率が高すぎるよ。
ちなみに、並ぶと三人の子持ちヤモメに見えるけど全然違うんだよなあ。
独身のおっさんと、一見美少女なのに実は五人の子持ちの肝っ玉母さんと、一見美少年兄弟に見えるけど実は腕利きの冒険者親子。しかもそのうち三人は、優秀な魔獣使い。
ううん、相変わらず知ってる知識と視界から入る情報が合わなくて脳がバグるよ。
「今日の夕食は、寒い季節にぴったりの鍋焼きうどんだよ。だけど多分ハスフェル達はそれだけじゃあ足りないだろうから、あとはこの辺りのを好きなだけどうぞ」
気を取り直すようにそう言って、さっき作った山盛りのおにぎり各種と作り置きのお惣菜を中心に色々と並べておいてやる。
「鍋は熱いから気をつけてな。素手で触ると火傷するぞ」
念の為、鍋つかみと鍋敷きを人数分並べておく。
「ええと、あとデザートもあるからそのつもりでお腹に余裕を持たせておいてくれよ」
「よし! デザート!」
アーケル君とランドルさんの嬉々とした声が重なる。
「おう、頑張って作ったから、好きなだけ食ってくれていいぞ」
笑いながらそう言ってやると、何故か二人は飛び上がって喜びハイタッチなんかしてるし。
アーケル君とランドルさん。どうやらスイーツ好き同士で意気投合しちゃったみたいだ。
「じゃあ俺の分のおにぎりは、肉巻きおむすびはシャムエル様が食べるだろうから、こっちの三色そぼろにぎりを取っとくか」
お皿に、肉巻きおにぎりと三色そぼろにぎりを一個ずつ並べようとしたら、一瞬で俺の腕の上に現れたシャムエル様が、器用にステップを踏みながらお皿を取り出して俺に突き出す。
「おにぎりは、両方お願いします!」
「はいはい、ガッツリ食うんだな。だけどデザートの分は空けておけよ」
苦笑いしながらそう言うと、うどん用なのだろういつもよりも大きめの普通一人前サイズのお椀も取り出しながら何故かドヤ顔になる。
「任せて! 甘いものは別腹だから大丈夫なんです!」
「何だよそれ。でもまあ、それなら好きにしてくれ。ああ、鍋焼きうどんはシルヴァ達にお供えするからちょっと待ってくれよな」
そう言って、ご希望のおにぎりを二個、俺が取った分をそのままお皿に並べてやる。なのでおにぎりは俺用にさっきのをもう一個ずつ改めて取ったよ。
それから、俺の分の鍋焼きうどんとおにぎり、大根とにんじんの塩揉みをいつもの簡易祭壇に並べた。
「お待たせしました。夕食は鍋焼きうどんだよ。これはよく作ってる鍋料理と並んで、寒い季節になると食べたくなるメニューなんだ。肉巻きおにぎりと三色そぼろにぎりも一緒にどうぞ」
手を合わせてそう言うと、いつもの収めの手が現れて俺の頭を何度も撫でてから、おにぎりと付け合わせを何度も撫で、鍋焼きうどんを撫で回してお鍋ごと持ち上げる振りをしてから消えていった。
鍋敷きごと自分の席へ鍋焼きうどんの鍋を持って戻り、他のお皿も祭壇から下げて席についた。
「お待たせしました。どうぞ食べてくれよな」
全員俺が席に着くのを待っていてくれて、俺の言葉に笑って頷き揃って手を合わせてから食べ始めた。
「で、うどんはここに入れたらいいんだな」
待ち構えていたシャムエル様から大きめのお椀を受け取り、お箸でうどんをゆっくりと掴んでお椀に移していく。
甘辛く炊いた牛肉や蒲鉾やネギなどの具を一通りたっぷりと入れてやり、きつね上げはそのまま一枚丸ごと、かき揚げも一塊丸ごと乗せてやる。
こうなるだろうと予想して、俺の分はきつねあげとかき揚げは二個ずつ乗せておいたんだよ。さっきの俺、グッジョブだよ。
それから、ちょうどいい感じの半熟卵になってる月見は、そっとお箸で黄身の部分を半分になるようにうまく切って入れてやる。おにぎりにも玉子はたっぷり入ってるから、月見玉子は半分くらいあれば十分だよな。
「はい、お待たせしました。熱いから気をつけてな」
どんと目の前に置いてやると、ぴたりとステップが止まったシャムエル様がお椀を両手で抱き抱えるみたいにして大きく息を吸い込んだ。
「ふわあ。お出汁の良い香り〜〜では遠慮なくいっただっきま〜〜〜〜〜〜す!」
いつもの倍くらいに膨れた尻尾を振り回しつつ、嬉しそうに宣言したシャムエル様は、豪快にお椀に腕を突っ込んでうどんを引きずり出して齧り始めた。
「ふおお〜〜〜! これは美味しい、熱いけど美味しい! でも熱い!」
ご機嫌でそう叫んで、熱い熱いと言いつつも、牛肉も掴んで引っ張り出して齧り始めた。
「肉食リス再び。だな」
笑った俺もかなり減って一人前サイズになった鍋焼きうどんを食べ始めた。
「ううん、このお出汁は屋台で買ったのをそのまま使ったんだけど、さすがはプロだな。めちゃめちゃ美味しいじゃん」
感心したようにそう呟き、あとはもう夢中になって大きめのスプーンでお出汁も時折すくいつつ、俺は久しぶりの懐かしい味を堪能したのだった。
もちろん、おにぎりや付け合わせにも大満足だったよ。
アーケル君は、この麺をすするのが上手く出来ないみたいで、途中で大きなスプーンに無理矢理麺をまとめて乗せて苦労しながら食べていた。なので途中で俺は料理用に使っているハサミを取り出して、アーケル君の鍋のうどんを短く切ってやった。
ランドルさんは当然のようにお箸で食べているし、リナさんとアルデアさんもスプーンを使ってはいるけど、普通にうどんをすすって食べている。
「ありがとうございます。俺、このお出汁の味は大好きなんですけど、麺を吸い込むのは上手く出来ないんですよね」
切ってやったうどんをスプーンですくって食べていたアーケル君が、申し訳なさそうにそう言って謝る。
「気にしなくていいよ。こんなの慣れだし、食べたら一緒だって」
笑ってそう言いながら顔の前で手を振り、席に戻って残りのうどんとおにぎりを美味しくいただいたよ。
「ご馳走様でした!」
「いやあ、美味しかったなあ」
あちこちから聞こえる美味しかったの声にちょっと嬉しくなりつつ、俺はすっかり空になったお鍋を回収する。少し鍋に残っていたお出汁は、スライム達が一瞬で綺麗にしてくれたよ。
「ええと、じゃあどうする? デザートは食べられるか? 無理なら日を改めるけど?」
「何を言ってる。
もちろん頂くさ」
「俺も食べます!」
アーケル君とハスフェルの声が重なった瞬間、アーケル君が勢いよく手を挙げ、全員がそれにつづいた。
正直、もう俺はデザート無しでもいいんだけど、俺以外の全員はデザートを待っていたみたいなので、とりあえずひと通り出してやる事にしたのだった。
さて、スイーツ男子達の反応やいかに?